第21話 走れ、むちむち僧侶ちゃん!
チョベリバ城の地下から超巨大な伝説のモンスター、ミスリルゴーレムが復活して10分後の首都の北側にて。
俺と少年剣士シュートは、城に向かって直進する我が相棒である僧侶アレスのあとを必死に追いかけていた。
「ヒィヒィッ!? あ、アレスさん速すぎ!? さ、流石は獣人、人間族とスペックが違い過ぎる……ッ!?」
「なんでアイツ本職の盗賊より足が速いんだよ!? ちょっと凹むぞ!?」
盗賊としてのプライドが若干傷つきながらも、先を走るアレスへと視線をよこす。
アレスは放たれた獣のように大地をしっかり蹴り上げ加速し続ける。
そう言えば僧侶に転職する前の戦士時代も、バカ重い全身鎧を身に纏っているクセに俺と同じ速度で走っていたっけアイツ?
なるほど、鎧がなくなった分身軽になってスピードが上がったと。……マジで立つ瀬ないな、俺?
「うわぁぁ、うわぁぁぁ~~っ!? もうミスリスゴーレムが目と鼻の先にぃぃ~~っ!?」
「おいアレスッ! このまま突っ込む気か!?」
俺の声すら届いていないのか、アレスはミスリルゴーレムの足元へと接近していく。
逃げ惑う人々の流れに逆らうように走るアレスの姿はミスリルゴーレムの目に届いたらしく、ゴーレムはその巨大な拳をゆっくりと振り上げ――ヤバイッ!?
「あ、アレスさん逃げて!? アレスさぁぁぁ~~んっ!?」
「チッ、しょうがねぇなぁ!」
叫ぶ少年剣士を横目に、俺は身体に刻まれた【力】を解放しようと全身に力をこめ――瞬間、ミスリルゴーレムの頭部が激しく爆発した。
「うぉっ!? 今度はなんだ!?」
「ヤバい、ダルさん! アレスさんが潰れる!?」
爆発の衝撃でグラリッ! と体勢を崩したミスリルゴーレムが、アレスの身体を押しつぶすようにゆっくりと倒れ始め――チクショウッ!
「俺の身体よ、今だけ羽より軽くなれぇぇぇぇ~~~っっ!」
盗賊スキル『加速』発動ッ!
刹那、俺は先ほどの4倍のスピードで大地を駆け抜け……アレスの身体をガッチリキャッチしながら駆け抜けていく。
一拍遅れてドォォォンッ! という轟音と共にアレスが居た場所にミスリルゴーレムが倒れてきた。
「あっぶねぇ~っ!? 間一髪じゃねぇか!」
「……ッ!? ………ッッ!!」
「あっ、コラ!? 暴れるなアレス!? とりあえず落ち着けっ!」
俺の腕の中でジタバタと暴れるメス犬僧侶の額をペチンッ! と叩く。
瞬間「あうぅっ!?」と小さく呻き、すぐさま『ハッ!?』とした表情でキョロキョロと辺りを見渡し始めた。
「……あ、あれ? ダルくん? ここは一体……?」
「やっと正気に戻ったか」
アレスの身体を解放しながらギチリッ! と軋む両足の痛みを無視して立ち上がる。
『加速』スキルは身体に負担がかかるから、1日1回が限界なのだ。
もう『加速』スキル使えねぇよ……大事な切り札の1つだったのに。
「……ッ!? そ、そうだ! お城っ!? ミスリルゴーレムッ!?」
「だから落ち着けって。よく見ろ! お城は少し壊れちゃいるが、結界魔法のおかげで大部分は無事だ! たぶん中の奴らも大丈夫っ!」
「……あっ、ホントだ」
俺に言われてようやく気がついたのか、アレスは『ホッ』と盛大に安堵の吐息を溢しながら逆立てていた獣耳とシッポを元に戻した。
普段は冷静沈着なアレスがこんなに取り乱すとは……お城に何かあるのか?
いや、今は余計なことを考える前に早くこの場を離脱しなければ!
いつまたミスリルゴーレムが暴れはじめるか分かったモノじゃない。
「ヤッベ、少年剣士を向こう側に置いてきちまったけど大丈夫かな?」
「……ダルくん、アレ見て! アレッ!」
俺が少年剣士の安否を心配していると、アレスが倒れているミスリルゴーレムの方を指さした。
アレ? と俺は言われた通りミスリルゴーレムの方へと視線を滑らせ……ゴーレムの目元付近でフヨフヨと空中に浮かび、戦槌のような刀を構える1人の漆黒の冒険者の姿を発見する。――って、アイツは!?
「んなっ!? なんでアイツがここに!?」
少年剣士の声が嫌悪と苛立ちに歪む。
俺たちの視線の先そこには、先ほどまで少年剣士の元パーティーメンバーと創聖合体を楽しんでいた――
「勇者アサヒッ!」
「……い、いつの間に……」
「みなさ~ん! もう大丈夫ですよぉ~っ! この勇者アサヒがやって来た以上、ゴーレムの好きにはさせません!」
勇者アサヒはやや芝居がかった声音で逃げ惑う人々に大きくそう宣言しながら【天剣】モドキを天高く構える。
すると地鳴りのような歓声が首都を揺らした。
「勇者だ、勇者様がきてくれたぞぉぉ~~っ!」
「やった、これで助かる! 助かるんだぁぁぁ~~っっ!」
「そんなデカブツ、はやく倒してくだせぇ勇者様ぁぁぁぁ~~~っっ!」
逃げ惑っていた人々の足が止まり『勇者っ! 勇者っ!』と盛大に声を荒げる。
バカッ!? 応援する前に早く逃げろ!?
死ぬぞ、マジで!?
というか勇者もなんで空に浮いているんだ!?
魔法か、スキルか!?
アイツ、レベル『5』のクセにどんだけ強スキルと魔法を持っているんだよ!?
あんな存在アリか!?
「あっ! でも【物理無効】のスキルを持っている勇者なら、ミスリルゴーレムの攻撃も効かないのか!? もしかしてアイツ、この世界で唯一ミスリルゴーレム討伐に特化した存在なんじゃねぇの!?」
なによりミスリルゴーレムに尻もちをつかせるだけの超火力を持った【天剣】モドキ爆砕刀がある。
アレを上手く使えば本当にミスリルゴーレムを討伐することも可能じゃ!?
なんてことを考えていると、アレスが珍しく声を荒げて空に浮かぶ勇者アサヒに言葉を紡いだ。
「……今のうちに早くっ! 早く追撃をっ!」
「んっ? おぉっ、アレスッ! そんな所でナニしてんだ? 危ねぇぞ? 離れてろ」
「……そんなことより早く追撃をっ! じゃないと適応される!」
適応される?
何が? と俺が口を開くよりも速く、倒れていたミスリルゴーレムの身体が青白く光り輝いた。
ソレを見てアレスが下唇を噛みしめて「……遅かったか」と忌々し気に小さく呟いた。
「遅かった? なに言ってんだアレス?」
「……もうこれで勇者の【天剣】モドキはミスリルゴーレムに効かなくなった」
「へっ? な、なんで?」
「……ミスリルゴーレムの能力は『あらゆるスキルの無効化』と『適応』、さっき青白く光ったのは勇者の【天剣】モドキに身体が適応したっていう証明。だからもう【天剣】モドキの攻撃は通じない」
「な、なんじゃあそりゃぁぁぁ~~~っ!?」
ゆっくりと立ち上がり勇者アサヒを睨みつけるミスリルゴーレムを横目に、俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
ゆ、勇者も規格外なら伝説のモンスターも規格外ってか!?
『適応』って、とんでもねぇ能力じゃねぇか!
つまりコチラの攻撃力はどんどん半減されていき、最終的には一切通じなくなるって事だろ!?
「じゃ、弱点とかないのかよ!?」
「……コチラの攻撃が『適応』されるまで数十秒のインターバルがある。その間に仕留めるしかない。もしくはスキルよりも『上』の力を使う」
「スキルよりも『上』って、まさか……」
アレスが真っ直ぐ俺を見つめながらコクンと頷く。
どうやらそういう事らしい。
マジかよ……なら実質アレを倒せるのは神か、もしくは――
「ダルさーんっ! アレスさーんっ! 大丈夫ですかぁぁぁ~~~っ!?」
「しょ、少年っ!? お前、逃げなかったのか!?」
「おふたりを置いて逃げられるワケないでしょうがっ!」
様々な道を迂回してきた少年剣士シュートが、息を切らせながら俺とアレスのもとへと駆け寄ってくる。
ば、バカ野郎がっ! 俺達なんか放っておいて早く避難すればいいものを!?
少年剣士は「ひぃぃぃ~~っ!? 死ぬぅぅぅ~~っ!? 怖ぇぇぇ~~っ!?」と悲鳴をあげながら、空に浮かぶ勇者アサヒを一瞥した。
「やっぱあれ勇者っすよね!? ということはクラリスたちも一緒にっ!?」
「いや、見た感じ1人っぽいぞ」
「……スキル『ホーリーシールド』ッ!」
寝取られた幼馴染みたちの姿が戦場に見えないことに『ほっ』と安堵の吐息を溢す少年剣士。
そんな少年剣士と俺達を守るように、アレスの持っていた杖が光り輝くとドーム状の光の壁が周辺に展開された。
僧侶スキル『ホーリーシールド』、ある一定のダメージまで物理攻撃を防ぐ光の防御壁だ。
「……気休めにもならないけどね」
「いえ、頼もしいですアレスさんっ!」
「見ろ、ゴーレムが動くぞ!」
勇者アレスと相対していたミスリルゴーレムが天高く片手を振り上げる。
どうやら勇者を叩き落とすつもりらしい。
ヤバイ、ヤバい!?
ミスリルゴーレムって『あらゆるスキルを無効化する』力を持ってんだろ!?
ということは勇者の【物理無効】も無効化される可能性が高いよな!?
いやそれ以前に【天剣】モドキがもう通じない以上、あれ以上の攻撃力を誇る魔法か何か持ってんのかアイツ!?
なんか凄い嫌な予感がする!
「逃げろ勇者っ! 死ぬ気で逃げろぉぉぉ~~~っ!」
「勇者は逃げんっ!」
ドンッ! と俺の忠告を無視して勇者アサヒは余裕綽々の様子でミスリルゴーレムの出方を窺っていた。
「来い、ミスリルゴーレムッ! 格の違いを見せてやる!」
「GAAAAAAAAAAAAAAA―――――ッッ!!」
勇者の挑発に乗るようにミスリルゴーレムは雄叫びを上げながら、ブンッ! と片手を振り下ろした。
勢いよく振り下ろされた片手は大気の壁をバリバリと切り裂きながら物凄い勢いで勇者アサヒに接近していき、
「無駄だっ! あらゆる物理攻撃は俺の前では全て無力であぶるしぇるしふぁぁぁぁぁぁ~~~っ!?」
――チュドンッ!
首都全域に響き渡るような謎の悲鳴をあげながら、勇者アサヒはミスリルゴーレムの一撃を前にハエの如く地面へと叩き落とされた。




