第22話 冒険者ダルの秘密 ~その2~
キメ顔を浮かべていた勇者アサヒがアッサリとミスリルゴーレムに叩き落とされた。
その瞬間、音速を越えて地面に叩きつけられた衝撃がソニックウェーブと共に俺達の身体へと襲いかかってきた。
「全員、対ショック体勢ぇぇぇぇ~~っっ!」
「うわぁぁぁぁ~~~~~っ!? お母ちゃぁぁぁぁぁ~~~~ん!?」
「……くぅぅっ!? ほ、『ホーリーシールド』ッ!『ホーリーシールド』ッ!」
半泣きの少年剣士シュートの悲鳴と共にアレスが何度も光の壁を召喚する。
が、ソニックウェーブの衝撃はコチラの想定を遥かに上回るほど強烈で、召喚すると同時にすぐさま破壊される。
それでもアレスは気合いと根性で何度も『ホーリーシールド』を唱え続ける。
まるで永遠に感じるほど長い一瞬が終わると、アレスの身体がグラリッ! と揺れた。
「あ、アレスさん!?」
「アレスっ!」
アレスの身体が地面へとぶつかる寸前、なんとかその華奢な腰を抱きしめることに成功する。
アレスの身体は無茶なスキルの連続使用のせいかアツアツに火照っていて、なんかちょっとエロかっ――バカ野郎!?
必死に俺達を守ってくれた相棒になんてことを考えているんだ、俺は!?
恥を知れ、恥をっ!
俺は胸に芽生えた特殊性癖の目覚めを必死に握りつぶすように、腕の中でグッタリとする我が相棒僧侶に声をかけた。
「だ、大丈夫かアレスっ!? 生きてるか、おい!?」
「……だ、大丈夫ぅ~。ちゃんと生きてるよぉ~」
「よ、よかったぁ~」
『ホッ』と心の底から安堵の吐息を溢す。
アレスは「えへへ……」と力なく小さく笑いながら、俺の身体に体重を預けてくる。
その姿が妙に扇情的で……クッソ!? ちょっと勃起しちゃった!
「……少し無茶し過ぎちゃったよ」
「急に倒れるからマジで心配したぞ。でもおかげで助かった! ありがとう!」
「……どういたしまして。……ところでダルくん、背中にコリコリした硬いモノが当たっているんだけど、コレは?」
「気にすんな。ちょっとした名誉の負傷だ」
俺はさりげなく股間のポジショニングを変えながら爽やかな笑みを浮かべる。
昨日アレだけ搾り取られたというのに、我が息子は今日も元気いっぱいである。
そんな俺を尻目に、少年剣士シュートが汗だくの色っぽいアレスを見下ろしながら「ごくりっ!」と生唾を飲み込んだ。
「な、なんか今のアレスさん凄く色っぽいというか……ぶっちゃけ滅茶苦茶エロ――ぐぁぁあっ!? な、なにするんですかダルさん!?」
「人のカノジョをエロい目で見るんじゃねぇ!」
ゴチンッ! と少年剣士の頭に鉄拳を叩きこむ。
まったく、人の恋人をエロ目で見るとはっ! なんてけしからんマセガキなんだ!
そんなんだから幼馴染みの女の子たちを勇者に寝取られるんだぞ!? ――って、あっ!? そうだ!
「勇者はっ!? 勇者はどうなった!?」
「ハッ!? そう言えばそうでした!?」
俺と少年剣士は慌てて街中を見渡し……先ほどのソニックウェーブでボロボロになった家屋や道路に顔をしかめた。
「こ、これは酷ぇ……」
「に、逃げ遅れた人達の身体がバラバラになって……おえっ!?」
少年剣士は口元を押さえてえずき出す。
もう『どうした、つわりか?』とか冗談すら言えない。
それくらい酷い光景が俺達の前に広がっていた。
「チッ……クソったれめ。だから早く逃げればよかったのに!」
俺達の視線の先、そこには先ほどまでその場に留まり盛大に勇者を応援していた共和国民の死体がゴロゴロと転がっており……クソっ!
「――ブハッ!? な、なんでっ!? なんで叩かれただけでダメージが!? オレの【物理無効】が効いてないのか!? ゴホッ!」
なんとも直視しがたい光景を前に顔を歪めていると、10メートルサイズの巨大な穴の中から勇者アサヒが顔中血まみれのまま這い上がってくる姿が目に飛び込んできた。
生きてたっ! 勇者の野郎、生きてたぞオイ!
マジか、あの攻撃を前にしてよく生きてたもんだ!
「クソ、クソクソクソぉぉぉぉ~~~っ!? 許さん、許さんぞ! このデカブツがぁぁぁぁ~~~っ!?」
勇者アサヒは憎しみの籠った視線でミスリルゴーレムを睨みつけると、
――シュバッ!
と物凄い勢いでゴーレムの頭部めがけて飛んで行った。
「【天剣】よ、爆砕刀よ! お前に意思があるのなら、オレに力を貸してくれぇぇぇぇ~~~っ!!」
勇者アサヒは【天剣】モドキを大きく振りかぶると、ミスリルゴーレムの頭部めがけて全力で振り下ろした。
おそらく今持てる勇者の全力全開の攻撃。
ドォォォンっ! と盛大に大気の爆ぜる音と共にミスリルゴーレムの頭部から黒煙がモクモクと上がる。
ソレを見て勇者がニヤリッ! と笑みを溢す。
「よし、やった――ぐぁっ!?」
「GAAAAAAAAAAAAAA――――ッッ!!」
刹那、ミスリルゴーレムの手が完全に油断した勇者アサヒの身体を捉えた。
ミスリルゴーレムの頭部には一切の傷がついておらず……おいおい、マジかよ?
「そ、そんなっ!? さっきは確かにダメージをグァァァァ~~~~っっ!?」
ベキベキベキッ!? と勇者の身体から嫌な音が響き渡る。
うっわ、骨折れてないアレ!? 大丈夫!?
「だ、ダルさん!? 勇者がっ!? 勇者が!? ……いい気味だなオイ(ボソッ)」
「本音が漏れてるぞ少年?」
断末魔の悲鳴をあげる勇者アサヒを仄暗い笑みを浮かべて見守る少年剣士シュート。
その顔はかなりスッキリした表情で……まぁ幼馴染みの女の子たちを寝取った男の悲鳴は格別に気持ちいいだろうなぁ。気持ちは分からなくもない。
でもあのまま放っておいたら勇者のヤツ、確実に死んじゃうよな?
それになによりミスリルゴーレムをこれ以上放っておくのは、街の被害が……というか国1つ滅びかねない。
仕方がない……【奥の手】を使うか。
「……ダルくん、お願いがあるの」
「分かってる、心配すんな。あとは俺が何とかする」
「……うん、ありがとう」
俺は力なく微笑むアレスの身体を地面に横たえながら、スクッ! と立ち上がる。
前回使用したのがサイクロプス討伐以来だから、ざっと1週間ちょいって所か。
身体の負担を考えると、せいぜい5分がいい所だな。
「少年、アレスを頼むぞ」
「頼むって……ちょっ!? ど、何処か行く気ですかダルさん!?」
「おう。ちょっくらあのデカブツをぶっ殺してくる」
「ぶっ殺すって……む、無理ですよ!? ムリムリッ!? 盗賊のダルさんが殺れる相手じゃありませんってば!?」
死んじゃいますよ!? と声を荒げる少年剣士を無視してグルグルと肩を回す。
うん、身体の調子は悪くない。
「ダルさんも見てたでしょ!? 勇者の【天剣】でも歯が立たないバケモノですよ!? あの最強の【天剣】すら効かないバケモノに勝てる者なんて、もはやおとぎ話に出てくる巨神族しか……っ!?」
「ならイケるな」
「正気ですか!? 頭おかしくなっちゃったんですか!?」
「いいか少年、特別に【天剣】の秘密を教えてやろう」
「はっ!? えっ!? て、【天剣】の秘密!?」
急にどうしたんすか!? と焦りやら恐怖やら心配やらで感情がグチャグチャになっている少年剣士に、俺は言葉を重ねた。
「勇者が持っている【天剣】なんだがな、アレ偽物だぞ」
「な、なんでそんなこと言えるんですか!?」
「理由か? 理由はな――【天剣】は俺が持っているからだ」
「……はい?」
「いや、正確には俺の血に宿っていると言った方がいいか」
「だ、ダルさん? 一体ナニを言って……?」
「【天剣】って言うのはな、巨神族が持つ権能の1つなんだ」
権能――それは魔法やスキルを超越した神の力。
その力は一振りで大地を作り、新たな生命すら創造してしまう神秘を越えた神秘の力。
あるときは事象を断ち切り、あるときは運命すら捻じ曲げる。
この世を創世した神族にしか許されない絶対の能力。
その力を人の身でありながら行使できる一族が居た。
「それが巨神族と呼ばれる一族であり……俺のご先祖様だ」
「ちょっ!? ちょちょちょっ!? ま、待ってくださいダルさん!? 本当にナニ言ってんすか!? 理不尽な現実を前にトチ狂っちゃったんすか!?」
「狂ってねぇよ。ぜぇ~んぶ本当のことだよ。俺はこの世界で最後の巨神族の末裔だ」
俺は掌を天高く構える。
刹那、身体中の血液が沸騰したように暴れ出す。
ソレを意思の力で統率しながら、煮えたぎったマグマのように熱い吐息を小さく吐き出した。
「フゥゥ~~……よし。よく見とけ少年? これがお前の探し求めていた本物の【天剣】だ」
俺はこの身に宿る神の力を解放するべく、解号を口にした。
「――嗤え、サンダルフォン」




