第19話 ネトラレは脳破壊が基本だよね♪
「シュート。ごめんね? もうアタシたち、シュートと一緒に行動したくない。これからはアサヒ様と一緒に行動していく。だからアタシたち、ここでお別れ」
「……はいっ?」
何を言われているのか分からないとばかりに瞳をパチクリさせる少年剣士。
あ、アカン!?
すごい嫌な予感がする!? すごい嫌な予感がするよ!?
魔法使いクラリスは固まっている少年剣士を無視して、ユリカさんに視線を移してそのサクラの蕾のような唇を震わせた。
「そういうワケで受付さん、アタシたち3人はシュートのパーティーを離脱してアサヒ様のパーティーに加入します。申請の方はよろしくお願いしますね?」
「え、えっと……あ、アサヒさんはソレでよろしいのですか?」
「オレは構わないよ。なんやかんやでこの4人で動くのも楽しかったしね」
一緒に居たいというのなら是非もない、とばかりにユリカさんに向かってコクンッ! と頷く勇者アサヒ。
パーティーリーダーである勇者が了承している以上、断ることは出来ない。
ユリカさんは「わ、わかりました。ではその通りに申請致します」と苦笑を浮かべながらパーティー申請と離脱の書類を作成するべく、手元へと視線を落とし――
「ちょ、ちょっと待ってくれ!? そんな勝手な言い分、許すワケないだろう!? ふざけんな!?」
少年剣士が声を荒げてその場でダンダンダンダンッ! と床を踏み抜いた。
そんな少年剣士に魔法使いクラリスはかつて見たことがないほど冷ややかな瞳で一瞥しながら、
「勝手なのはどっちよ。アタシたちの反対を押し切ってサイクロプスの縄張りに突入した挙句、討伐失敗してギルドの信用を失っただけじゃなく、アサヒ様に勝手に決闘を申し込んでボロ負けして仲間を売ったクソ野郎はアンタじゃない」
「んなっ!? う、売ってない!? お前らを勇者の野郎なんかには売ってなんかは――」
「結果的に売ったようなモノなのよ。アタシたち、言ったわよね? アサヒ様には手を出さない方がイイって? それなのにコッチの忠告を無視して【天剣】が欲しいからって決闘の神の名前まで持ち出して……今までシュートのワガママには目を瞑ってきたけど、もう我慢できない」
ほとほと愛想が尽きたわ、と愛していた男に向ける瞳とは思えないゴミを見るような視線で冷たくそう言い放つ魔法使いクラリス。
今までのお茶目な言い争いとは違う、正真正銘の敵意と嫌悪が混ざった言葉に少年剣士は二の句が継げなくなる。
こ、これはキツい……。
並みの男なら心が壊れているところだ。
「自分自分自分自分って、シュートはいっつもそうだった。自分のことしか考えていない、自分のことしか目に入ってない。そんなナルシスト予備軍に付き合うのは、もうアタシもユウトもルルもコリゴリなの! そんなに自分の夢が大切なら1人で勝手にすればいい。アタシたちも勝手にするから」
「く、クラリス……? な、なんでそんな酷いことを言うのさ……? お、オレたち仲間じゃ――」
「もう仲間じゃない」
ピシャリッ! と言い放ち、コレ以上の対話を拒絶するように少年剣士から顔を背ける魔法使いクラリス。
おそらくこんな彼女を見るのは初めてだったのだろう。
少年剣士はオロオロと狼狽するばかりだ。
「話は纏まった? じゃあ悪いけどオレたち疲れてるから部屋でちょっと休ませて貰うわ。またねアレス? 行こうか、みんな」
「「「はいぃぃぃ~~っっ❤❤❤」」」
我が相棒にフリフリ手を振りながら、瞳にハートマークを浮かべる少女たちと共に2階の宿泊施設へと移動して行く勇者アサヒ。
少年剣士は勇者アサヒの身体にベッタリ❤ とくっつきながら、シズシズと階段を上がって行く仲間だった彼女たちの後ろ姿を棒立ちで見送る。
こ、これは……惨い。
「な、なんて声をかけたらいいでしょうか?」
「……さぁ?」
目の前で勇者に仲間を掠め取られる少年剣士になんて声をかけたらいいのか分からず、ユリカさんが助けを求めるようにアレスに視線を送る。
が、アレスも困ったように眉根をハの字にして肩を竦めるばかりである。
まぁ気持ちは分かる。なんせ仲間の制止を振り切って勇者と勝負した挙句、盛大に惨敗して仲間を奪われた間抜けになんて声をかければいいのですかって話ですよ。
正直に言って完全に自業自得ですわな。
たぶんクラリスもユウトもルルも、口には出していないがすっごい不満が溜まっていたんだろうなぁ。
その不満が勇者との決闘を機に爆発してしまったと。
うん……マジで自業自得だわ、少年。
「~~~~~~ッッ!!」
「あっ、少年!? 何処へ行く!?」
突然立ち尽くしていた少年剣士がダッ! と2階へ続く階段を駆け上がっていく。
そのまま勇者たちが消えて行った部屋の方へと走って行き、
「……あの子、クラリスたちを追いかける気だ」
「お、俺達も追いかけるぞアレスッ! なんかすごく嫌な予感するっ!」
「……んっ」
了解、と頷くアレスと共に慌てて少年剣士のあとを追いかけるように2階へと駆け上がる。
そのまま宿泊施設となっている冒険者ギルドの2階をキョロキョロと見渡し、
「あっ、居た! 少年、居たっ!」
とある部屋の前で両膝をついて立ち止まる少年剣士を発見した。
よかった、最悪の事態は免れたようだ!
俺は少年剣士の方へと小走りで近づこうとして、何故かアレスに制止をかけられた。
「……待ってダルくん。なにか様子がおかしいよ?」
「様子? 少年剣士の?」
うん、と頷くアレスの視線を追うように少年剣士の顔へと意識を向け――うわっ!? なんだあの顔!?
完全に血の気が引けているじゃないか!? もうお顔が真っ青! いや真っ白!
その瞳からはハイライトが完全に消えており、おいおいおいおい?
「今にも死にそうな顔をしているじゃないか、アイツ? 一体俺達が目を離した隙に何があったんだよ?」
「……あの子、なにか見てるよダルくん」
アレスの指摘通り、少年剣士は少しだけ開いた扉の隙間から部屋の中を瞳孔ガン開きのままマジマジと凝視していた。
い、一体あの部屋の中にナニがあるっていうんだ?
「と、とりあえず近づいてみようぜ?」
「……うん、わかった」
俺とアレスは慎重に1歩ずつ少年剣士との距離を縮めながら、部屋の前まで移動し――
「――あんっ❤ あ、アサヒ様だめぇぇぇ~~~っっ❤❤ そこパンパンされるの弱いのぉぉぉ~~~っっ❤❤❤」
瞬間、女性の喘ぐような甘い声が俺とアレスの耳朶を叩いた。
おっとぉ?
これはぁ~? まさかぁ~?
「……だ、ダルくん。これって……?」
「い、いやまだだ! まだそうと決まったワケじゃない!」
俺は蕩けるような声をあげる女の子の声を切り裂くように、少年剣士の居る扉の前まで移動し、少年の上から少しだけ開いている扉の隙間へと視線をやった。
――そこには勇者アサヒの股間の上で必死に腰を振る魔法使いの少女クラリスの姿があった。




