第18話 ナマイキ少年剣士、勇者にパーティーを奪われる
我が恋人アレスと共に、かなり奮発してアレスパパとママへのご挨拶用の高級羊羹を購入して一夜明けた翌朝の冒険者ギルドにて。
時刻は午前9時少し前。
クエストボートに貼られていた依頼がはけ、受付がヒマになる時間帯をあえて狙ってギルドへとやってくるなり、受付嬢のユリカさんが厄介冒険者に絡まれていた。
「で、ですからね? シュート様は現在レベル『12』のため、討伐推定レベル『20』であるジェネラルオークをソロで討伐するのは危険なんですっ! そんな危険をギルドは容認できません! なので依頼受付を拒否されて貰っています!」
「それはソロの話だろ!? オレたちはパーティーを組んでいるから大丈夫だって言ってるじゃん!」
「そのパーティーメンバーが見当たらない以上、いくら駄々をこねられてもギルドとしては了承しかねます!」
「だからそれは勇者にパーティーメンバーを一晩だけ預けていて、もうすぐ帰ってくる頃なんだよ!」
「でしたらパーティーメンバーが帰ってきてからもう1度受付までお越しください」
「それだと時間がかかるだろ!? 話の分かんねぇ人だなぁっ!?」
「なんだアレ?」
「……なんだか揉めてるね?」
今度こそサイクロプス討伐証明書を発行して貰うべくギルドへと足を向けると、我らが男性冒険者のアイドルである受付嬢のユリカさんが青髪の少年冒険者に粘着されている光景が飛び込んでくる。
おいおい? ベテラン冒険者共は全員冒険に出かけているからあんなデカい顔しても大丈夫でいられるが、居たらアイツ血祭りに上げられていたぞ?
まったく、ユリカさん相手になんて舐めた口を叩く野郎だ。
どこのバカ冒険者だ? とせっかくなので顔を見てやろうとアレスと共にツカツカと近づき、気づく。
おや? この生意気そうな青髪の少年は――
「昨日勇者に盛大に負けた少年剣士じゃないかっ!」
「負けてないっ! アイツが卑怯なスキルを使って――って、なんだダルかよ」
「『さん』をつけろや、デコ助野郎」
笑顔で中指を勃起させながら、新品の皮鎧を身に纏う少年剣士を押し退ける。
途端に少年剣士が「なにすんだよ!?」と烈火のごとく怒り狂い噛みついてきた。
「お~お~、荒れてんねぇ少年? でも誰彼構わず噛みつくのはやめた方がいいぞ? そのせいで昨日は痛い目を見たワケだしな」
「うるせぇっ! 黙ってろダル! というか今はオレが受付の姉ちゃんと話している最中だろうが! 横入りすんな!?」
「その受付のユリカさんが困っているから間に入ったんじゃねぇか」
まぁまぁ落ち着けよ? と少年剣士の肩をポンポンッ! と軽く叩き、
――べしっ!
と片手で振り払われる。
「触んな童貞っ!」
「こんのクソガキ♪」
「……おはようユリカ。なにかあった?」
「アレスさんっ! 丁度よかったです、アレスさんからもシュートさんに言ってあげてください。ソロでジェネラルオークを討伐するのは危険だと!」
パァァァッ! と顔を輝かせながら、俺には見せたことない笑顔でアレスに助けを求めるユリカさん。……いやまぁ別にいいんだけどね?
「なんだ少年、ジェネラルオークを討伐したいの? 悪いことは言わん、レベルが足りんから出直してこい」
「……ソロで倒したいなら最低でもレベル『25』は欲しい」
「だからソロじゃねぇって言ってんだろ!? もうすぐオレの仲間が来るハズなんだ!」
ユリカさんに向いていた敵意の視線が、今度は俺とアレスに突き刺さる。
おいおい? 喧嘩の相手が違うだろクソガキ?
よほど昨日の負けが効いているのか、周りがまったく見えちゃいねぇ。
こんな状態でクエストに出かけたら死ぬぞ、マジで?
「なら仲間が来てから依頼を受けろよ。お前が無駄に依頼書を独占しているせいで、誰もその依頼を受けられなかったじゃねぇか」
「……そもそもパーティーメンバーのレベルは大丈夫なの? ジェネラルオークを討伐したいなら最低でも平均レベル『18』は欲しいけど」
「き、気合いと根性があればレベル差なんてどうにかなる!」
グッ! と拳を握りしめながら夢と希望にあふれた言葉を口にする少年剣士。
その言い分に何か嫌な予感を感じた俺とアレスは、ユリカさんに視線だけで『実際の所どうなんです?』と尋ねると、ユリカさんは何とも言えない表情でフルフルと首を横に振った。
「シュートさんの3人のパーティーメンバーの平均レベルは『9』です」
「あちゃ~、こりゃムリ☆ 気合いと根性じゃどうにもならん」
「……諦めた方がいい」
「だ、大丈夫だ! あの勇者だってレベル『5』のクセにレベル『12』の俺に勝ったんだぞ!? アイツに出来てオレに出来ないワケがねぇっ!」
コチラの言い分をまったく聞こうとしない少年剣士が「いいから早く承認しろっ!」とユリカさんに詰め寄る。
どうやら昨日の勇者との決闘で敗北した結果、レベルを軽視しているらしい。
確かにこの世はレベルが全てではない。
レベルが高い者でも相性によっては格下に負けることがあるだろう。
でもだからと言って軽視していい話でもない。
だがソレを口で説明しようにも、今の周りが見えていない少年剣士が聞き入れてくれるハズもないだろうし……。
う~ん? とアレスと共にどう少年を説得しようか頭を悩ませていると、背後から妙にスッキリした男の声が俺達の耳朶を叩いた。
「おっ、アレスじゃないか! おはよう、こんな場所で奇遇だな?」
「~~~~~ッッ!? ゆ、勇者…アサヒッ!?」
俺とアレスが2人揃って振り返ると、そこには実に爽やかな笑みを浮かべた勇者アサヒがコチラに向かって歩いて来る姿が飛び込んできた。
瞬間、間髪入れず親でも殺されたような瞳で勇者アサヒを鋭く睨む少年剣士。
その様子は今にも勇者に飛びかかっていきそうなくらい危うくて……落ち着け少年? ここで暴れたらマジで冒険者資格を剥奪されるぞ?
「どうどう? 落ち着け少年? これでお仲間も帰ってくることだし、依頼を……あれ?」
俺は勇者アサヒの背後に居る少年剣士の仲間である魔法使いクラリス と武闘家の少女ルル、そして少年商人のユウトへと視線をよこし……うん? あれ?
なんか少年商人の代わりに知らない黒髪の美少女が居るんだけど?
誰、あれ?
「居た居た。約束通り一晩だけお仲間を預かったぞ。おかげで大切な所用が捗ったわ。あんがとな」
「お、おい待て? ユウトはどこへ行った?」
「??? ここに居るじゃないか」
そう言って勇者アサヒが黒髪美少女の身体をグイッ! と抱き寄せる。
途端に黒髪美少女はポッ! と頬を朱色に染め、身体をモジモジさせ始めた。
……なんというか身体中から『女』が匂い立っている気がしてならない。
「誰だよソイツ?」
「だからキミの仲間のユウトくんだよ」
「???」
少年剣士は勇者の言っている意味が分からず、頭の上に「???」を乱舞させる。
おそらく俺とアレスも同じ顔をしていたことだろう。
えっ、なに?
どういうこと?
教えて、偉い人!?
勇者アレスはそんなオレたちを愉快そうに一瞥しながら、その薄汚い口を震わせてハッキリとこう言った。
「うっかりオレの持っていた『性転換薬』をユウトくんが飲んじゃってね、女の子になっちゃった♪」
「「な、なにぃぃぃぃぃ~~~~~ッッ!?」」
少年剣士と共に腰が抜けるくらいその場で盛大に驚き慄く。
ま、まさか男の子なら1度は誰もが夢に見る『美少女になりたい♪』という夢を叶えるそんな素敵な薬がこの世に存在していただなんてっ!?
やはり世界は広いとしか言いようがない!
「せ、性転換薬……ですか? アレスさん、知っています?」
「……知ってる。かつて魔法が栄えていた古代にのみ存在していたと言われている幻の秘薬。ボクも実物は初めて見た」
「な、なるほど。そ、それじゃ今日からは『ユウトさん』じゃなくて『ユウコさん』と呼んだ方がよろしいでしょうか?」
「いやユリカさん、どちらかと言えば『ユウコさん』じゃなくてマン――」
「そ、そんな事より! ユウトは元に戻るのか!?」
俺の台詞を遮って少年剣士が勇者アサヒに詰め寄りグッ! と襟首を握りしめる。
勇者アサヒは「残念ながら今は手立てがない」と言って無念そうに首をフルフルと横に振った。
ソレを見て一瞬で沸騰した少年剣士がガバッ! と拳を振り上げ、
「やめてシュートッ! アサヒ様に乱暴なことはしないで!?」
ドンッ! と少年剣士の身体を魔法使いクラリスが力いっぱい両手で押した。
仲間の予期せぬ攻撃を前に、思わず少年剣士は勇者の襟釘からパッ! と手を離しヨロヨロと後ろに2歩ほど後退する。
「な、なにすんだよクラリスッ!? オレはただユウトの為に――ッ!?」
「……やっぱりアサヒ様の言う通りだった」
「はっ? なにがっ? というか勇者の野郎と距離が近くないか、お前ら?」
少年剣士の指摘通り、勇者と魔法使いクラリスの距離が近い。
いやクラリスだけではない。武闘家のルルも、少年……美少女商人のマン――ユウコも勇者アサヒにベッタリしているように見える。
その瞳は妙に熱っぽく、完全に勇者アサヒを信頼しているのが余所者の俺でも簡単に見てとれた。
信頼なんて生温い、3人の表情からは勇者に対しての崇拝に近いナニカを感じる。
あの表情には最近見覚えがあった。
というか昨日も見た。
あの顔は昨晩、ベッドの上で俺のソーセージを下のお口で美味しくモグモグしていたアレスと同じ表情をしていて……えっ?
ウソ? まさかこの勇者……?
「……どうしたのダルくん? お顔が真っ青だよ?」
「い、いや何でもない。きっと気のせいだろう、うんっ!」
「……???」
こてん? と不思議そうに小首を傾げるアレス。
そんなアレスの真横で俺は脳裏に浮かんだ残酷な妄想を打ち消すようにフルフルと首を横に振った。
そんな! まさか! ありえないよ!
だってアレスも言っていたじゃないか! あの魔法使いの女の子は少年剣士に惚れているってさ!
だからきっと俺のこの生粋の純愛厨が見たら発狂してしまう妄想は、全部勘違いに違いない!
そうだ、絶対勘違いに違いな――
「お、おいクラリス? ユウト? ルル? いつまで勇者なんかと一緒に居るんだよ? はやく戻ってこいよ、もう約束の一晩は終わっただろ? あっ、そうだ! この依頼書を見てくれ! ジェネラルオーク討伐依頼なんだか、コレを4人で――」
「シュート。ごめんね? もうアタシたち、シュートと一緒に行動したくない」
そんな俺の予想を裏切るように、少年剣士の『終わり』は唐突に始まった。




