第17話 ナマイキ少年剣士、勇者に『分からせ』られる
少年剣士の刀身が勇者の脳天を捉えた瞬間、バギンッ! と鈍い音を立てながら真っ二つに折れた。
その光景を前に、勝ちを確信していた少年剣士の顔に驚きの色が浮かび上がる。
「んなっ!?」
「あ~あ、安物の剣なんか使ってるから折れちゃったよ」
「――ッ!!」
そう言って反撃することなく、地面に転がる折れた刀身を見下ろす勇者アサヒ。
刹那、少年剣士は素早く勇者アサヒから距離を取り、折れた愛剣を地面に投げ捨てながら仲間である少年商人に声をかけた。
「ユウトッ! 替えの剣だ! はやくっ!」
「えっ……で、でも決闘中の手助けは禁止されて」
「オレは構わないよ」
余裕綽々の態度で『どうぞ?』とばかりに少年商人に微笑む勇者アサヒ。
勇者にそう言われては断ることも出来ず、少年商人はオロオロしながら「え、え~いっ!」と少年剣士に向かって予備の剣を放り投げた。
少年剣士はソレを片手で受け止め、素早く刀身を鞘から抜く。
「どうやら金属疲労で剣が折れちまったようだ。最近ドブ掃除ばかりでメンテナンスしてなかったからウッカリしてたぜ」
「御託はいいからかかってきな。それとも負けた時の言い訳でも聞いて欲しいのか?」
「余裕ぶっこいていられるのも今の内だぜ? テメェは今、たった1度の勝利へのチャンスを不意にした」
もうさっきのようなラッキーはない! と言って剣先を勇者に向け構え直す。
その光景を俺の隣で見ていた気前のいいオジサンが「金属疲労かぁ~」と呟いた。
「冒険者の兄ちゃんも災難だな。まさかこのタイミングで愛剣が金属疲労で折れるとは」
「まぁ剣のメンテナンスも実力の内だし、本当ならこの時点で勇者の勝ちなんだけどな。なっ、アレス?」
「……違う。アレは金属疲労で折れたんじゃない」
「「えっ?」」
俺とオジサンが呆けた声をあげてアレスの顔を見上げる。瞬間、心、重ねている。
アレスは驚いたように獣耳とシッポをピンッ! と逆立てながら勇者アレスを真っ直ぐ見つめていた。
アレス……?
どうしたんだよ、そんな怖い顔をして?
「次の一撃でキメる! スキル発動『一閃』ッ!」
俺が相棒の様子に困惑している間に、剣士スキルを使用した少年剣士の得物が淡く光り輝き出す。
剣士スキル『一閃』――強烈な踏み込みと共に放たれる高速の一文字斬り。
一筋の矢のように放たれた少年剣士の肉体が獣のように躍動し、無防備な勇者の胴を真っ二つに、
――ガキィィィンッ!
「ふむ、こんなモンか」
「そ、そんな……っ!? お、オレの最強の一撃が……」
涼しい顔をして自分の脇腹に当たる少年剣士の剣を見下ろす勇者アサヒ。
少年剣士の渾身の一撃は勇者に傷1つ負わせることなく、それどころか防御の姿勢すら見せることなくアッサリと脇腹で受け止められていた。
その光景に俺だけではなくギャラリー達も驚き歓声をあげる。
「す、すげぇぇぇ~~っ!? あの一撃を喰らってピンピンしているよ!」
「なんて頑丈な身体なんだ! 流石は勇者だっ!」
「相手の小僧、レベル『12』だろ!? なんでレベル『5』の勇者が無傷なんだよ!? ありえねぇだろ!? 幾つレベルが離れていると思ってんだ!?」
「勇者様にレベルは関係ねぇんだよっ! やっちまえ勇者様ぁぁぁ~~っ! その生意気な冒険者をとっちめてくだせぇぇぇぇ~~っ!!」
ワァ~ッ! と盛大な『勇者』コールが噴水広場に木霊する。
ソレを聞いて少年剣士の仲間たちが、バツが悪そうに顔を歪める。
気がつけば誰もが勇者の勝利を願い、不躾な少年剣士の敗北を望んでいた。
「あの野郎、一気に場の雰囲気を持っていきやがった……」
「……やっぱり、間違いない。勇者は伝説のスキルを使ってる」
「伝説のスキル?」
ナニソレ? と視線で尋ねる俺に、アレスは強張った表情のまま、信じられない事を口にし始めた。
「……スキル『物理無効』。その名の通り、ありとあらゆる物理攻撃を無効にする【防御系】最強のスキルの1つ。物理攻撃しかない剣士には最悪の相性のスキルだよ」
「マジか!? そんなスキルがこの世にあんの!? 初耳なんだけど、俺!?」
「……限られた一部の貴族と王族にしか伝えられていない伝説のスキルだから、ダルくんが知らないのも無理はないよ」
まさかこの眼で実物を見る日がくるなんて、とついこの間まで戦士だったアレスがブルリッ!? と身体を震わせる。
その様子からして何か思うところがあるのかもしれないが……なんでそんな貴重な情報をアレスは知っているのだろう?
一部の王族と貴族にしか伝えられていない伝説のスキルということは、もう確実にアレスの実家はその『一部』の貴族に該当するとしか思えない。
やっぱりコイツ、いい所のお嬢様だったのか!?
ご挨拶用のタキシード、メチャクチャ高いのを買うべきか!?
「よし、次はオレの番だな」
「~~~~ッッ!?」
呆けていた少年剣士めがけて爆砕刀を振りかぶる勇者アサヒ。
反応の遅れた少年剣士はソレを刀身で受け止めようとして、
「バカッ!? 受けるなっ!?」
「――えっ!?」
俺の怒声と少年剣士の呆けた声が重なるのとほぼ同時に、勇者アサヒの振り抜いた爆砕刀が少年剣士の刀身と衝突し、
――瞬間、地鳴りのような爆音と共に少年剣士の剣が爆ぜた。
「えっ!? なんぐぇぇぇぇぇ~~~~~っっ!?」
爆発四散した自分の剣に驚く暇すらなく、少年剣士の胴体に爆砕刀の槌頭がめり込み――身に纏っていた鎧を盛大に爆破しながら少年剣士を後方へ吹っ飛ばす。
「シュートッ!?」と三つ編み魔法使いのクラリスが悲痛な声をあげる。
少年剣士は数メートルほど夜間飛行を楽しみながら、2度ほど地面にバウンドして動きを止めた。
その瞬間、決着の光が勇者アサヒを包み込む。
こうして勇者アサヒは少年剣士シュートに完全勝利した。
「そ、そんな……オレが負けた……? 村一番の剣の腕前の、このオレが……っ!?」
「シュートッ! 大丈夫、シュート!?」
魔法使いクラリスが慌てて少年剣士に駆け寄った。
少年剣士はムクリッ! と身体を起こしながら、何が起きたのか分からないとばかりに呆然とした顔を浮かべて己の身体を見下ろしていた。
「オレの勝利だな」
そう言って勇者アサヒが天に向かって拳を突き上げると、ギャラリーたちが「うぉぉぉぉぉ~~~~ッッ!!」と盛大に沸いた。
確かに見ていて清々しい一撃必殺だった。
おそらく剣の腕前は少年剣士の方が上だろう。
だが勇者の持っているスキルと武器が規格外だった。
そりゃあんな強いスキルと武器を持っていたら、動きがトーシローでも勝てるわな。
勇者アサヒは五月雨のように降り注ぐギャラリーたちの『勇者』コールを湯水のように浴びながら、スタスタと尻もちをつく少年剣士の前まで移動する。
少年剣士はビクッ!? と身体を震わせながら、今にも泣きそうな顔で勇者アサヒを見上げていた。
「情けない顔をするなよ。お前が挑んできた決闘だろうが」
「う、ぐぅぅ~~っ!? な、なんでオレの攻撃が通じないんだよチクショぉぉぉ~~っ!? 勇者とは言えレベル『5』だろ!? なんでレベル『12』のオレの攻撃を喰らって無傷でいられるんだよぉぉ~~っ!? おかしいだろ、こんなのぉぉぉ~~~っ!?」
よほど悔しいのか目尻から涙をポロポロと流し始める少年剣士。
そのあまりの情けなさに仲間であるハズの少年商人と武闘家の少女が「うわぁ……」と静かにドン引きしていた。
そんな少年剣士に勇者アサヒは「フッ」と口角を緩めながら残酷な真実を突きつける。
「悪いな。確かにオレのレベルは『5』だが、相手の物理攻撃を完全に無効化する勇者スキル【物理無効】を持ってんだ。だから物理攻撃しかない剣士のお前がいくら攻撃したところでオレに傷をつけることは不可能なんだよ」
「な、なんだよソレ!? ず、ズルじゃねぇか!? こんな決闘は無効だ、無効っ!」
「お前だってスキルを使ってたじゃねぇか。それに幾ら喚こうか決闘の神デュエルが不正はないと認めたんだ。諦めて負けを認めろ」
「うぅぅぅ~~~っ!? そ、そんなぁぁぁ~~……っ!?」
完全にプライドを粉砕されたようで、少年剣士はその場で蹲り盛大に嗚咽を溢し出す。
だがプライドをへし折られようが、勝負は勝負。
少年剣士は負けた、つまり――
「さて、お前が支払う対価に関してだが――」
「ま、まだオレから何かを奪う気か!?」
「まだも何も奪ってないだろうが。それに敗者は勝者に供物を捧げる、それがこの決闘のルールだろうが」
「お、オレはお前に剣士のプライドを奪われた! それで充分だろう!?」
「それはテメェが勝手に言っていることだろうが。ルールはルール、キチンと対価を払って貰うぜ。――と言っても金銭を要求するのは流石に可哀想だからなぁ、どうすっかなぁ?」
涙と鼻水でグシャグシャになった少年剣士を一瞥しながら、勇者アサヒは魔法使いクラリスと少年商人ユウト、そして武闘家のルルを一通り見渡し「よしっ!」と笑顔で頷いた。
「決めた! 一晩お前のパーティー借りるぞ? それで今回の決闘はチャラだ」




