第12話 ハメられた!?~変態ドワーフの巧みな策略~
「そう言えばアレス、お前いま僧侶レベルどれくらい上がった?」
「……うん? どうしたのダルくん、突然?」
翌朝、ようやく体調が回復した俺はアレスと共にギルド本部へと続く道をトコトコ歩きながら、我が相棒の経験値について尋ねていた。
「いやほら、成り行きとはいえサイクロプスなんていう高レベルモンスターを倒したワケじゃん? 一体どれくらい経験値が入ったのかなって思って」
「……ダルくんは? レベル上がった?」
「おうっ! さっき確認したらレベル35になってた!」
左手の甲に力を入れると『35』の文字が浮かび上がる。
ソレを見てアレスが「おぉ~」とパチパチ手を叩いた。
「……やったねダルくん。これで上級職に転職できるね?」
「まぁしないけどな。それで? アレスの方はどうよ?」
「……実はボクも一気に8も上がった」
そう言って「ふふんっ♪」と鼻を鳴らしながら嬉しそうに左手の甲を俺に見せてくる。
そこには『9』の文字が燦々と輝いていて……おぉっ!
「スゲェじゃん! 転職したてでレベル9はちょっとした偉業では!? それじゃ呪文もたくさん覚えた感じで?」
「……うん。光の壁『ホーリーシールド』と状態異常を無効化する『キュア』、あと相手を一時的に麻痺させる『ホーリースパーク』を覚えたよ」
「大漁じゃん!」
流石は我が相棒である。
まさか僧侶に転職して1週間と経たずしてもう4つも呪文を覚えるとは。
これは幸先がいいスタートであると言えるだろう。
このままノリと勢いに乗って実績を作りアレスのご両親を説得――あれ?
「なぁアレス? 俺達あのサイクロプスを倒したんだからさ、もう実績は充分では?」
「……あっ」
確かに! とばかりにアレスがお目目をパチパチさせる。
どうやら我が相棒も今気づいたらしい。
しっかり者のようでいて意外とヌけてんだよなぁ、コイツ。……まぁ今気づいた俺も人のこと言えないけど。
「……やったよダルくん! これならお父様もお母様も文句はないよ!」
パァアッ! と顔を輝かせながらブンブンッ! とシッポを左右に揺らすアレス。
「……さっそくお父様たちに報告に行こう!」
「待て待て! その前にドルルとの約束な?」
リード代わりに俺の手を引いて明後日の方向へと歩き出そうとするアレスを踏ん張って制止する。
流石は元戦士なだけあって、ズルズルと5歩ほど身体を引っ張られた。
僧侶に転職してもすっごいパワフル、ちょっとした大型犬の散歩に付き合う飼い主の気分である。
「そう焦らなくても時間はまだあるんだし、ゆっくり準備してから報告に行こうぜ?」
「……うん、ダルくんがそう言うなら」
アレスは『分かった』と小さく首肯すると、大人しく俺に手を引かれて冒険者ギルドへと歩き出す。
そのまま数分ほど我が相棒と雑談を楽しみながら街の中を闊歩すると、ギルド本部の前にドルルと例の若い冒険者4名の姿が視界に飛び込んできた。
「おっ、キタキタ! おーい、コッチコッチ!」
変態ドワーフがブンブンと片手を振って俺達を手招きしてくる。
その背後では金髪の商人の格好をした少年と、目つきが鋭い勝気な瞳をした青髪の少年剣士。ダボッ! とした真っ黒なローブに身を纏った魔法使い風の三つ編み少女に、スリットから覗く太ももが目に眩しい将来有望そうな武闘家っぽい少女が俺達をジィィィ~~ッ! と物色するように見つめていた。
あぁ、確かにあのメンツには見覚えがある。
半泣きでサイクロプスから逃げていた少年少女たちだ。
「よし、お前ら。今日の面倒はあの兄ちゃんと姉ちゃんが見てくれるからな? ちゃんと言うことを聞けよ~?」
「兄ちゃんって、俺よりチビのガキじゃねぇかアイツ」
「ちょっ、シュート!? 事実でもそんな失礼なことを言っちゃダメ!?」
青髪の少年剣士と魔法使いっぽい少女が何か言い争っているように見えたが、ドルルは気にすることなく駆け足で俺たちの方へと近寄ってくる。
「アレスちゃ~んっ! ダルぅ~っ! 信じてたぜぇ~、お前らなら必ず来てくれるって!」
「……すごい胡散臭い笑顔」
「元からだろ」
満面の笑みで近づいてくるドルルに嫌悪感を隠すことなく眉根をしかめるアレス。
そんなアレスを上機嫌な笑みでスルーしながらドルルは一方的に口をひらいた。
「あの子たちが『例の子』たちね! それじゃあとは当事者同士ヨロシクぅ~っ!」
「あっ、おい!? ドルルッ!? ……また言いたいことだけ言って消えやがったよ、アイツ」
「……だからボク、アイツ嫌い」
スタコラサッサ! と俺の制止を無視して人混みの中へと消えていく変態ドワーフ。
その後ろ姿はまるで『ナニカ』から逃げるような必死さがあり……なんでアイツあんな必死に走ってんだ?
俺が頭の上に「???」を乱舞させていると、頭上から「おい」と実に生意気そうな声が耳朶を叩いた。
んっ、なんだ? と思い振り返ると、そこには青髪の少年剣士を筆頭に例の4人が俺達の方へとスタスタ近づいてきていた。
「来るのが遅ぇよ。待ちくたびれたじゃねぇか」
「おっ、なんだぁテメェは? コッチは『お礼がしてぇ』って言うから来てやったって言うのに、なんだその態度は? ビンタすっぞオルァ!」
「ハァ~? お礼ぃ~? 何の話をして――」
と喧嘩腰で近づいてきた青髪の少年剣士が、俺の斜め後ろに立つアレスに気づき目を見開く。
「こ、このエロい綺麗な獣人の姉ちゃんはこの間のっ!? ということはお前、あのサイクロプスを1人でぶっ殺していた戦士か!?」
「戦士じゃねぇ、盗賊だ」
唇をワナワナ震えさせながら俺をビシッ! と指さしてくる少年剣士。
その表情からは俺達がここに来ることを全く知らされていないようであり……んん~?
あれ? なんか会話が嚙み合わねぇぞ?
「……嵌められたね、ダルくん」
「嵌められた?」
「……うん。青髪の少年くん、今日ドルルになんて言われた?」
「ドルルのオッサンに?」
え~と? と眉間を指先でグリグリと抑える青髪の少年剣士の代わりに、後ろで待機していた商人の格好をした少年が口を挟んできた。
「今日の監督役はこれから来る2人だから、ちゃんと言う事を聞くように――と言われました」
「監督役? 俺達が? 誰の?」
「僕たちの、です。このあいだ依頼を無視してサイクロプスを討伐しようとした結果、失敗して他の冒険者を危険に晒した罰則として、しばらくの間街のドブ掃除をギルドから命令されたんですけど、その監督役がドルルさんだったんです」
でもドルルさんの奥さんがタイミング悪く病気にかかったみたいで、ドルルさんは奥さんの看病のために僕たちの監督役が出来なくなったようで、そこで別の監督役を用意するからその人たちの言うことをしっかり聞くように、と言っていました。
と商人の格好をした少年は続けた。
なるほどな、奥さんの看病か……実に泣ける話じゃないか。
そういう理由なら仕方がないな。
うんっ! 仕方がない、仕方がな――
「……ドルルは独身、奥さんなんて居ない」
「へっ? それはどういう?」
「チクショウ、あの変態ドワーフ!? ガキ共のお守りがメンドクェからって俺らに全部押しつけて逃げやがった!?」
瞳をパチクリさせる若い冒険者共を尻目に、俺は天に向かって盛大に吠えた。




