第11話 むちむち僧侶ちゃんが俺の恋人になった件について
文字通り我が相棒に精も根も搾り取られたその日の夜9時少し前。
このままでは本当にアレスに全てを搾り取られてカッピカピになってしまうと危惧した俺は、泣きながらアレスを説得し、夕飯を食するべくギルド本部の食堂へとやって来ていた。
「……たくさん注文したから、たくさん食べてねダルくん♪」
「……ひゃい」
お肌ツヤッツヤのアレスが、干物寸前のカッピカピの俺に満面の笑みを浮かべる。
もうすこぶる上機嫌なのが獣耳とシッポの動きを見なくても顔の笑顔だけで分かる。
こんなスッキリしたアレスを見るのは生まれて初めてである。
……それにしても机の上に置かれた料理がレバニラやらカキやら納豆やらと、やたら精のつく料理なのは俺の気のせいだろうか?
「お、おい? やっぱりあの獣人のエロい姉ちゃん、重戦士のアレスだってよ。受付さんが言ってた」
「マジかよっ? アイツ、女だったのかよ!?」
「チクショウッ!? 中身があんな美人でエロい姉ちゃんだと分かっていれば、オレだって声をかけたのに!?」
「というかダルの奴、なんかやつれてないか? 大丈夫か、アレ? なんか棺桶に片足突っ込んでるような顔してるぞ?」
ザワザワといまだアレスの変身に驚きを隠せないでいる我が知り合いの冒険者仲間たちが、遠巻きに俺達を見つめてくる視線が肌を刺す。
が、アレスはそんな野郎共の視線などなんのそのとばかりに出来立てホカホカの料理をお箸で掴んで俺の口元へと持ってくる。
「……はいダルくん、あ~ん?」
「あ、あ~ん」
正直もう両手をあげるのも億劫だったので、これはありがたい。
俺は野郎共の嫉妬の視線に身体を焼かれながら、パクッ! と料理を口に含んだ。
お、美味しい……2日ぶりの料理は涙が出るほど美味しいや!
「……美味しいダルくん?」
「ぐすん……美味しい。超美味しい……」
「……よかった、泣くほど美味しいんだね? たくさんあるからいっぱい食べてね?」
そして今晩も、と邪悪な笑みを浮かべるアレスを横目に俺は料理をパクパクと胃袋に納めていく。
今なら土でも美味しく食べられる自信がある。
「……ほらダルくん、こっちのアサリの酒蒸しも美味しそうだよ。食べてみて。はい、あ~ん?」
「――うぉっ!? マジでアレスちゃんが女の子になってるじゃ~ん!?」
アレスがアサリの酒蒸しを俺の口元へと持ってこようとした瞬間、ソレを邪魔するように俺達の間に身を滑り込ませるドワーフの冒険者。
刹那、アレスが「……チッ」と笑顔のまま舌打ちを溢した。
こ、怖ぇぇ~~っ!?
なんで笑顔で舌打ち出来るのアレスさん!?
俺、そんなアレスさん知らないよ!?
「……ドルル、そこ邪魔」
「ウッハッハッハッハッ! そう邪険に扱うなよ! オレとお前の仲じゃないか!」
そう言って馴れ馴れしくアレスの肩を抱こうするこのドワーフの名前はドルル。
クエスト報酬のほとんどを風俗に捧げる男の鏡のような冒険者だ。
ちなみにアレスは昔からドルルのことが死ぬほど嫌いだったりする。
理由はまぁ……言わなくても分かると思うけど、性格のアレだ。生理的に無理ってヤツだ。
まぁドルルはアレスのことが気に入っているので、こうしてウザ絡みしてくるんだけどな。
おかげでアレスの機嫌はまた悪くなり……ちょっ、空気が重いよ!?
もう愛していない女の身体よりも重いよ!?
「……触るな、不愉快」
「おい、見たかよダル? 確実にアレスちゃん、オイラに気があるぜ? もう交尾まで秒読みだぜ?」
「すげぇぜドルル。あの生ゴミを見るような目を前にしてそんな戯言が言えるのは、世界広しと言えどお前くらいなモンだ」
「へへっ♪ 褒めるなよ?」
パシッ! とアレスに叩かれた手をそのまま鼻の下にもっていき、照れくさそうに頬を染めるドルル。可愛くない……。
なんだコレは? 見る生物兵器か?
恐ろしいまでに可愛くない、むしろ見ていて殺意すら湧いてくるレベルだ。
その証拠にアレスが笑みを消して身体中から殺気を発散させ始めている始末だし……ヤバい、ヤバい!?
逃げろドルルッ!? 間に合わなくなっても知らんぞぉぉぉ~~~っ!?
「しっかしあの鎧の下にこんなとんでもないパイオツを隠していたとはなぁ! オイラのオッパイ眼、略して『オッパアイ』でも見抜けんかったわ。アレスちゃん、揉んでもいいかな?」
「……死ね」
シンプルな罵倒がドルルを襲うっ!
「キッツ!? もう愛していない女の体臭よりキツいわ」
「止すんだドルル。それ以上はいけない」
俺はフルフルと首を横に振りながら変態ドワーフを制止する。
それ以上はマジでウチの僧侶が殺し屋に転職してしまうぞ?
「んだよぉ~? 止めるなよダルぅ~? ここからが面白くなる所だったのによぉ~?」
「ドルル、お前には見えないのか? あのアレスの冷めた瞳が? SMプレイルームからワープしてきた女王様より冷たい目をしてるぞ?」
「うほほっ♪ オイラがドMならその爆乳の谷間にお礼のチップを挟んどる所だぞ?」
盛大に鼻の下を伸ばすドルルとは対照的にピキピキッ! とコメカミに青筋を立てるアレス。
その手にはいつの間にか鈍器が握られており……やめろドルル! それ以上アレスを挑発するな! 命がもったいない!
「……用がないなら帰れドルル。食事の邪魔」
「おいおい? サイクロプスを討伐した英雄さまを労いにきた親友に、その言い分はねぇんじゃねぇのぉ~?」
「……誰が親友だ」
アレスが心底嫌そうに眉根をよせる。
そんな相棒を横目に俺はドルルに声をかけた。
「なんだ、知ってたのかドルル」
「当たり前だろぉ~? なんせギルドじゃ昨日からその話題で持ち切りよ! 僧侶と盗賊の凸凹パーティーが高ランクモンスター【サイクロプス】を討伐したってな! 火力のない僧侶と盗賊でどうやってサイクロプスを討伐したのか気になったが、ダルが絡んでいるのなら納得だわ」
お前ふつうの盗賊じゃないしな、とテーブルの上に並んでいた料理を勝手にパクパク食べ始めるドルル。
途端にアレスが嫌そうな顔で「……勝手に食べるな」と釘を指すが、ドルルはまったく気にしない。
流石は女冒険者の間で『コイツの子どもだけは死んでも産みたくない』ランキング堂々の4年連続第1位なだけある。メンタル超合金じゃん?
「例の【力】を使ったんだろ? お人好しだねぇ~、アホな新米冒険者なんか放っておけばいいモノを」
「うるせぇ、うるせぇ。誰がお人好しだ。俺はただ目の前で死なれちゃ気分が悪いから助けただけで、断じて新米共のために助けたワケじゃねぇ。勘違いすんな」
「偽悪ぶっちゃってまぁ可愛くないこと! 男のツンデレは絵面が汚いだけだぞ?」
「ウェイトレスさ~ん! このドワーフの頭にナイフの差し入れをお願いしま~す!」
「……ボクからもフォークを」
静かに俺の殺意に便乗するアレスと共に変態ドワーフの頭部に凶器の差し入れを要求する。
ウェイトレスさんはその言葉を待っていた! と言わんばかりに大きくナイフとフォークを振りかぶってドルルへと投擲する。
が、ドルルがウェイトレスさんの投擲を実に涼し気な顔でアッサリと指先で簡単に受け止めてしまう。
流石は高ランククエストをソロで周れる実力者なだけある。
「マジかよ、お前? あのウェイトレスさん、盗賊レベル20はあるんだぞ?」
「ガッハッハッハッハッ! たかがレベル20程度の盗賊にやられるオイラじゃないわい! オイラはレベル45の上級職【魔法戦士】ぞ? あんな投擲なんぞカスみたいなモンだわ!」
ウッハッハッハッハッ! と豪快に笑うドルル。
渾身の投擲をカス扱いされたウェイトレスさんは、悔しそうに下唇を噛みながら親の仇のような目つきでドルルを睨んでいた。
こうやってドルルの好感度は落ちていくんだなぁと思いました、まる!
「まぁそんなオイラでもサイクロプスをソロで倒そうとは思わんがな! いやぁ、マジで化け物だなダル? 本当に人間か、お前?」
「……用は済んだ? なら早く帰って欲しいんだけど?」
「もうアレスちゃんってばぁ~っ! そう邪険に扱わないでよぉ~。実は今日はね、2人にお願いがあって来たんだよぉ~」
「……断る、帰れ」
「キッツ❤」
アレスの冷たい眼差しをどこか嬉しそうに真正面から受け止めるドルル。
少し見ない間に変態として磨きがかかっているようだ。
アレスはもうコレ以上は何を言っても無駄だと察したようで、ドルルを無視して食事に集中し始めた。
ドルルもドルルでお願いを聞いてくれるまでは居座る体勢マンマンだし……ハァァァ~~。
「しょうがねぇなぁ……それで? なんだよ、お願いって?」
「流石はダルッ! お前なら聞いてくれると思ったぜ!」
「御託はいいからさっさと話せ」
コッチは早くメシを喰いたいだ、と視線でドルルに圧をかける。
ドルルは「なぁに、難しいお願いじゃないさ」と前置きしながら、その薄汚い唇を震わせた。
「お前らがサイクロプスから助けたアホな新米冒険者がお礼を言いたいんだってさ」
「お礼ぃ~? 別にそんなの要らねぇ――」
「まぁそう言うなって! 明日の朝8時にギルド本部にソイツらを連れて行くから! んじゃ、そういうことで!」
「あっ、おい待てドルル!? ……行っちまいやがった」
自分の言いたいことを言い終えるや否や、コチラの了承を待つことなくサッサと席を立ち出口へと歩いて消えていく変態ドワーフ。
最初から最後まで自分勝手なドワーフである。
「……どうするのダルくん? ドルルのあの態度からして、絶対に何か企んでいるよアイツ?」
「だろうなぁ……」
アレスの進言に半ば反射的に頷く。
ドルルの野郎、腕は経つけど性格は終わっているからなぁ。
はたして今度は何を企んでいることやら。
「まぁどのみち明日はギルドに顔を出さなきゃいけないし、その新米冒険者とやらにも会ってみるか」
「……ダルくんがソレでいいならボクもソレでいいよ」
そう言って微笑むアレスの顔には、一抹の不安が残っていた。




