69品目 甘い男 塩辛い女
「ああーー離してくれぇ!!」
英二は霊体である体を生かし透過能力を使い2人から逃れる。
突然間に挟まっていた英二が消えたことにより舞味と優香の2人は弾みで体を密着させてしまう。
「わっ……!ちょっと離れなさいよアンタ!」
「そんな吊れないですよ舞味さ〜ん!」
舞味は無理矢理優香を引き剥がす。
「毎日こんな感じなの?」
「そう……」
英二の顔はまるで潰れたカエルのように疲れ切っていた。
「英二!アンタはっきりしなさい!こんな奴の口車に乗ったらF.F.Fが堕落しちゃうって分かるでしょ?せっかく才牙を倒して取り戻したのがこんなんでいいの?」
「いやそれ言うならなんであの動画に舞味さん出てるですか!なんかノリノリじゃないですかアレー! 」
英二は舞味出演回の『日替わりファイター定食』の動画を再生する。
「舞味さん自分の動画確認したことあります?コメントとかもうキモいし臭いし……なんかもう、わやくちゃなんですよ!それで嬉しいっスか?」
「……もちろんよ!」
少し間をおいて舞味は大きく頷く。
「この女のやり方は気に入らないけど……かといって負ける訳にはいかないでしょ?なんせF.F.Fのキューティーセクシープリティー担当なんだから!」
「え?そうなの?」
英二は目を丸くする。
「そうよ!昔の動画に私がチラりと映っただけで毎回バズってたんだから!」
「いや……それはF.F.Fのその手の売り込みしてなかったから仕方なく舞味さんで妄そ……」
英二は即座に舞味に張り倒される。
「今のスピード……才牙と戦った時の武者震いを感じさせた……」
凍真は目を見開いた驚く。
「凍真はどうなのさ?今のF.F.Fは!」
「その動画は最初から興味なく見てないからノーコメント。別にオレの戦いなんて切り抜きで宇宙人に見られてるのは前からの事だし、まぁご自由にどうぞって感じかな?」
「ああー凍真……お前はそういう奴だよなぁ〜!!フローズンのメンバーは?」
英二は頭を抱える。
「あの4人だぞ?流行り物にはとりあえず乗っかるタイプの4人だぞ?答えるまでもないだろ。」
「そうやな……フッ軽の塊みたいな4人だもんな……深く考えないもんなあー完人さぁ〜んあなたはいずこへ!」
英二は灰色の所長室の天井に手を伸ばす。
異世界──
青空の切れ間ひとつ無い分厚い積乱雲に覆われた湾岸。
淀んだ空色に連動するよう波も黒色の潮を大きな動きで揺らす。
「…………」
1人の男がうつ伏せで海上に浮かんでいた。
完全に意識は途切れ深海の奥深くのように暗い場所に追いやられていた。
そんな中、彼は右手は確固たる意志からか白い杖を持っていた。
荒波に晒されようとその手を解く事は出来なかった。
そして彼の体はやがて霧に包まれていく。
「良い……」
水面から顔を上げたソレは男の顔を見てそう呟く。
「イケメンからこんな甘い匂い……嗅いだことが無いわ。まるで着ている服も見た事がない……あなたはだぁれ?」
まじまじと顔を見ながらその男を住処の洞窟に引き上げる。
「ふふふ……人間の男にここまで胸騒ぎを覚えるのは何年振りかしら?」
尾鰭をばたつかせながら浅瀬の様な穏やかさに波打ち際の激しさを底に秘めた声で男の顔にうつつを抜かすソレは人魚だった。
「あらあら……コレは大切なものなのかしら?」
男が手に杖を握りしめて離さない事に人魚は気づく。
人魚は試しに手を添えて男の指を掴んだ。
そして関節とは逆方向に引っ張り杖から手を離そうと試みるが
「……離れない?」
どのような体制で何度試しても彼の右手は鋼以上の硬度で人魚を寄せ付けなかった。
「あらあら……こんなに硬いだなんて、人間にしてはやるじゃない。顔だけじゃないなんて、何も話してないのにときめいちゃってるぅ……」
人魚は男の顔をもう一度見る。
しばらく考え彼女は自身の心の奥底でに昂り込み上げてくる一時の感情に身を任せる事にした。
「ハッキリ言うわ……好き!」
そう言いながら塩味の唇を重ねようと顔を近づけた瞬間
「ハッ!」
男──完人は目を覚まし手に秘めた杖、パルフェクトステッキから生クリームを発射する。
そしてすぐ立ち上がりその場から離れる。
完人は足場も視界も悪い海の上に立つ岩場の洞窟をものともせず光刺す入り口の付近に身を置き距離を取る。
「何者だ貴様……!」
甘さの無い鋭い視線で人魚を見つめる。
(グトンはどこへ行った?そもそも場所がおかしい、掛の家にいた筈だ。まさか、直前に奴が出したあの光が原因か?)
完人は構えを崩さず今の状況を整理しようと頭を高速回転させる。
「完人さん!?ここどこですか!?待ってホントにどこ?なんか暗い!暗いよ、お化け出そう、待ってホントに待って何何!なんなのぉ!」
チケット状態のパルフェクトも目を覚ます。
「パルフェクト落ち着け!今は冷静になる事だ。」
「は……はい!」
完人の声掛けでパルフェクトは一旦正気になる。
「肌面がわずかに結晶化している上にこの潮のむせかえる匂い、何故だかわからんが海の上にいたようだ!おそらくオレの体は深刻な脱水症状と栄養失調を引き起こしている。」
「え?大丈夫なんですか?」
「このままでは少しもしない内に倒れるだろう。だからパルフェクト、ひとまず変身して陸に上がる。いいな!」
「わかりました!」
(あの男……おそらく完人という名前なのね。でも何と喋っているの?この女の声は何処から?)
チケットと話している事に気づかず人魚は完人を観察していた。
そしで顔についたクリームを舐めとる。
(ふぅん……甘くてミステリアスな男かなるほどねぇ……)
「嫌いじゃないわ!」
人魚は陸地でも尾鰭を器用に操り一気に完人の前に近づく。
「オーダー!」
その瞬間白い光と生クリームが完人を包み込む。
人魚は突然の事に一瞬頭が真っ白になる。
そして次の瞬間洞窟から完人の姿が消えていた。
「どこへ行ったの!?」
人魚は外の海で出ると
「完人さん、見渡す限り海しかないです!陸地…見つかりますかね?」
(少なくともここに滞留しているよか……マシだ……)
パルフェクトはわたあめに乗って陸地を探していた。
「雲に乗ってる?そんなおかしな芸当が出来るなんて……まさか魔法使いなの!?」
その瞬間、人魚の脳裏に魔法使いとの記憶が蘇る。
「恋って残酷ね。一目惚れの相手をよりによって魔法使いにするなんて。ならいっそのこと、わたしの愛で海のあぶくにしてあげる!」
(チッ……考えが甘すぎたな……ああっ!……こ、こんな広い大海原で無計画に陸地が見つかる訳が……ない…自分の想像以上に頭が、働かん……っ!)
完人の喋り声が徐々に弱々しくなっていく。
「大丈夫ですか完人さぁん……アレ?わたしも体が?」
パルフェクトは手足が動かしにくい感覚に囚われる。
(おそらくオレの体がフードファイターとしての変身状態を保てなくなってきている様だ……)
「そんな!」
パルフェクトが驚いた瞬間
「ハドロアック・ウェブ」
人魚は海水を利用した攻撃魔法をパルフェクトに叩き付けた。
「キャアアアアッ!!」
わたあめは水に溶けパルフェクトは上空から水面にに鈍い音を立てながら落下してしまった。




