67品目 ルクミム
「父さん…ホントいっつもいっつもやることなす事いきなりなんだからもう〜……」
青い髪の娘は居間で裕太と話す父親への苛立ちをまな板にぶつけていた。
「……なんでいつもそうなの?」
細かくなる具材に反比例するように心の鬱憤は大きく塊となっていく。
「娘さん、魔法学園の生徒なんだ。」
「うん。トゥラスって言ってね。私とは真逆の優等生だよ。座学も実技も体術も全て成績はオール5。クラス長としてもみんなを纏めてて、みんなの中心にいる。教師からの評判も良い。おまけに顔も良い。ホントに私の娘かと思うくらいだ。あっ顔の良さはある意味遺伝か……」
「……………」
ベェルリは微妙な表情の裕太の顔色を見て咳払いをする。
「いやぁでも彼女はホントに聖人だよ。娘贔屓とか優等生贔屓とか抜きにしても。多分キミ達の事も怪訝に扱うとかは無いだろうから……あっ来た来た。トゥラス、あらためて紹介…」
ベェルリの言葉は娘の無言の圧によって叩きのめされた。
「……するよ。」
(まずい。こんな筈じゃ無かったぞ……)
ベェルリは予想から外れた娘の行動に僅かに焦り始める。
「今、鍋煮込んでるから。あと10分くらいで出来るからもう少し待ってて。」
トゥラスは冷静に告げる。
「め、麺矢裕太です。初めまして……かな?えっと学園でオレ達の戦いを見たから初めてではない?そのすいませんいきなり……」
トゥラスの淡々とした冷たい表情に裕太はしどろもどろになりそう舌を意地で必死に動かす。
「元々は学園内に置いておくつもりだったんだぞ!色々あってこうなっただけで、複雑な事情で彼には行く宛が無いんだ。本当にすまない。」
ベェルリは頭を下げるがトゥラスは表情を変えなかった。
「……なぁ、裕太?」
「何?メンドこんな時に。」
「変身だ!」
まるでフードファイターを相手にした時の様な威勢で声を張るメンドに裕太は目を丸くする。
「ちょっとタイミング考えようよ!」
「良いんだよ、こういう時にピッタリなアレだよ!いいから早く!」
メンドは考えを曲げる事なく変身するよう裕太に頼み込む。
「アレってなにさ……まぁなんか考えてんだね?分かったよ。オーダー!」
裕太は何を考えてるかまるで分からなかったが彼の意思を尊重する事に決めた。
「ちょっと待て。お前ら勝手に話を進めるな……あー変身しちゃったよ。」
ベェルリは目の前に立つメンドを見て目を瞑り顔に手を当てる。
そして横目で恐る恐るトゥラスの顔を見た。
トゥラスは依然、堅い表情を貫くのみであった。
(終わった……)
「さぁてと、お前トゥラスって言ったか?お前の作った鍋が気になってな。厨房に上がらせてくれよ。」
「……え?」
トゥラスの目が途端に泳ぎ出す。
メンドは知ってか知らずか彼女がいた台所へ向かおうとする。
「あの……待って!」
「なんでだ?」
「その……良いから待って!」
トゥラスはメンドの前に立ち彼が立ち入る事を頑なに拒む。
「ちょっと気になってな。オレはチケットの姿でも会話できるように、ある程度は感覚が効くんだ。それでさっき街の中歩いてた時につよーく感じた匂いと似た匂いがしてな。」
「それが……何?」
トゥラスはメンドの仮面を覗き込む。
仮面の形は変化するはずもなく表情などある訳がなかったが、メンドは自分の考えを見透かしているように感じた。
「ちょっとの感覚で強く感じるくらいの香りって事はこの世界のポピュラーな料理なんだろ?でもその匂いってとここから漂う匂いがちょっと違うんだよなぁ……まるでアレンジしてるような感じだな。」
メンドは腰に手をあてて首を傾げる。
「違うか?」
「そうだけど、それがどうしたの?」
「ラーメンに合うかどうか試してみてぇだけだ。悪い様にはしねぇよ。醤油ラーメンが作る醤油ラーメン、食うか?」
トゥラスはメンドの台所への侵入を許してしまった。
(凄い……なんか初めてメンドに感心したよオレ!)
「初めては余計だ!裕太はこの匂いどう思う?」
(なんだろ……シチューみたいだなって思った。)
メンドが蓋を開けると乳白色のとろみがかったスープが泡をたてて煮込まれていた。
(スープ作ってるにしては鍋小さく無い?)
「この感じはスープってかソースだな……よし!」
それから数分後
未だ沈黙する親子に
「お待たせしました、メンド特製醤油ラーメン異世界トッピングです。」
裕太がバイトの時のテンションでラーメンを運ぶ。
「異世界の食べ物か?ラーメン?というんだな……メンドそっくりだ……」
ベェルリは隅々まで目の前の一杯を観察する。
「もしかしてそのソースをココに?」
「あっさりまろやかな感じに仕上げたぜ?」
チケットの姿に戻ったメンドは自身ありげに語る。
「メンドのラーメンは美味いですよ。ぜひ食べてみて下さい!」
(オレはもう飽きちゃったけど。)
「「いただきます……」」
2人はまずスープのスプーンで救った。
醤油ベースのクリーミーな淡い色合いのスープを飲んだ瞬間
「えぇ美味っ!いつもの味が、こんなふうになるのか!
?いいな、このしょっぱい感じがルクミムとマッチしてる!全然分析できない……」
「美味しい……ルクミムがこんなふうになるなんて。」
ルクミムと呼ぶクリームソースの醤油ラーメンは大好評だった。
「これで認めてくれるか?」
「いや……わたしは別にビックリはしたし、戸惑ったけど、いやでは無いです。イヤなのは何でもかんでもウソをついて隠して、抱え込んで、蓋をする父がイヤなんです!」
「うっ!」
フォークで麺にがっついていたベェルリはむせる。
「いつもそう……些細な事からとんでもない事までなんでも隠して……はぐらかして……」
「待て待て、今回の件に関しても言ったって分かんないだろうし、そもそもの説明が難しいしで、いきなり言って泊めるのを止められる位ならいっその事いきなり明かす方がリスクが…」
「そういう所がイヤなの!分かんなくたって良い、まず話して!判断材料がないのに止めるも無いでしょ!なんで信用してくれないの……」
いつの間にかトゥラスの目には涙が溜まり声も部屋全体に響くほど大きくなっていたが本人は至って冷静かつ真摯に気持ちをぶつけていた。
「分かった。メンド、裕太、話していいか。」
裕太は頷く。
「ことの始まりは17日前の事でな、」
了承を得たと判断したベェルリは娘の目を見て教師としての説明力をフル活用して話し始める。
裕太とメンドは
(もう頷くしか無いじゃん。)
(ラーメンで解決出来ねえなんて……)
(あの時とはまた違うから……てかもう動けないし。)
座り直すタイミングを完全に失い手持ち無沙汰かつ立ち往生の八方塞がりであった。




