魔法
「確かに。俺たちの世界には魔法という概念は存在しないな。もし本当に魔法を見せてもらえるならば、俺はここが異世界だと認めるほかないのかな。ただ奇術で説明できるような子供だましは、また時間の無駄になりそうだからやめてくれ。」
俺は冷静を装いつつも、内心”魔法”という単語にドキドキしていた。漫画の中でしか見たことがない”魔法”。本物を見てみたくない、と言ったら嘘になる。
「本当は街の外にいるモンスターを見てもらうのが一番手っ取り早い方法なんですが、こちらの世界に来て間もないお二方に危険が及ぶ可能性もありますのでね。神の子である力の扱いに慣れれば、そんな心配は不要なんですけども。」
エルザはそう付け加えると、手をまっすぐ前に伸ばしこちらに手のひらを向けてきた。
すると突如、俺と沙由里を中心にした円を描くように無数の火の球が瞬時に現れた。一つ一つは小さいが、熱を持っており本物の火であるようだ。ふわふわと、その場に浮かんでいる。
「・・・っ」
驚愕で声が出ない。頭の固い奴は何かしら理由をつけてこの現象に文句を言うのであろう。だが、俺はそこまで意固地であるわけでもないし、俺の周りで起きている現象はそんな次元のものじゃない。
「これが、魔法・・・!」
俺は自分でも自分の表情から緊張が解けていくのが分かる。今、俺は感動している。こんな経験今までの人生、いや普通に生きていればこれからも決してすることはなかった。俺の隣では沙由里がすごい、と大きな瞳をさらに大きく見開いて呟いていた。
何秒間、いや何分間そうしていたか分からない。ほんの少しの間だったかもしれないし、あまりにも長い時間だったかもしれない。気付くと周りに浮かぶ無数の火の球はエルザの手元に集まっていき、現れた時と同じように瞬時に消えた。まるで今までの現象が幻であったかのように。
俺たちの様子を見てにこにこしているエルザは言った。
「ふふ。どうでしたか。今のは簡単な火属性の魔法です。私は属性が火であるために火属性の魔法しか使えませんが、まだ信じられないのであるならばもう少し強力なものをお見せすることになりますが。」
「いや、十分だよ。あんなもの俺たちの世界では経験できない。俺が間違えていたようだ。なるほど、ここは確かに俺たちの世界とは違う場所なんだな。それにしても異世界というものが本当にあるなんて思わなかったよ。」
「うん。私もこんなすごいものを見せてもらっただけで、十分だよ。あんなにいっぱい火が周りにあったのに全然怖くなかった。むしろ、優しい気持ちが伝わってくるようだったよ。」
エルザの言葉に俺と沙由里は順に返事をした。
「そう言ってもらえると助かります。それにしても魔法から術者の心理まで読み解くなんてすばらしい魔法適応力ですね。魔法師としての素質があなたの恩恵なのかもしれないわね。」
沙由里に向かってそう言ったエルザは俺たちに向けて微笑んだ。
「改めまして、私の名前はエルザ。ニューストリ国最南に位置するクレナイの街、クレナイ教会に所属しています。魔法属性は火。もちろん回復魔法も得意です。私は神の子であるあなたたちがクレナイの街を出るまでの間、案内人としてあなたたちをサポートします。分からないことなどは何でも私に聞いてください。それと、そろそろあなたたちの名前も教えてほしいわ。」
改めてエルザの自己紹介を聞いたところで俺と沙由里はこちらがまだ名乗っていなかったことに気付いた。
「俺は咲良翔一。」
「私は水瀬沙由里っていいます。」
「ええと、ショーイチにサユリね。ありがとう。それと、私のことを呼ぶときは気軽にエルザでいいわ。」
これまでのエルザの態度により、ここで目覚めた時と比べるとすっかり気を良くした俺はずっと疑問に思っていたことをエルザに聞いた。
「それじゃあ、エルザ。色々と聞きたいことはたくさんあるが、とりあえずなぜ俺と沙由里がこの世界に連れてこられたのか。そしてこっちの方が重要で、俺たちが元の世界に帰るにはどうすればいい。俺はエルザは良い人だと思っている。だが、この現状がエルザによって仕組まれたものだとしたら、どういう理由であれエルザに対する考え方を変える必要が出てくる。正直に答えてほしい。」
俺たちがこの世界に来てからどれほどの時間が経過しているか不明だが、元の世界ではそろそろ俺たちが消えたことで騒ぎが起きている可能性もある。それに何より沙由里を一刻も早く帰してやりたい。
だが、エルザの返事はこうだった。
「ごめんなさい。ショーイチとサユリをこの世界に呼んだのは神であり、すなわち帰る方法を知っているのも神だけなの。人類で唯一、神の御言葉を聞くことができる大司祭様の発言を受けて私はあなたたちがここにいることを知ったの。だから、帰る方法は私には分からない。でも、ショーイチとサユリがここに来た意味なら大司祭様が『アマテラス』様からの御言葉を聞いているわ。簡単に言えば、人類と魔族の力のバランスを保つためみたいよ。近年、魔族の力が急激に上昇しているせいで昔から保たれていた人類と魔族の間でのバランスが崩れているの。冒険者の皆さんが今もがんばってくれてはいるけど、おそらくそう遠くない未来に人類は滅亡していたと思う。でもショーイチとサユリがこの世界に来ることでこのバランスが元の状態に戻るみたいなの。格好良く言えば、あなたたちはこの世界を救うためにやってきたのよ。」
さっきまでの俺ならこの言葉にも疑ってかかっていただろうが、今ではエルザの言葉によってなんとなく自分が今いる立ち位置というのを理解できていた。
「つまりは魔族から人類を救えば俺と沙由里はこの世界に呼ばれた意味を成し、神によって元の世界に帰してもらえるかもしれない、という俺の考えで良いのかな?」
「はい。断言はできませんが、神に呼ばれた意味がそこにあるのは明白ですので、帰るとしたらその可能性が一番高いと思われます。」
エルザの言葉を聞いた俺ははぁ~、と深いため息をついた。理解はできた。できたが人類を救うということに対して全く現実性が湧いてこない。そもそも俺たちなんかでどうにかなるような相手だったら魔法とかが使えるこの世界の連中が困るはずがないと思うのだが。
隣にいる沙由里の考えを聞こうと目を向けるも、おそらく話の途中から考えることをやめていたのか俺の説明を待つかのようにニコニコとした笑顔でこちらを向いていた。
はぁ~、俺は再び深いため息をついた。
可能な限り間をあけずに出していこうと思っていますが、ちょっと間があいてしまいました。すいません。




