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異世界召喚?

 俺と沙由里の眼前で今まで閉ざされていた扉がゆっくりと静かに、だが確実に開かれていった。

 謎の光球によって完全な暗闇ではなかったといっても、それでも暗がりに慣れて来ていた俺と沙由里は扉の向こうからくる光に思わず目を伏せた。

 俺は扉を開いている者の正体が誘拐犯である確率が高いと判断し、沙由里の身を第一に考えつつ俺自身も何とかかすむ目を開いてもしもの時にとっさに動けるように警戒態勢へと移行した。それでも、頭の片隅にはさきほど聞こえてきた「神の子」というフレーズが残っている。金持ちでない俺たちを狙った誘拐の理由が釈然としていなかったが、なんらかの宗教関係者による犯罪だとしたらどうだ。「神の子」というフレーズから導き出されたこの現状に対する俺の答えはそれだった。俺は宗教に関して何の知識も持っていないが、ただ漠然と近づきたくない印象を持っていた。そのためか、誘拐と宗教の関係性に対して不信感は全くなかった。

 そんなことを考えているうちに目が光に慣れてきたため、俺はいまだに開いている最中の扉を凝視した。一瞬ちらりと沙由里の方を横目で見ると、沙由里も俺と同じように扉に視線を向けている。


 数秒後、完全に開ききった扉の向こうから現れたのは一人の女性であった。

 俺たちの前に現れた女性はいわゆるシスターとでも言えばいいのだろうか。肩から足元まで長く伸びた黒い布、頭の後ろからも大きく垂れている同じく黒い布、肩周りに少しばかり白い布を覆っている。実際、本物を見たことがあるわけではないが修道服と思われるものを着こんでおり、体型の判断はつかないが、顔だけ見れば20代くらいの若い女性だと思われる。白く透き通った肌に、整っている鼻立ち、沙由里が可愛いとして、この女性は美しいと言われる顔をしていた。日本人という感じではないし、肌の白さから言って外国人なのだろう。両の瞳にはうっすらと潤うように涙が浮かんでいるが、表情から察するに喜んでいるのだろう。なぜ喜んでいるのかは俺には全く分からないが。

 俺と俺の背後から俺の隣へと移動している沙由里の困惑を見て取ったのだろう。その女性は一つ深呼吸をしてから俺と沙由里の目を交互に見つめてきた。落ち着いたのだろうか、その目にはさきほどまで浮かんでいた涙はすっかり無くなっていた。

 数瞬、俺たちと視線を交わしてから深々と頭を下げ、顔を上げてから、

「申し遅れました。私の名前はエルザ。急なことですから、お二方が困惑なさるのも無理はないかと。ここは、ニューストリ国。お二方の世界とは異なる世界であり、お二方は天神『アマテラス』様によってこの世界に召喚されたのです。」と、話した。

 美しい顔にぴったりの美しい声であったが、俺には内容のほとんどが理解できなかった。分かったのは、目の前にいる美しい女性の名前が「エルザ」ということと、ここが「ニューストリ国」だということくらいだ。地理に疎い俺は初めて聞く「ニューストリ国」という国がどこにあるのかを沙由里に聞いた。

 沙由里は少し考えると分からないや、と返した。つまり成績学年上位の沙由里も知らないほどのマイナーな国なのかな。だとしたら、どうやって日本に帰ろうかなどと考えている時に俺はとあることに気付いた。

「ん?あれ、ニューストリ国と聞いて外国かと思ったけど、エルザさんやけに日本語うまいな。」

 俺は疑問に思ったことをエルザに問うように呟いた。

 すると、エルザは少しむすっとした表情になった。

「むっ、私の言葉を聞いていなかったんですか。ここは外国ではなくあなたたちの世界と別に位置する世界であるニューストリ国です。言語による意思疎通は神によって仲介されているため、お二方からしたら私の言葉が日本語という言語に聞こえるのでしょう。」

 俺の問いへの答えとともに確かにさっきも言っていた別の世界なる説明がされた。聞いていなかったわけではなく聞き間違いだと思っていたんだが、なるほど二回も聞いたとなれば聞き間違いではないようだな。つまりはこれが異世界召喚と呼ばれるものか、なるほど。などと信じることはできない。異世界召喚だと?、そんな説明をされたところで素直に信じる奴が世界に何人いるのか聞きたいくらいだ。

 俺はどう対応すればいいのか分からず隣にいる沙由里に助けを求める視線を送るも、沙由里の方も俺と同じ思考に至っているのか表情が引きつっている。

 いくら若いと言っても20代ほどの女性が未だに中二病設定では対応に困るのは必然であろう。そんなことを思っていると段々と冷静になってきた俺はそろそろ警察に通報するか、という判断に至りズボンのポケットからスマホを取り出した。が、そこで画面を見た俺は圏外になっていることに気付く。連絡手段を絶つために電波の届かないところまで連れてきたわけか。こうなったらエルザ一人くらい強行突破でなんとかなるか、などと脱出について考えていた俺の思考を読み取ったらしい。

「もう、さっきからの表情を見ている限り私の話を信じていませんね。分かりました、大司祭様の言葉通りなら手っ取り早くお二方に信じてもらう方法があります。」

 と告げてきた。

「へぇ。だったら最初からそれをしていれば今の無駄な時間はなかったのに。それで、その方法とはどういうものなんですか?」

 俺の問いに関するエルザの答えはこうだった。


「魔法です。」

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