受付
「おぉ・・・。」
『ギルド』と呼ばれる場所は、俺が想像していたよりも賑やかな場所だった。俺たちが入ってきた扉から向かい合った壁には受付と思われるカウンターがあり、そこまでには何十という机があり冒険者らしき風貌の者たちが話し合ったり酒を飲んだりして盛り上がっている。時間的に考えたら今日の仕事が終わって一段落ついているという状態なのだろうか。
俺たちが『ギルド』に入った瞬間、そこで騒いでいた人たちがこっちを見てきた。さすがに、この数の人たちに一気に注目されるとびっくりするな。
「あれ、エルザさんじゃないですか?」
「え、あっ本当だ。」
「どうしたんですか?ここに来るなんて珍しいですね。」
「一緒にいるその人たちは見慣れない顔ですね。」
「新しく教会で世話するようになった子供たちですか?」
「冒険者に戻るんですか?」
「何か依頼があるなら是非私たちのパーティに。」
「いつ見ても綺麗ですね。」
「今から一緒に飲みますか?」
お、おおぉ。エルザってこんなにも人気者だったのか。入った途端にあちこちから話しかけられてるぞ。一緒にいるだけの俺たちも人気者みたいに感じるぞ。
どういう対応をするのだろうかとエルザの方をちらりと見ると恥ずかしそうに俯いている。
「とりあえず受付に行きましょう。」
俯いたままエルザは俺たちにだけ届くような小さな声で話した。俺の位置からはちょっと赤くなった頬が見えている。
また一瞬ドキリと心臓の鼓動が高鳴った。俺は慌ててエルザの恥ずかしそうにしている顔から興味をずらすように目をそらすと、こちらを見つめる沙由里と目が合った。じ~っ、と俺の心を見透かしているかのような半眼を向けてくる。
「翔ちゃん、なんかさっきからエルちゃんにみとれてばっかりだね。」
「そ、そんなことないよ。」
俺は慌てて沙由里から視線をそらした。沙由里からの視線はまだ感じているが、一瞬とはいえエルザに見とれてしまったのは確かなので、この話題は続けない方がいいと判断した俺は冒険者たちの間を軽く挨拶してさっさと通り過ぎて行ってるエルザの後を追って受付を目指した。
俺の後ろを沙由里がしぶしぶといった表情でついてきている。
冒険者たちからの興味ありげな視線をかいくぐって俺たちは受付までたどり着いた。
受付に座っているのは眼鏡をかけたおとなしそうなお姉さんだ。顔だけ見ると20代くらいに見えるが、そのお姉さんの一番の特徴であろう長く伸ばしている髪が白髪ということもあって幼くも老齢にも感じられる。
「今日はどういった御用ですか?」
エルザと俺たちに興味を示すような素振りをあまり見せずに落ち着いた声音で聞いてきた。
「ここにいる二人を新しく冒険者に登録しようと思ってね。それで相談なんだけど二人の実力は私が保証するし、問題を起こしたときの責任も私が取るから戸籍とか細かい素性を聞かずに登録してくれないかしら。ニーナ。」
ニーナと呼ばれた受付のお姉さんが眉をぴくっと動かしてエルザを見た。次いで、俺と沙由里の方に視線を向けてくる。
俺たちを一通り見た後、受付のお姉さんは再びエルザに視線を戻すとはぁ、と軽くため息をつくと今までの事務的な表情から優しそうな柔和な表情に変化した。
「エルザなら信用もできるし信頼もしているから別にいいけど。珍しく顔を出したと思ったら、何かまた秘密でも抱えているのかしら。私にも話せない秘密なの、エルザ?」
「う~ん、私にも話していいのかよく分からないことなんだよね。ニーナなら話してもいいかもしれないけど、一応ね。話すべき時が来たら話すわ。」
エルザと受付のお姉さんの様子から考えるに二人はかなり仲が良いみたいだな。俺たちが異世界から来たってことを隠しているのはややこしいことだし、色んな人に伝わるのをおそれてだろうか。
「分かったわ。エルザの頼みだから特別にね。本当なら、実力テストや個人情報だったり色々必要なんだけど、私の特権でなんとかしてみるわ。」
そこで受付のお姉さんはエルザから俺たちに視線を向けてきた。
「エルザがそこまでするなんて、二人のこと気になるわね。これからあなたたちの活躍に期待させてもらおうかしら。」
と、言って俺と沙由里にニコッと微笑んでみせた。




