風の兆し
12月も中旬になろうとする頃、やっと免許証を手に入れた。
教習所に通い始めたころには、まだ夏の気配が残っていたのに、いつの間にか、クリスマスの気配が感じられる季節になってしまった。
外を歩くと、夏よりもずっと弱い陽光が、街路を照らし、冷えて乾いた空気に、頬が引き締まる。
喫茶店の扉を開けると、マスターはカウンターの奥でコーヒー豆を計っていた。
こちらに気づいて、かるく頷く。
「免許、取れました」
そう言うと、マスターは計量スプーンをそっと置いて、微笑んだ。
「そうか。おめでとう。また一歩前進だね。
免許を取ると、世界が広がる。今までよりも行動範囲が広くなるし、経験できることも増えるだろう。楽しみだね」
カウンターの端の席に座って、マスターの淹れてくれたコーヒーを飲む。
窓から差し込む冬の日差しを受けたコーヒーが、濃い琥珀色に揺れている。
「それで、最初はどこへ行くつもりなんだい」
そう聞かれて、少し迷った。
「海が見たいです。せっかくだから、キッチンカーで行ってみようかと」
「いいね。旅の始まりにふさわしいかもね。
それに距離もちょうどいいし、初めてのドライブにはいいと思うよ」
店を出ると夕方の風は、もう冬そのものだった。
頬を刺す冷たい風の中で、キッチンカーの鍵を握り直す。
旅はまだ始まっていない。
けれど、確かに一歩進んだ。その思いを嚙み締めた。




