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ファーストウィンド・ビターロード(ライク・ア・ハリケーンⅢ)  作者: ままま


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8/11

風の手応え

車屋の事務所の隅にある古い流しで、紙のフィルターを広げた。

接着された継ぎ目のところを指で折ってから、ドリッパーにセットして、ケトルの湯で紙を湿らせる。


湯の温度、挽き目、蒸らしの時間、注ぐ位置、注ぐ速さ。

今の自分にできる最良のコーヒーを淹れる。そんな思いで、粉の中央に、細く湯を落とす。



事務机の前に置かれた椅子では、親父さんが雑誌を読んでいる。姿勢を変えるたびに、盛大に椅子が軋む。

窓の外では、午後の風がトタンを鳴らしている。


最初にここで淹れた一杯を思い出す。

あのときは、一口すすって顔をしかめ、「コーヒー屋だけはやめとけ」と言われてしまった。


あれから、ずいぶん練習した。

マスターに教わったことを、ただ真似するだけではなく、自分なりにいろいろと試してみた。

まだマスターには及ばないが、それなりに美味いコーヒーを淹れる自信もある。


最初は、喫茶店のマスターに飲んでもらうつもりだった。

しかし、マスターには、

「僕は、コーヒーの淹れ方はいくらでも教えてあげるつもりだよ。

でも、君が工夫したものに対して、それを良いとか、悪いとか言うのは僕の役目じゃないと思う」

そう言われてしまったのだ。



カップに注いだコーヒーを、親父さんの前に置く。

親父さんは雑誌を置いて、油で黒ずんだ指でカップの取っ手をつまんだ。


一口すすって、何も言わない。

カップをもう一度持ち上げ、今度はゆっくり口に含んだ。


「前より、随分よくなったよ。ちゃんと飲める」


褒められたと思って、良いのだろうか?


「ペーパーフィルターの使い方も上手くなった。マスターのところはネルだから、自分で工夫したんだろ。まずまずだな」

コーヒーの良し悪しなんて気にしなさそうな見た目なのに、驚くほど鋭いことを言う。


「まったく、見かけによらず、うるさいですね」

「見かけで言うな。俺はもともと、マスターの店の客だからな、不味いもんには口が慣れん」


「春までには、美味いと言わせてみせますよ」



外に出ると、風が少し冷たくなっていた。夏の終わりとも、秋の始まりとも言い切れない匂いがする。風にあおられた雑草が倒れては戻る。


敷地の隅には、塗装の剥げたままのキッチンカーが止まっている。

キッチンカーのドアに手をかけると、金属のひんやりとした感触が手のひらに心地いい。


事務所の窓の中から、「内装材、明日届くぞ」と、親父さんが言った。


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