ヒマダナー
宇宙船「アホウドリ号」は今日も多次元宇宙を漂っていた。
特に目的地はない。
なぜなら船長が白井キャプテンだからだ。
白井キャプテン「おいみんな!」
ペリカリノ「嫌な予感しかしねえな。」
白井キャプテン「今から船を逆走させる!」
ペリカリノ「宇宙に逆走の概念あんのかよ!」
タルト「厳密にはありません。」
白井キャプテン「じゃあ作る。」
ペリカリノ「作るな。」
ネコさん「みんな元気でいいことだにゃ〜。」
ネクタイ「パン。」
ジェントル「ガンダで行くぜ!」
ペリカリノ「お前は何に対して言ってんだよ!」
すると突然、タルトの声が船内に響いた。
タルト「報告です。」
白井キャプテン「おっ。」
タルト「前方に惑星を発見しました。」
白井キャプテン「よし行こう。」
ペリカリノ「判断が0.2秒。」
タルト「分析します。」
船内モニターに情報が表示される。
【惑星名:ヒマダナー星】
【住民数:12億】
【文明レベル:高】
【特徴:住民全員が極度の無気力】
ネクタイ「仲間。」
ペリカリノ「お前の故郷じゃねえのか。」
ネクタイ「パン。」
タルト「住民は一日平均23時間58分横になっています。」
ペリカリノ「残り2分何してんだよ。」
タルト「食事です。」
ネクタイ「理想郷。」
白井キャプテン「面白そうだから着陸!」
ペリカリノ「毎回それだな!」
宇宙船はヒマダナー星へ降下した。
外へ出ると、
街中の人々が寝転がっていた。
公園でも。
道路でも。
店の中でも。
市役所でも。
全員寝転がっている。
ジェントル「うおおおお!!」
誰も反応しない。
ジェントル「おおおおおおお!!」
誰も反応しない。
ペリカリノ「逆にすげえな。」
すると地面に寝そべったままの男性が話しかけてきた。
住民「ようこそ。」
ペリカリノ「寝たまま!?」
住民「立つの面倒なので。」
白井キャプテン「最高だな!」
ペリカリノ「どこがだよ!」
住民「最近困ったことがありまして。」
白井キャプテン「ほう。」
住民「発電所が止まりました。」
ペリカリノ「大問題じゃねえか。」
住民「直すの面倒なので放置してます。」
ペリカリノ「大問題だろ!!」
住民「誰も行きたがらなくて。」
ネクタイ「パン工場は。」
住民「止まりました。」
ネクタイ「……。」
全員が振り返る。
ネクタイがゆっくり立ち上がった。
ペリカリノ「立った!!」
ネコさん「珍しいにゃ。」
ネクタイ「パンが。」
白井キャプテン「おう。」
ネクタイ「作れない。」
ジェントル「うおおおおお!!」
ペリカリノ「なんでお前も燃えてんだよ!」
ネクタイ「発電所へ行く。」
白井キャプテン「よし行こう!」
ペリカリノ「結局行くんかい!」
タルト「発電所まで700キロです。」
ジェントル「ガンダで行くぜ!」
シュゴォォォォォォォォッ!!!
ペリカリノ「消えた!?」
数秒後。
通信が入る。
ジェントル『着いたぜ!』
ペリカリノ「早すぎるだろ!!」
タルト「計算上、音速を超えています。」
ペリカリノ「人間やめてる!」
白井キャプテン「よし俺たちも行こう。」
ペリカリノ「だから移動方法を説明しろ!!」
ネコさん「お散歩にゃ〜。」
ネクタイ「パン。」
タルト「船を使えば5分です。」
ペリカリノ「最初からそれで行けよ!!」
アホウドリ号は発電所へ向かった。
5分後。
巨大な施設の前に到着する。
その頃。
ジェントルは既に施設の入口で腕を組んで待っていた。
ジェントル「遅かったな!」
ペリカリノ「お前が速すぎるんだよ!」
白井キャプテン「さて。」
タルト「発電所の状況を解析します。」
数秒後。
タルト「故障ではありません。」
ペリカリノ「え?」
タルト「電源が切られています。」
ネコさん「誰かが止めたのかにゃ?」
タルト「その可能性が高いです。」
白井キャプテン「面白くなってきたな。」
ペリカリノ「お前だけだよ。」
全員で施設へ入る。
中は静まり返っていた。
異常なほど静かだ。
ジェントル「誰もいねえな!」
ネクタイ「パン工場。」
ペリカリノ「今は発電所だ。」
ネクタイ「パン工場。」
ペリカリノ「聞いてねえ。」
すると。
巨大モニターが突然点灯した。
ブゥン。
画面に一人の男が映る。
謎の男「ようこそ。」
ペリカリノ「誰だよ。」
謎の男「私は発電所管理者。」
白井キャプテン「へえ。」
謎の男「私が発電所を止めた。」
ペリカリノ「やっぱりか。」
管理者「この星の住民は怠けすぎだ。」
ペリカリノ「それはそう。」
管理者「だから電気を止めた。」
ペリカリノ「極端!!」
管理者「文明を失えば働くと思った。」
ネコさん「それは困るにゃ。」
管理者「ところが。」
管理者は頭を抱えた。
管理者「全員そのまま寝た。」
ペリカリノ「だろうな!!」
管理者「3ヶ月待った。」
ペリカリノ「長ぇな。」
管理者「誰も来ない。」
白井キャプテン「だろうな。」
管理者「半年待った。」
ペリカリノ「まだ待ったの!?」
管理者「誰も来ない。」
管理者「1年待った。」
ペリカリノ「暇人か!!」
管理者「結果。」
管理者の後ろの映像が映る。
大量の住民。
全員寝ている。
管理者「文明だけ消えた。」
ペリカリノ「当然だろ!!」
ネコさん「かわいそうにゃ。」
管理者「私は負けた。」
白井キャプテン「うむ。」
管理者「だから帰る。」
ペリカリノ「帰るんかい。」
ブツッ。
通信が切れた。
沈黙。
ジェントル「つまりスイッチ押せばいいのか?」
タルト「はい。」
ペリカリノ「え。」
タルト「原因はそれだけです。」
ペリカリノ「今までの話なんだったんだよ!!」
白井キャプテン「押そう。」
ポチッ。
ゴォォォォォォォォォン!!
施設全体が起動する。
街中へ電気が流れ始める。
タルト「復旧完了。」
ジェントル「終わったな!」
ネクタイ「パン。」
ネコさん「よかったにゃ。」
すると突然。
警報が鳴った。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!
ペリカリノ「今度はなんだ!?」
タルト「新たな問題です。」
白井キャプテン「ほう。」
タルト「発電所の地下5000メートルから未知の生命反応を検知。」
全員「え?」
タルト「サイズ推定。」
タルトは少し沈黙した。
タルト「全長約120キロ。」
ペリカリノ「は?」
ジェントル「デカいな!」
ペリカリノ「デカいで済ますな!!」
地面が揺れる。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
ネコさん「揺れてるにゃ。」
ネクタイ「パン。」
ペリカリノ「なんで平常運転なんだよ!!」
さらに揺れが大きくなる。
ゴォォォォォォォン!!
発電所の床に巨大な亀裂が走った。
タルト「対象、上昇中。」
白井キャプテンの目が輝く。
白井キャプテン「当たり惑星だな!」
ペリカリノ「毎回それ言ってるだろ!!」
そして。
地下の闇の中から、
ゆっくりと巨大な何かが姿を現し始めた――。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
床が割れる。
壁が割れる。
発電所そのものが悲鳴を上げる。
そして――
ズモォォォォォォォォォォォォン!!!
巨大な何かが地上へ飛び出した。
ペリカリノ「うわあああああ!?」
ジェントル「でけえええええ!!」
ネコさん「大きいにゃ〜。」
タルト「計測中。」
白井キャプテンは双眼鏡を取り出した。
ペリカリノ「そんなもんで見えるのかよ!」
白井キャプテン「見える。」
ペリカリノ「見えるのかよ!」
タルト「対象を識別。」
モニターに表示される。
【名称:グータラス】
【種族:超巨大地下生命体】
【全長:123km】
【主食:電気】
【性格:面倒くさがり】
ペリカリノ「この星らしい生き物だな!!」
グータラスは巨大な頭を地上へ出した。
しかし。
全然動かない。
ペリカリノ「ん?」
グータラス「……。」
動かない。
ジェントル「寝てる?」
タルト「寝ています。」
ペリカリノ「寝てるの!?」
白井キャプテン「かわいいな。」
ペリカリノ「123kmあるぞ!?」
ネクタイ「親近感。」
ペリカリノ「お前は親近感を覚えるな。」
するとタルトが新たな分析結果を表示した。
【警告】
【空腹度:99%】
ペリカリノ「嫌な予感。」
タルト「電気が復旧したため目覚める可能性があります。」
ペリカリノ「復旧させたの俺たちじゃねえか!」
タルト「正確にはキャプテンです。」
ペリカリノ「どうでもいいよ!」
その瞬間。
グータラスの目が開いた。
カッ。
街一つほどある巨大な目。
ジェントル「起きた!」
ネコさん「おはようにゃ〜。」
グータラス「……。」
ペリカリノ「挨拶してる場合か!?」
グータラスはゆっくり顔を上げる。
そして。
発電所を見る。
さらに。
口を開く。
グォォォォォォォォォォォ……
タルト「予測。」
タルト「発電所を食べます。」
ペリカリノ「やっぱり!!」
白井キャプテン「なるほど。」
ペリカリノ「なるほどじゃねえ!」
グータラスの口の中へ大量の電流が吸い込まれ始めた。
バチバチバチバチ!!
発電所の出力がどんどん減る。
タルト「残り80%。」
タルト「70%。」
タルト「60%。」
ペリカリノ「早い早い早い!!」
住民たちもようやく集まり始めた。
しかし。
全員寝転がっている。
住民A「なんか食べてるな。」
住民B「食べてるな。」
住民C「寝るか。」
ペリカリノ「どういう民族だよ!!」
ネクタイ「参考になる。」
ペリカリノ「なるな。」
白井キャプテンは腕を組んだ。
白井キャプテン「よし。」
ペリカリノ「お?」
白井キャプテン「グータラスを説得しよう。」
ペリカリノ「珍しく平和的だな。」
白井キャプテン「いや。」
白井キャプテンはニヤリと笑った。
白井キャプテン「宇宙で一番デカいパンを作れば仲良くなれる。」
場が静まる。
ペリカリノ「……。」
ネコさん「……。」
ジェントル「……。」
タルト「……。」
ネクタイだけが立ち上がった。
ネクタイ「やる。」
ペリカリノ「お前だけかよ!!」
ネクタイの目が燃えていた。
ネクタイ「パン。」
白井キャプテン「パン。」
ネクタイ「パン。」
白井キャプテン「パン。」
ペリカリノ「会話成立してんじゃねえよ!!」
するとタルトが言った。
タルト「可能です。」
ペリカリノ「え?」
タルト「この星の全小麦を集めれば直径4キロのパンを製造できます。」
ネクタイ「足りない。」
タルト「アホウドリ号の非常用小麦を使えば7キロになります。」
ネクタイ「まだ足りない。」
ペリカリノ「どこを目指してるんだよ。」
白井キャプテン「よし。」
白井キャプテンは親指を立てた。
白井キャプテン「宇宙一のパンを作るぞ。」
グータラスは今まさに発電所を食い尽くそうとしている。
なのに。
アホウドリ号の連中はなぜか巨大パン作りを始めようとしていた。
ペリカリノ「いや終わらせろよこの問題を!!」
白井キャプテン「パンで終わる。」
ペリカリノ「意味が分からねえ!!」
しかしもう遅い。
白井キャプテンはアホウドリ号へ走り出していた。
白井キャプテン「巨大パン製造計画開始!」
ジェントル「ガンダで行くぜ!」
シュゴォォォォォォォォ!!
ネクタイ「パン。」
ネコさん「お手伝いするにゃ〜。」
ペリカリノ「聞けよお前ら!!」
タルト「なお成功確率は高いです。」
ペリカリノ「なんでだよ!?」
タルト「グータラスは電気より炭水化物を好む可能性があります。」
ペリカリノ「その情報どこから出てきた!?」
タルト「勘です。」
ペリカリノ「AIが勘で喋るな!!」
―――
数時間後。
惑星中の小麦。
惑星中のパン職人。
惑星中のオーブン。
さらにアホウドリ号の設備。
全部を総動員して作られた。
直径11キロ。
厚さ900メートル。
重量不明。
もはや地形。
そんな超巨大パンが完成した。
住民たちですら少しだけ起き上がる。
住民A「でか。」
住民B「でか。」
住民C「寝るか。」
ペリカリノ「感想それだけかよ!」
白井キャプテン「よし!」
ネクタイ「行け。」
ジェントル「ガンダで行くぜ!!」
ジェントルが巨大パンを押す。
ズゴゴゴゴゴゴゴ!!
パンが転がる。
山脈を越え。
平原を越え。
発電所の前へ。
そして。
グータラスの前で止まった。
グータラス「……?」
巨大な目がパンを見る。
ネクタイ「パン。」
白井キャプテン「食え。」
グータラス「……。」
沈黙。
ペリカリノ「頼むぞ……。」
次の瞬間。
グータラスが口を開いた。
ガブッ。
パンの端が消える。
モグモグモグモグ……
全長123キロの怪物が、
無言でパンを食べ始めた。
モグモグモグモグ……
モグモグモグモグ……
タルト「解析。」
タルト「喜んでいます。」
ペリカリノ「顔で分かれよ!!」
30分後。
巨大パンは消滅した。
グータラスは満足そうに目を閉じる。
そして。
ゴロン。
横になった。
ペリカリノ「寝た。」
タルト「寝ました。」
ペリカリノ「寝たのかよ。」
グータラスはそのまま地下へ戻っていった。
ズモモモモモ……
再び深い地底へ消えていく。
発電所は無事。
街の電気も無事。
住民たちも無事。
住民A「助かった。」
住民B「助かった。」
住民C「寝るか。」
ペリカリノ「結局寝るんだな!!」
その後。
ヒマダナー星では年に一度、
グータラスへ巨大パンを献上する祭りが始まった。
住民たちは嫌々参加したが、
パンだけは食べたかったのでなんだかんだ続いた。
そしてアホウドリ号。
帰還後。
ネクタイは珍しく満足そうだった。
ネクタイ「いい仕事した。」
ペリカリノ「お前今日一番活躍したな。」
ネクタイ「パン。」
白井キャプテン「パンは宇宙を救う。」
ペリカリノ「救わねえよ。」
タルト「今回の教訓。」
ネコさん「なんだにゃ?」
タルト「惑星規模の問題は、たまにパンで解決する。」
ペリカリノ「しねえよ。」
ジェントル「ガンダでパン食いてえ!」
ペリカリノ「意味分かんねえよ!!」
こうしてヒマダナー星の事件は解決した。
そしてアホウドリ号はまた次の多次元宇宙へ向かうのだった。 (ロケットが飛ぶ絵文字)




