何と無く深夜0時以降の食事禁止!
アホウドリ号には規則がある。
その中の一つ。
【深夜0時以降の食事禁止】
理由。
白井キャプテン「夜中に飯を食うと朝飯がうまくなくなる。」
ペリカリノ「それだけかよ。」
タルト「なお制定から3日でキャプテン本人が破っています。」
ペリカリノ「ダメじゃねえか。」
白井キャプテン「ルールは生き物だからな。」
ペリカリノ「言い訳も生き物みたいに動いてんな。」
―――
午前1時。
船内。
しーん。
みんな寝ている。
その頃。
ネコさんはベッドの中で目を開けた。
ネコさん「お腹が空いたにゃ……。」
ぐぅぅぅ。
ネコさん「困ったにゃ。」
船医である。
優しい。
真面目。
だが。
お腹は空く。
ネコさん「少しだけなら大丈夫にゃ……。」
そろり。
そろり。
ネコさんは部屋を出た。
廊下を歩く。
誰もいない。
ネコさん「よかったにゃ。」
その瞬間。
天井から声。
タルト『現在時刻午前2時7分。』
ネコさん「にゃっ!?」
タルト『行き先は食堂ですか。』
ネコさん「違うにゃ。」
タルト『食堂です。』
ネコさん「そうにゃ。」
タルト『正直で素晴らしいです。』
ネコさん「ありがとうにゃ。」
タルト『ルール違反です。』
ネコさん「にゃぁ。」
―――
食堂。
ネコさんは冷蔵庫を開ける。
中には。
魚。
サンドイッチ。
ケーキ。
ジュース。
ネコさん「誘惑がいっぱいにゃ。」
ネコさんは魚を取り出した。
ネコさん「いただきますにゃ。」
パクッ。
ネコさん「美味しいにゃ〜。」
幸せそう。
その時。
ガチャ。
食堂の扉が開いた。
ネコさん「にゃ!?」
入ってきたのは――
ネクタイだった。
ネクタイ「パン。」
ネコさん「こんばんはにゃ。」
ネクタイ「パン。」
ネコさん「内緒にしてほしいにゃ。」
ネクタイ「パン。」
ネコさん「ありがとうにゃ。」
ネクタイは冷蔵庫からパンを取り出した。
ペリカリノ「お前ら何してんだ。」
ネコさん「にゃぁぁぁ!?」
いつの間にかペリカリノがいた。
ネクタイ「パン。」
ペリカリノ「見りゃ分かる。」
ネコさん「秘密にしてほしいにゃ。」
ペリカリノ「断る。」
ネコさん「にゃあ……。」
すると。
ガチャ。
また扉が開く。
ジェントル「ガンダで腹減ったぜ!」
ペリカリノ「なんだその状態。」
ジェントル「寝てた。」
ペリカリノ「普通だな。」
さらに。
ガチャ。
白井キャプテン「夜食!」
ペリカリノ「お前かよ!!」
白井キャプテン「腹減った。」
ペリカリノ「ルール作った本人!!」
白井キャプテン「例外。」
ペリカリノ「毎回それだな!」
タルト『現在、食堂にいる全員がルール違反です。』
ネコさん「みんなだったにゃ。」
ペリカリノ「いや俺まだ食ってねえ。」
タルト『では違反ではありません。』
ペリカリノ「そうだろ。」
白井キャプテン「ペリカリノも食え。」
ペリカリノ「食わねえよ。」
ジェントル「ガンダで食え!」
ペリカリノ「圧力か!?」
ネクタイ「パン。」
ネコさん「お魚もあるにゃ。」
白井キャプテン「ケーキもあるぞ。」
ジェントル「肉もある!」
ペリカリノ「なんで全員勧誘してくんだよ!」
沈黙。
数分後。
ペリカリノ「……。」
モグモグ。
ネコさん「あ。」
白井キャプテン「あ。」
ジェントル「あ。」
ネクタイ「パン。」
ペリカリノ「うるせえ。」
タルト『確認。』
タルト『乗組員全員ルール違反です。』
ペリカリノ「結局そうなるのかよ。」
その翌朝。
食堂のホワイトボード。
白井キャプテンが新しいルールを書いた。
【深夜0時以降の食事禁止】
その下に小さく。
【ただしお腹が空いた場合を除く】
ペリカリノ「禁止とは。」
ネコさん「優しいルールになったにゃ。」
ネクタイ「パン。」
ジェントル「ガンダで賛成!」
タルト『実質撤廃です。』
ペリカリノ「だろうな!!」
その後。
午前1時03分のアホウドリ号は。
しーん……
とはならなかった。
食堂から光が漏れている。
ワイワイ。
ガヤガヤ。
ペリカリノ「なんで普通に集会みたいになってんだよ。」
ネコさん「昨日楽しかったからにゃ〜。」
ジェントル「ガンダで集合したぜ!」
ペリカリノ「お前呼ばれてないだろ。」
ジェントル「勘!」
ペリカリノ「そうかよ。」
食堂には大量の料理が並んでいた。
パン。
魚。
サンドイッチ。
ラーメン。
焼きそば。
ケーキ。
謎の紫色ゼリー。
ネコさん「そのゼリー何にゃ?」
白井キャプテン「知らん。」
ペリカリノ「知らん物を出すな。」
タルト「冷凍庫の奥にありました。」
ペリカリノ「もっとダメだろ。」
ネクタイは既にパンを抱えていた。
まるで抱き枕。
ネクタイ「いいパン。」
ネコさん「そうにゃ?」
ネクタイ「湿度が良い。」
ペリカリノ「パンソムリエかよ。」
ジェントルはラーメンを三杯食べていた。
ジェントル「うめえ!」
ペリカリノ「まだ増えてる!?」
白井キャプテン「よし。」
キャプテンが立ち上がる。
ペリカリノ「嫌な予感。」
白井キャプテン「真夜中食会なので。」
ペリカリノ「うん。」
白井キャプテン「議題を決める。」
ペリカリノ「なんで?」
白井キャプテン「まず第一議題。」
白井キャプテンは真剣な顔になった。
白井キャプテン「パンは主食か。」
ネクタイ「主食。」
ジェントル「主食!」
ネコさん「主食にゃ。」
タルト「一般的には主食です。」
ペリカリノ「満場一致じゃねえか。」
白井キャプテン「可決。」
ペリカリノ「会議早っ。」
白井キャプテン「第二議題。」
ペリカリノ「まだあるの?」
白井キャプテン「魚は泳いでいるから実質乗り物では?」
ネコさん「にゃ?」
ジェントル「確かに!」
ペリカリノ「確かじゃねえよ!」
タルト「否決。」
ペリカリノ「AIがまともで助かる。」
白井キャプテン「第三議題。」
ペリカリノ「まだやるのか。」
白井キャプテン「なぜ宇宙船には宇宙船という名前がついているのか。」
沈黙。
ジェントル「宇宙だから!」
ネクタイ「船。」
ネコさん「宇宙の船にゃ。」
タルト「語源としては――」
白井キャプテン「なるほど。」
ペリカリノ「聞けよ。」
そんな時だった。
タルトが突然沈黙する。
ペリカリノ「ん?」
タルト「……。」
ネコさん「どうしたにゃ?」
タルト「食堂にいる人数を再確認します。」
白井キャプテン「7人。」
ジェントル「7人!」
ネクタイ「パン。」
ペリカリノ「いや6人だろ。」
静寂。
タルト「私も含めて7です。」
ペリカリノ「それならそうだな。」
タルト「ですが。」
モニターが点滅する。
タルト「現在、食堂には8人います。」
全員「……。」
沈黙。
ネコさん「にゃ?」
ジェントル「増えた?」
ペリカリノ「待て待て待て。」
白井キャプテンだけがニヤニヤしていた。
ペリカリノ「なんで嬉しそうなんだよ。」
白井キャプテン「面白そうだから。」
ペリカリノ「知ってた。」
タルト「現在、誰かがテーブルの下にいます。」
全員がゆっくりテーブルを見る。
長いテーブルクロス。
その下。
何かがモゾモゾ動いていた。
ネコさん「にゃあああ!?」
ジェントル「誰だ!」
ネクタイ「パン泥棒か。」
ペリカリノ「発想がパン中心なんだよ!」
白井キャプテンは勢いよくテーブルクロスをめくった。
バサァッ!!
そこにいたのは――
小さな宇宙人だった。
全長30センチ。
丸い。
青い。
そして。
口いっぱいにパンを詰め込んでいた。
宇宙人「むぐ。」
ネクタイ「。」
ネコさん「にゃ。」
ジェントル「おお。」
ペリカリノ「なんでいるんだよ!!」
宇宙人「むぐむぐ。」
ネクタイが立ち上がった。
異常事態である。
パン以外ではまず動かない男が。
ネクタイ「返して。」
宇宙人「むぐ。」
ネクタイ「それ俺の。」
宇宙人「むぐぐ。」
食堂に緊張が走った。
タルト「警告。」
ペリカリノ「何!?」
タルト「パン戦争勃発の可能性があります。」
ペリカリノ「そんな警告初めて聞いたぞ!!」
食堂に緊張が走る。
ネクタイは宇宙人を見ている。
宇宙人はパンを見ている。
パンはパンである。
ペリカリノ「いやパンはパンだろ。」
白井キャプテン「これはまずいな。」
ネコさん「ケンカはダメにゃ。」
タルト「パン戦争発生率73%。」
ペリカリノ「意外と高いな!?」
ネクタイ「……。」
宇宙人「むぐ。」
ネクタイ「……。」
宇宙人「むぐぐ。」
ジェントルが二人の間に割って入った。
ジェントル「待て!」
ペリカリノ「おっ。」
ジェントル「ネクタイ!」
ネクタイ「パン。」
ジェントル「俺のパンやる!」
そう言って自分の皿のパンを差し出した。
ネクタイはパンを見る。
ジェントルを見る。
またパンを見る。
ネクタイ「いいのか。」
ジェントル「幼馴染だからな!」
ネクタイ「……。」
ペリカリノ「なんか珍しくいい話になりそうだな。」
ジェントル「パンがなくても俺は平気だ!」
その瞬間。
グゥゥゥゥゥゥ。
ジェントルのお腹が鳴った。
全員「……。」
ジェントル「平気じゃなかった。」
ペリカリノ「だろうな!」
ネコさん「ふふふにゃ。」
ネクタイはしばらく黙り込んだ。
そして。
パンを半分にちぎる。
ネクタイ「半分。」
ジェントル「おお!」
ネクタイ「半分やる。」
ジェントル「マジか!」
ペリカリノ「お前が分ける側になることあるんだな。」
さらにネクタイは宇宙人の方を向いた。
ネクタイ「そっちも半分。」
宇宙人「むぐ?」
ネクタイ「食え。」
宇宙人は受け取った。
数秒後。
宇宙人の目が輝いた。
宇宙人「ムグーー!!」
タルト「翻訳します。」
タルト「『うめぇ』だそうです。」
ペリカリノ「そんな翻訳あるか?」
白井キャプテン「気に入ったな。」
宇宙人「ムグ!ムグ!」
タルト「『もっと欲しい』です。」
ネクタイ「正直でいい。」
ペリカリノ「お前も似たようなもんだからな。」
いつの間にか食堂の空気は和やかになっていた。
ネコさんは魚料理を取り分ける。
ネコさん「これも美味しいにゃ。」
宇宙人「ムグ!」
タルト「『食べる』です。」
ジェントル「ラーメンも食うか!」
宇宙人「ムグ!」
タルト「『食べる』です。」
白井キャプテン「ケーキは?」
宇宙人「ムグ!」
タルト「『食べる』です。」
ペリカリノ「全部食うじゃねえか。」
その後。
宇宙人はすっかり打ち解けた。
ジェントルとラーメン早食い対決をし、
ネコさんから魚をもらい、
白井キャプテンの意味不明な宇宙話を聞き、
ネクタイとは無言でパンを交換し合った。
ペリカリノ「なんなんだこの光景。」
タルト「平和です。」
ペリカリノ「まあ平和だな。」
午前3時。
みんなお腹いっぱいになっていた。
宇宙人もテーブルの上で丸くなっている。
ネコさん「眠そうにゃ。」
宇宙人「ムグ……。」
タルト「『楽しかった』とのことです。」
白井キャプテン「ならよかった。」
ジェントル「また来いよ!」
ネクタイ「パン持参。」
ペリカリノ「条件付きかよ。」
宇宙人は嬉しそうに頷いた。
こうして、
真夜中のこっそり食事会は、
いつの間にか宇宙人まで交えた大宴会になった。
そして翌朝。
食堂のホワイトボードには新しいルールが追加されていた。
【深夜の食事可】
【友達の飛び入り参加可】
【パンは分け合うこと】
ネクタイ「最後の大事。」
ペリカリノ「お前が言うと重みがあるな。」
宇宙人はその日から時々アホウドリ号へ遊びに来るようになった。
目的はもちろん――
パンだった。 (パンと宇宙人の絵文字)




