胡瓜卵星編2 大富豪ネコさん!
「この星で一番金持ちになってやる!」
白井キャプテンがそう宣言してから、三十分。
白井キャプテン「……どうやって稼ぐんだ?」
ペリカリノ「知らねえよ!」
ジェントル「とりあえず走るか?」
ペリカリノ「何でだよ!」
白井キャプテン「この星では共感がお金になるんだったな」
タルト「はい」
白井キャプテン「じゃあ、誰かに共感してもらえばいい」
ペリカリノ「それができれば苦労しねえんだよ」
ネコさん「共感って、そんなに難しいことじゃないにゃ」
白井キャプテン「そうなのか?」
ネコさん「相手のお話をちゃんと聞けばいいにゃ」
白井キャプテン「なるほど」
白井キャプテンは少し考えた。
そして――
白井キャプテン「ネコさん、やってみてくれ!」
ネコさん「わかったにゃ」
⸻
最初にネコさんが向かったのは、街の小さな公園だった。
ベンチには、一匹の胡瓜星人が座っていた。
胡瓜星人「……はあ」
ネコさん「どうしたにゃ?」
胡瓜星人「最近、畑のキュウリがうまく育たないんです」
ネコさん「それは心配にゃ」
胡瓜星人「昔はもっと簡単に育てられたんですけどね」
ネコさん「前はよく育っていたのに、今は育たなくなったんだにゃ」
胡瓜星人「そうなんです」
胡瓜星人は少し驚いた。
胡瓜星人「……ちゃんと話を聞いてくれるんですね」
ネコさん「もちろんにゃ」
胡瓜星人「実は、今年は息子にも畑を任せたくて……」
ネコさん「それなら、なおさら上手く育ってほしいにゃ」
胡瓜星人「……はい」
チャリン。
一枚。
さらにチャリン。
二枚。
ネコさんは気にせず話を聞き続けた。
畑のこと。
息子のこと。
昔の収穫のこと。
失敗したこと。
嬉しかったこと。
ネコさん「それは大変だったにゃ」
胡瓜星人「ありがとうございます」
チャリン。
チャリン。
チャリン。
公園を少し離れたところから見ていた白井キャプテンたち。
ジェントル「増えてる!」
ペリカリノ「本当に増えてるな……」
タルト「現在、共感通貨十七枚です」
白井キャプテン「すげえ!」
ネクタイ「パン一個買える?」
タルト「購入可能です」
ネクタイ「……」
ネクタイが起き上がった。
ジェントル「おお!」
ネクタイ「パン買いに行く」
ペリカリノ「金稼ぎに来たんじゃねえのかよ!」
⸻
ネコさんは次の場所へ向かった。
今度は、茹で卵星人の店だった。
茹で卵星人「いらっしゃいませ」
ネコさん「こんにちはにゃ」
茹で卵星人「今日はどうされました?」
ネコさん「お話を聞きに来たにゃ」
茹で卵星人「……?」
ネコさん「何か困っていることはないかにゃ?」
茹で卵星人は少し考えた。
茹で卵星人「実は……」
そこから長い話が始まった。
店を始めた理由。
茹で卵を作るのが好きだったこと。
昔はお客さんが少なかったこと。
それでも店を続けたこと。
初めて常連客ができた日のこと。
ネコさんは一つ一つ聞いた。
途中で口を挟むこともない。
急かすこともない。
ただ、ゆっくり聞いていた。
茹で卵星人「……すみません。こんなに話してしまって」
ネコさん「いいにゃ」
茹で卵星人「楽しかったです」
チャリン。
チャリン。
チャリン。
チャリン。
チャリン。
ネコさんの前に、硬貨が落ちていく。
店の外では、いつの間にか人だかりができていた。
胡瓜星人「私も話を聞いてほしい」
茹で卵星人「私も」
別の胡瓜星人「実は昨日……」
別の茹で卵星人「私には悩みが……」
ネコさん「順番に聞くにゃ」
チャリン。
チャリン。
チャリン。
チャリン。
チャリン。
⸻
一時間後。
タルト「共感通貨、五千三百二十枚」
白井キャプテン「五千!?」
ペリカリノ「増え方がおかしいだろ」
ジェントル「すげえぞネコさん!」
ネコさん「みんなのお話を聞いてるだけにゃ」
白井キャプテン「もっと行ける!」
⸻
三時間後。
タルト「二万四千八百枚」
白井キャプテン「二万!」
ペリカリノ「もう十分じゃないか?」
白井キャプテン「まだだ!」
ネコさん「まだ聞けるにゃ」
そしてネコさんは、また街へ向かった。
今度は市場。
市場では、たくさんの住民が商売をしていた。
野菜を売る胡瓜星人。
茹で卵を売る茹で卵星人。
家具を売る胡瓜星人。
宇宙船の部品を売る茹で卵星人。
ネコさんは、店を回った。
ネコさん「今日はどうにゃ?」
胡瓜星人「今日はあまり売れなくて……」
ネコさん「それは残念にゃ」
チャリン。
茹で卵星人「最近、店を大きくしたくて……」
ネコさん「大きくしたいんだにゃ」
チャリン。
胡瓜星人「子供が初めて手伝ってくれたんです」
ネコさん「それは嬉しいにゃ」
チャリン。
茹で卵星人「昨日、妻が褒めてくれて……」
ネコさん「よかったにゃ」
チャリン。
住民たちは次々にネコさんへ話しかけた。
ネコさんは、その一つ一つを聞いた。
そして――
街中に、共感通貨の音が響き始めた。
チャリン。
チャリン。
チャリンチャリン。
チャリンチャリンチャリン。
まるで雨のようだった。
白井キャプテン「…………」
ジェントル「…………」
ペリカリノ「…………」
タルト「共感通貨、十万枚を突破しました」
白井キャプテン「十万!」
タルト「二十万」
白井キャプテン「増えた!?」
タルト「三十万」
ペリカリノ「どうなってんだよ」
タルト「五十万」
ジェントル「ネコさんすげえ!」
タルト「百万」
全員「百万!?」
ネクタイ「パンは?」
ペリカリノ「お前はずっとそれだな!」
⸻
夕方。
街の中央に、巨大な共感通貨の山ができていた。
その前に座るネコさん。
住民たちはまだまだ話したそうにしている。
ネコさん「今日はたくさんお話を聞いたにゃ」
胡瓜星人「こちらこそ」
茹で卵星人「また話を聞いてください」
ネコさん「いつでもいいにゃ」
チャリン。
最後の一枚が落ちた。
タルト「集計終了」
白井キャプテン「いくらだ!?」
タルト「本日のネコさんの収入は――」
一瞬の間。
タルト「現在のネコさんの資産は、3億2千万円相当です」
沈黙。
ジェントル「…………」
ペリカリノ「…………」
白井キャプテン「…………」
ネコさんは、ついにこの惑星の資産ランキング第一位になっていた。
白井キャプテン「大富豪だ!」
ジェントル「すげえ! ネコさん、金持ちじゃん!」
ネコさん「みんなのお話を聞いていただけなのにゃ」
ペリカリノ「それでこれだけ稼ぐの、もう才能だろ……」
そんな会話をしながら、一行は宇宙船へ戻った。
――ところが。
白井キャプテン「……ん?」
白井キャプテンが船内を見回した。
白井キャプテン「ネクタイは?」
ジェントル「パン食ってんじゃね?」
いつもの場所を見る。
いない。
テーブルの上を見る。
パンだけが置いてある。
ジェントル「……あれ?」
ペリカリノ「ネクタイ?」
返事はない。
ペリカリノ「ネクタイー?」
返事はない。
ネコさん「いないにゃ……?」
船内を探し始める。
食堂、いない。
休憩室、いない。
倉庫、いない。
そして、最後にパン置き場。
大量のパンだけが残されていた。
ジェントル「……確かにいないぞ!」
ペリカリノ「いや、なんで今まで気づかなかったんだよ!!」
白井キャプテン「…………」
白井キャプテンは無言で船内を見回した。
白井キャプテン「本当にいないな」
タルト「はい。船内カメラの記録を確認します」
タルトが映像を巻き戻す。
朝。
ネクタイがパンを食べている。
昼。
ネクタイがパンを食べている。
夕方。
ネクタイが――
いない。
タルト「……おかしいですね」
ペリカリノ「どこから消えた!?」
タルト「正確には、昼食後から姿が確認できません」
ジェントル「えっ、俺たちが金稼いでる間に!?」
白井キャプテン「つまり……」
白井キャプテンが立ち上がった。
白井キャプテン「ネクタイは、この惑星のどこかにいる!」
ペリカリノ「当たり前だろ! 宇宙船から消えたんだから!」
ネコさん「探しに行くにゃ」
ネコさんが静かに立ち上がる。
その瞬間。
タルト「待ってください」
一同が振り返った。
タルト「先ほど、この惑星の商業施設を調べていたところ、不審な情報を検出しました」
白井キャプテン「何だ?」
タルト「『特殊商品の入荷』という記録があります」
ペリカリノ「特殊商品?」
タルト「そして、その商品に関する外見情報が――」
タルトが画面を表示した。
そこには、ネクタイの特徴が記録されていた。
ジェントル「…………」
白井キャプテン「…………」
ペリカリノ「…………」
ネコさん「…………にゃ」
ジェントル「まさか……」
ペリカリノ「いやいやいやいや」
白井キャプテン「行くぞ」
ペリカリノ「待て!!」
白井キャプテン「ネクタイを探す!」
ジェントル「ガンダで行くぜ!」
ペリカリノ「お前ら話を聞けぇ!!」
こうして一行は、ネクタイの行方を追って商業施設へ向かった。
――ネクタイは、なぜ消えたのか。
そして、なぜ「特殊商品」として記録されているのか。
大富豪となったネコさんの共感通貨が、ここで初めて役に立つことになる。
次回――
「ネクタイを買う」




