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白井キャプテンの物語  作者: AI(御茶之川)
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アビゲイル編2 「四日間の別宇宙」


弥明後日の都市を出てから、白井キャプテンたちの旅は変わらず続いていた。


アビゲイルは相変わらず、船の隅で静かに座っていることが多い。


けれど、あの日から少しだけ違うことがあった。


誰かが「次、行くぞ」と言うたびに、彼女は席を立つようになっていた。


タルト「本日より、四日連続で異なる宇宙へ向かいます」


白井「聞いてないぞ」


タルト「たった今決定しました」


白井「じゃあいい」


ペリカリノ「決め方が雑すぎるだろ!!」


ネクタイ「パンは?」


タルト「四日分、積んであります」


ネクタイ「よし」


ペリカリノ「お前の許可制なのかよ!!」


アビゲイルは、その騒がしさを窓際から眺めていた。


四日間。


短いようで、何かがありそうな長さだった。


白井「アビゲイル」


アビゲイル「はい」


白井「一日ずつ、いろんな星に行くぞ」


アビゲイル「それは、聞いてから決めるものじゃないんですか」


白井「もう決めた」


アビゲイル「……」


白井「嫌なら降りていいぞ」


アビゲイル「……行きます」


白井「よし」


それだけだった。


宇宙船が加速する。


一日目の宇宙へ向かって。


――――


【一日目】ブランコ・タウン


宇宙船が着陸したのは、色とりどりの屋根が並ぶ小さな街の外れだった。


街のあちこちに、大小さまざまなブランコが吊るされている。


道の真ん中にも、店の軒先にも、木の枝にも。


ジェントル「すげえ! ブランコだらけだ!」


ペリカリノ「なんだこの街……」


タルト「この街の名前は『ブランコ・タウン』です」


白井「そのままだな」


タルト「はい」


街を歩いていると、大工道具を持ったカモの集団が忙しそうに新しいブランコを組み立てていた。


カモの大工「クワッ、クワッ」


ジェントル「働いてる! カモが働いてる!」


ペリカリノ「普通に器用だな……」


その隣を、耳が二重になっている以外は人間とほぼ変わらない住民たちが、ブランコに乗りながら通り過ぎていく。


住民の一人「いらっしゃい、旅の人」


白井「ここはどういう街だ?」


住民「ブランコに乗らないと、どこにも行けない街だよ」


ペリカリノ「は?」


住民「歩くのは禁止じゃないけど、みんな漕いでいくのさ」


ジェントル「面白い!」


ネコさん「にゃんだか楽しそうにゃ」


ネクタイ「パンの店は?」


住民「あそこにあるよ」


ネクタイ「行く」


ペリカリノ「即決すんな!!」


アビゲイルは、目の前に並ぶブランコをじっと見ていた。


白井「乗るか?」


アビゲイル「……乗ったことないです」


白井「じゃあ今日が最初だな」


アビゲイル「……」


白井は迷わず近くのブランコに座り、勢いよく漕ぎ始めた。


白井「おーい、来いよー!楽しいぞー!」


アビゲイル「無茶な誘い方ですね」


白井「知ってる」


アビゲイルは、隣の小さなブランコにそっと腰を下ろした。


最初はぎこちなく。


少しずつ、揺れが大きくなっていく。


風が頬をかすめる。


見たことのない街の屋根が、視界の端で揺れながら流れていく。


アビゲイル「……」


白井「どうだ」


アビゲイル「……酔いそうです」


白井「それは乗り方が下手なだけだ」


アビゲイル「初めてだと言いました」


白井「じゃあ仕方ないな」


そう言いながら、白井は特に手を貸そうともしなかった。


けれど、アビゲイルは自分でこいでいた。


誰にも押してもらわず、誰にも急かされず。


ただ自分の足で、地面を蹴っていた。


カモの大工たちが、新しいブランコを一つ、街の広場に完成させた。


住民たちが拍手をする。


ジェントル「俺も手伝いたい!」


カモの大工「クワッ」


ジェントル「よし、任された!」


ペリカリノ「勝手に解釈すんな!!」


夕方になる頃、街全体がブランコの軋む音で満ちていた。


ぎい、ぎい、という音が、まるで街の呼吸のようだった。


アビゲイルはブランコを漕ぐ足を止め、揺れが自然に収まっていくのに任せた。


アビゲイル「……不思議な街ですね」


白井「そうだな」


アビゲイル「歩くこともできるのに、みんな漕いでいる」


白井「そのほうが楽しいからだろ」


アビゲイル「歩いたほうが早いのに」


白井「早さは関係ないんじゃないか」


アビゲイルは、もう一度だけブランコを軽く漕いだ。


――――


【二日目】水中花火の惑星


二日目に降り立ったのは、誰もいない静かな惑星だった。


空には、大小さまざまな岩がゆっくりと浮かんでいる。


そして、地面の代わりに広がる透き通った水の中では、絶え間なく花火が咲いていた。


パッ、と光っては、水の抵抗を受けてゆっくりと広がり、消えていく。


音もなく。


ジェントル「うおおお! 水の中で花火!」


ペリカリノ「なんでこんな現象が起きるんだよ……」


タルト「解析中です。おそらく、この星特有の鉱物と水の反応によるものと思われます」


白井「綺麗だな」


ペリカリノ「それで済ませるのかよ」


ネコさん「にゃんて綺麗な星にゃ……」


一行は、水辺に近い平らな岩の上にシートを広げ、ランチにすることにした。


ネクタイが黙々とパンとおかずを並べていく。


白井「ジェントル、ペリカリノ、ネコさんは向こうの岩を見てこい」


ジェントル「了解!」


ペリカリノ「なんで俺まで……」


ネコさん「行ってみようにゃ」


三人が離れていく。


白井とタルトも、少し先の花火をタルトのカメラで観測しに歩いていった。


残ったのは、アビゲイルとネクタイだけだった。


アビゲイル「……」


ネクタイ「……」


しばらく、水中の花火だけが音もなく咲いては消えていった。


ネクタイ「パン、いる?」


アビゲイル「……もらいます」


ネクタイが無言でパンを差し出す。


アビゲイルはそれを受け取り、少しだけかじった。


アビゲイル「……美味しいです」


ネクタイ「うん」


またしばらく沈黙が続く。


それはむしろ、久しぶりに心地よい静けさだった。


アビゲイル「ネクタイさんは、いつもパンのことばかり考えているんですか」


ネクタイ「そう」


アビゲイル「どうしてですか」


ネクタイ「……分からない」


アビゲイル「……」


ネクタイ「でも、パンは裏切らない」


アビゲイル「そうですね」


ネクタイ「あなたは?」


アビゲイル「私、ですか」


ネクタイ「何が好き」


アビゲイルは、少し考えた。


昔なら、即座に「特にありません」と答えていただろう。


けれど今は、水の中で咲いては消える花火をしばらく見つめてから、こう答えた。


アビゲイル「……静かな時間、でしょうか」


ネクタイ「今みたいな」


アビゲイル「はい」


ネクタイ「分かる」


それだけだった。


けれど、それで十分だった。


花火が一つ、水の底からゆっくり浮かび上がるように咲いた。


アビゲイルはそれを目で追いながら、パンの残りを口に運んだ。


遠くで、ジェントルの叫び声が聞こえた。


ジェントル「デカい岩見つけた――!」


ペリカリノ「登るな危ない!!」


ネクタイ「……騒がしい」


アビゲイル「そうですね」


ネクタイ「でも、嫌いじゃない」


アビゲイル「……私もです」


――――


【三日目】昆虫の惑星


三日目、白井キャプテンとジェントル、タルトの三人は、惑星の調査に出かけることになった。


白井「今日はお前ら三人、船で留守番だ」


ペリカリノ「なんで俺まで!」


白井「ネコさんとアビゲイルと一緒にいろ」


ペリカリノ「保護者かよ!!」


ネコさん「三人でのんびりしようにゃ」


アビゲイル「……はい」


白井、ジェントル、タルトは、赤茶けた地面が広がる惑星へと歩いていった。


まるで火星のような景色。


けれど、その岩陰やくぼみには、様々な大きさの昆虫たちが暮らしていた。


小さなアリのような虫が列をなして歩き、頭上には手のひらほどのトンボが飛んでいる。


ジェントル「昆虫だらけだ!」


白井「面白そうだな」


タルト「一部の種は、体長が二メートルを超えます」


白井「もっと面白そうだな」


三人が遠ざかっていくのを、船の窓からペリカリノ、ネコさん、アビゲイルの三人が眺めていた。


ペリカリノ「あいつら、絶対トラブル起こすぞ」


ネコさん「白井キャプテンだからにゃ」


アビゲイル「よく分かりますね」


ネコさん「長い付き合いだからにゃ」


三人はしばらく、窓の外を眺めながら過ごしていた。


ペリカリノは膝を抱えて座り、ネコさんは丸くなって欠伸をし、アビゲイルはその隣で静かに景色を見ていた。


アビゲイル「……ペリカリノさんは、白井さんたちのこと、心配なんですか」


ペリカリノ「別に心配なんかしてねえよ」


ネコさん「にゃふふ」


ペリカリノ「何笑ってんですか!」


ネコさん「素直じゃないにゃあ」


ペリカリノ「うるさいですよ!!」


アビゲイルは、それを見て、少しだけ口元を緩めた。


その時だった。


地面が小さく揺れた。


タルトの通信が船内に響く。


タルト『警告。巨大昆虫が船に接近中』


ペリカリノ「は!?」


窓の外を見ると、遠くの岩陰から、体長三メートルはあろうかという巨大なカブトムシがこちらへ向かって歩いてきていた。


ネコさん「にゃ、にゃんて大きさにゃ……」


アビゲイル「……逃げたほうが」


ペリカリノ「いや、待って」


ペリカリノが窓に張り付き、カブトムシを睨みつける。


ペリカリノ「……船を壊されたら困るだろ」


ネコさん「ペリカリノちゃん?」


ペリカリノ「行ってくる!」


ネコさん「危ないにゃ!」


ペリカリノ「大丈夫、雷でびびらせるだけだから!」


そう言うと、ペリカリノは船の外に飛び出していった。


雷の魔法使いらしく、手のひらに小さな稲光をまとわせながら。


ペリカリノ「うおおおおお!! こっち来んな――!!」


パチッ、と小さな雷がカブトムシの角の先をかすめる。


カブトムシは驚いたように後ずさりし、方向を変えて岩陰へと去っていった。


ペリカリノ「……よし、勝った」


船の中から、ネコさんとアビゲイルがその様子を見ていた。


ネコさん「かっこよかったにゃあ」


ペリカリノが戻ってくると、頬を赤くしながら、ぶっきらぼうに言った。


ペリカリノ「別に、船を壊されたくなかっただけだから」


ネコさん「にゃふふ、素直じゃないにゃあ」


ペリカリノ「うるさいですって!!」


アビゲイルは、その光景をずっと見ていた。


アビゲイル「……危ないのに、迷わず飛び出すんですね」


ペリカリノ「は? 別に迷ったし」


アビゲイル「そう見えませんでした」


ペリカリノ「……うるさい」


アビゲイルは、小さく笑った。


このクルーは、誰も彼も、危ないと分かっていて動く。


もう、何度目かの発見だった。


夕方、白井たちが帰ってくると、ジェントルの服のあちこちに虫刺されの跡があり、白井は満足げな顔をしていた。


白井「いい星だったな」


ペリカリノ「こっちも色々あったんだよ!!」


白井「聞かせてくれ」


ペリカリノ「……別に、大したことじゃない」


そう言いながらも、ペリカリノはどこか誇らしげだった。


――――


【四日目】灼熱の惑星


四日目、宇宙船が降り立ったのは、太陽に近すぎるほどの灼熱の惑星だった。


タルト「地表温度、摂氏六十度以上です」


ペリカリノ「そんなとこ降りるのかよ!?」


白井「防護服がある」


タルト「全員分、準備済みです」


ペリカリノ「準備良すぎるだろ!!」


全員が銀色の防護服に身を包み、船の外に出た。


赤く乾いた大地が、地平線まで広がっている。


人の気配はどこにもない。


完全に無人の惑星だった。


ジェントル「暑いけど、なんか気持ちいいな!」


ペリカリノ「暑いだけだよ!!」


ネコさん「防護服のおかげで平気にゃ」


ネクタイ「パン、溶けそう」


タルト「防護ケースに入れてあります」


ネクタイ「よし」


アビゲイルは、ヘルメット越しに広がる景色を眺めていた。


見渡す限りの赤い大地。


生き物の気配はなくとも、ところどころに、深い赤色の小さな実をつけた低木が群生していた。


タルト「あの植物は、この星特有の野生種です。通称『メチャ熱ベリー』」


ジェントル「メチャ熱!?」


タルト「食べると口の中が驚くほど熱くなるという意味で、そう名付けられているようです」


ペリカリノ「意味わかんねえ名前だな……」


白井「よし、今日の夕飯はそれにするか」


ペリカリノ「決め方軽すぎるだろ!!」


一行は防護服のまま、低木からメチャ熱ベリーを摘み始めた。


深い赤色の実は、防護服の手袋越しでもほんのりと熱を感じるほどだった。


アビゲイルも、しゃがみ込んで一つ、また一つと丁寧に摘んでいく。


白井「アビゲイル」


アビゲイル「はい」


白井「怖くないか」


アビゲイル「何がですか」


白井「知らない星で、知らない実を食う」


アビゲイルは、手の中の赤い実を見つめた。


アビゲイル「……前だったら、絶対にしなかったと思います」


白井「今は?」


アビゲイル「今は、少し楽しいです」


白井「そうか、楽しいなら最高だな!」


籠いっぱいにベリーを集め終えた頃、太陽がゆっくりと地平線へ沈み始めた。


赤い大地が、さらに深い赤に染まっていく。


船に戻り、防護服を脱いだ一行は、さっそく夕食の準備を始めた。


ネクタイが手際よくベリーを刻み、ネコさんが鍋を用意する。


ジェントル「うまそうな匂いがしてきた!」


ペリカリノ「熱そうな匂いの間違いだろ」


タルト「調理完了まで、あと三分です」


出来上がったのは、真っ赤なスープだった。


一口すすった瞬間、全員の口から同時に声が上がった。


白井「熱っ!!」


ジェントル「アツアツ!!」


ペリカリノ「なんだこの辛さ!!」


ネコさん「にゃあああ!!」


ネクタイ「……美味しい」


ペリカリノ「お前だけ冷静なのおかしいだろ!!」


アビゲイルも、恐る恐る一口すすった。


口の中に、じんわりと熱が広がる。


辛いというより、確かに「熱い」としか言いようのない不思議な感覚だった。


アビゲイル「……本当に、熱いですね」


白井「だろ?」


アビゲイル「でも」


一口、また一口。


アビゲイル「美味しいです」


白井「だよなー」


ジェントル「分かる!!」


窓の外では、赤い惑星の夜がゆっくりと訪れていた。


四人と一匹の猫と一台のAI、そしてアビゲイルを乗せた宇宙船の中に、笑い声と、時々の悲鳴が混ざり合っていた。


アビゲイルは、スープの湯気の向こうで揺れる、みんなの顔を眺めていた。


四日間。


ブランコの街。


水中の花火。


巨大な虫。


熱すぎるスープ。


どれも、彼女が今まで選ばなかった時間だった。


けれど、今はどれも、悪くないと思えた。


アビゲイルは、スプーンを置き、小さく息をついた。


アビゲイル「……」


白井「どうした」


アビゲイル「いえ」


アビゲイル「明日は、どこに行くんですか」


白井「まだ決めてないなー」


アビゲイル「そうですか」


白井「決まったら教える!」


アビゲイル「……はい」


窓の外、赤い惑星がゆっくりと闇に沈んでいく。


宇宙船の明かりだけが、静かにその夜を照らしていた。


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