「フ……。多次元宇宙を説明する」の巻
宇宙船《オデッセイβ》の食堂。
今日は珍しく、全員がテーブルを囲んでいた。
きっかけはペリカリノの一言だった。
ペリカリノ「おい白井。お前、宇宙のこと詳しいんだろ」
白井キャプテン「まあな」
ペリカリノ「だったら教えろよ。俺たち、お前の知識の深さとかよくわかってねえし」
ジェントル「そうだぜ! ガンダで教えてくれよ!」
ネクタイ「……パンの話のついでに」
ネコさん「にゃんか面白そうにゃ」
タルト『統計上、白井キャプテンが本気で宇宙について語った記録は、過去3年間でわずか2回です』
白井キャプテンはコーヒーを一口飲んで、ニヤリと笑った。
白井キャプテン「いいぜ。じゃあ今日は特別に、宇宙の話してやる」
ペリカリノ「よし、まずは基本から。この宇宙ってどうなってんだ?」
白井キャプテン「この宇宙は“第三層観測可能領域”だな」
ペリカリノ「は?」
白井キャプテン「俺たちが普段いるこの空間は、多次元構造の中で“観測可能な第三層”に分類される。第一層は純粋情報空間、第二層が因果律固定層、で俺たちがいるのが第三層の“物質・時間固定層”」
ペリカリノ「……なに言ってんだお前」
タルト『補足します。白井キャプテンの発言は、現行の多次元宇宙論における標準モデルと一致しています』
ペリカリノ「マジかよ」
ジェントル「で、多次元って何次元まであるんだ?」
白井キャプテン「観測可能なのは11次元まで。ただし“意味のある構造”として安定してるのは7次元までだ。8次元以上は“可能性の海”になってて、定まった法則が存在しない」
ネクタイ「……パンは何次元にある?」
白井キャプテン「パンは三次元に存在するが、味覚情報は五次元まで干渉する。だから同じパンでも、食べる場所の因果密度によって味が変わる」
ネクタイ「……なるほど」
ペリカリノ「なるほどじゃねえよ! なんでパンの話になるんだよ!」
ネコさん「でも面白いにゃ。じゃあ、この船が多次元を旅できるのはなんでにゃ?」
白井キャプテン「《オデッセイβ》の航行システムは“層間跳躍型”だ。普通の宇宙船は三次元空間を移動するだけだが、この船は第二層の因果律を一時的に書き換えて、異なる第三層へ移動できる」
タルト『正確です。ただし白井キャプテンが手動で座標を指定する場合、成功率が12%低下します』
白井キャプテン「気にするな。面白い座標を選べば成功する」
ペリカリノ「それ絶対嘘だろ」
ジェントル「で、白井はなんでそんなに詳しいんだ?」
白井キャプテン「旅してるからだ」
ペリカリノ「それだけかよ」
白井キャプテン「違う。俺は“記憶を層に残す”タイプの旅人だからな」
一同「?」
白井キャプテン「普通の生き物は一つの第三層でしか生きられない。だが一部の存在は、異なる層を移動するたびに“層記憶”を蓄積する。俺はそれだ」
タルト『白井キャプテンの脳波パターンは、通常の人類とは明らかに異なります。多次元干渉耐性が極めて高いです』
ペリカリノ「……お前、人間なのか?」
白井キャプテン「人間だよ。ただ、ちょっと宇宙に詳しい人間だ」
ペリカリノ「ちょっとじゃねえだろ!!」
ネコさん「じゃあ、白井キャプテンはいろんな宇宙の終わりも見てるにゃ?」
白井キャプテン「ああ。熱的死で終わる宇宙、ビッグクランチで潰れる宇宙、突然“無”に還る宇宙、あと“全部パンになる宇宙”もあったな」
ネクタイ「……それで?」
白井キャプテン「美味しかった」
ネクタイ「行こう」
ペリカリノ「行くな!!」
ジェントル「ガンダで行こうぜ!!」
ペリカリノ「お前も行くな!!」
白井キャプテンは椅子に深く座り、天井を見上げた。
白井キャプテン「面白いだろ、宇宙って」
ペリカリノ「面白いのは認める。けどお前の説明、普通の説明じゃねえんだよ」
白井キャプテン「普通の説明なんてつまらねえだろ」
タルト『白井キャプテンの宇宙解説は、常に“面白さ優先”で再構成されています。正確性は高いですが、優先順位が異常です』
ペリカリノ「だから信用できねえんだよ……」
それでもペリカリノは、少しだけ口の端を緩めていた。
ネコさん「にゃ。白井キャプテンの宇宙、にゃんか好きにゃ」
ジェントル「俺もだぜ!」
ネクタイ「パンの宇宙、気になる」
白井キャプテンは満足そうにコーヒーを飲み干した。
白井キャプテン「よし、じゃあ次は“時間すら存在しない層”の話でもするか」
ペリカリノ「もういい! 今日はここまでだ!!」
白井キャプテン「ちぇー」
タルト『記録完了。本日の“白井キャプテン宇宙講座”は、ペリカリノの制止により47分で終了しました』
ペリカリノ「記録するな!!」
食堂に笑い声が響く。
窓の外では、第三層の星々が、いつもと変わらず静かに輝いていた。
――おわり。




