喋ると重力がふ((ドゴォ!))
宇宙船《オデッセイβ》は、
静かな灰色の惑星へ降下していた。
空には、
逆さまに浮かぶ山。
地面には、
音を吸い込む黒い砂。
不気味なほど静かだった。
白井キャプテン「おおーーー!!なんか静かでいい星だなァ!!」
ズ ゴ ッ。
船体が沈む。
カムパレル「うわぁぁぁ!?!?」
タルト『警告。この星では“発言量”に比例して重力が増加します』
白井キャプテン「なるほど!!」
ズ ゴ ゴ ゴ !!
さらに沈む。
カムパレル「理解したなら黙れ!!!!!」
ド ォ ン !!
船の床にヒビ。
ジェントル「ガンダで重ぇぇぇぇ!!」
ズ ガ ァ ァ ン!!
ジェントル埋まる。
ネコさん「毛が潰れるにゃ〜」
ズ ン。
ネコさん、少し沈む。
ネクタイ「……パン」
ズ ……ン。
ほぼ変化なし。
カムパレル「なんでお前だけノーダメなんだよ!!」
ズ ド ォ ォ ン !!
重力急増。
カムパレル、自分で自分を地面に叩きつける。
タルト『なおツッコミも対象です』
カムパレル「終わってるだろこの星ィィィ!!」
ゴ ォ ォ ォ !!
重力5倍。
宇宙船が悲鳴を上げ始める。
白井キャプテンは、
潰れかけながら窓の外を見た。
そこには、
住民らしき者たちがいた。
全員無言。
ただ静かに、
手振りだけで会話している。
白井キャプテン「すげぇぇぇぇぇ!!!」
ズ ゴ ゴ ゴ ゴ !!
重力12倍。
カムパレル「だから喋るなァァァァ!!」
ジェントル「ガンダで潰れるぜぇぇぇ!!」
ズ ド ン !!
ジェントル完全埋没。
ネコさん「ジェントルくんが地層になったにゃ」
タルト『生命反応はあります』
その時。
住民の一人が、
静かに近づいてきた。
長身。
灰色のローブ。
そして、
口元に人差し指を当てた。
「…………」
カムパレル「……静かにしろってことか?」
ズ ン。
重力13倍。
カムパレル「もう嫌だこの星!!!!」
灰色ローブの住民は、
無言のまま地面に何かを書き始めた。
サラ……サラ……
黒い砂の上に、
記号みたいな文字が並ぶ。
タルト『翻訳します。“この星では感情の昂りも重力へ変換されます”』
カムパレル「最悪じゃねぇか!!心まで対象かよ!!」
ズ ゴ ン !!
重力15倍。
白井キャプテン「つまり興奮すると危険ということだな!!」
ズ ガ ガ ガ !!
重力20倍。
カムパレル「お前はなんで毎回学習直後に悪化させるんだよ!!」
宇宙船《オデッセイβ》、
車輪半分沈没。
タルト『船体耐久率62%。このままでは圧縮されます』
ジェントルが地面から腕だけ出す。
ジェントル「ガンダで……限界……!!」
ズ ズ ズ……
腕も沈む。
ネコさん「収穫される大根みたいにゃ」
その時。
灰色ローブの住民たちが、
突然ざわつき始めた。
いや、
音はない。
だが視線が一斉に空へ向く。
白井キャプテンも見上げた。
空に浮いていた“逆さ山”が、
ゆっくり落ち始めていた。
ゴ ……ゴ ……ゴ……
カムパレル「えっ」
タルト『警告。上空質量体落下』
カムパレル「山ァァァァァ!!??」
住民たちは、
慌てた様子でジェスチャーする。
タルト『翻訳。“静まれ”“感情を抑えろ”“恐怖が重力を呼ぶ”』
だが。
無理だった。
ジェントル「デケェェェェェ!!」
ズ ド ォ ォ ン !!
白井キャプテン「落ちてきてるぞォォォ!!」
ズ ガ ガ ガ !!
カムパレル「だから喋るなって言ってんだろォォォォ!!」
重力40倍。
地面が陥没。
逆さ山、
さらに加速。
住民たちが絶望の顔になる。
タルト『このままでは惑星中心部まで圧壊します』
ネコさん「大変にゃ〜」
ズ ン。
ネコさん少し埋まる。
カムパレル「ネコさんだけなんでそんな平常心なんだよ!?」
すると。
ネクタイが、
静かに前へ出た。
ネクタイ「……うるさい」
全員「!」
ネクタイは、
ポケットからパンを取り出した。
丸い、
小さなパン。
ネクタイ「……食うと、静かになる」
カムパレル「そんなわけ……」
灰色ローブの住民、
ぱく。
もぐもぐ。
沈黙。
すると。
ズ …………
重力が少し軽くなる。
タルト『観測。精神安定による重力低下を確認』
白井キャプテン「おおっ!!」
ズ ゴ ン !!
カムパレル「お前は喋るなァァァァァ!!!」
白井キャプテン「お前モナー」
カムパレル「うっ……!」
ズ ド ォ ォ ン !!
重力55倍。
カムパレル、自分のツッコミで完全に地面へめり込む。
カムパレル「ぐえぇぇぇぇ!!?」
白井キャプテン「だから言っただろ!」
ズ ガ ガ ガ !!
重力60倍。
カムパレル「お前のせいだろォォォ!!」
ゴ ォ ォ ォ !!
逆さ山、
さらに加速。
空そのものが落ちてくるみたいだった。
灰色ローブの住民たちは、
静かに怯えている。
誰も叫ばない。
叫べば重くなるから。
タルト『落下まで残り90秒』
ジェントル「ガンダでまずいぜ……」
ズ ン。
ジェントル少し沈む。
ネコさん「みんな深呼吸するにゃ〜」
ズ……。
ほんの少し、
重力が軽くなる。
カムパレル「……はぁ……はぁ……」
その時だった。
ネクタイが、
静かに宇宙船へ戻る。
カムパレル「どこ行くんだよ……」
ネクタイ「……焼く」
数秒後。
宇宙船の厨房から、
香りが漂い始めた。
焼きたてパン。
甘くて、
あったかい匂い。
灰色ローブの住民たちが、
ゆっくり顔を上げる。
ざわ……。
いや、
静かなざわめき。
タルト『観測。住民の精神波が安定化』
白井キャプテン「すげぇ!!」
ズ ド ォ ォ ン !!
カムパレル「だからお前は喋るなって!!」
しかし。
さっきより重くない。
逆に、
少しだけ軽くなっている。
ネコさん「安心すると、重力が減る星なのかもしれないにゃ」
タルト『その可能性が高いです』
ジェントル「じゃあ楽しいこと考えればいいんだな!!」
ズ ゴ ン !!
カムパレル「お前はまずテンションを落とせ!!」
逆さ山、
目前。
だがその時。
ネクタイが、
大量のパンを抱えて出てきた。
ネクタイ「……配る」
住民たちへ、
静かにパンを渡していく。
住民たちは、
ゆっくり食べ始めた。
もぐ。
もぐもぐ。
そして。
一人。
また一人。
表情が穏やかになっていく。
ズ …………
重力が、
消えていく。
落下していた逆さ山が、
空中で止まった。
カムパレル「……止まった?」
タルト『重力異常、急速沈静化』
白井キャプテンは、
ぽかんと空を見上げた。
白井キャプテン「つまりこの星は」
全員「喋るな」
白井キャプテン「……」
沈黙。
数秒後。
白井キャプテン、
親指を立てる。
カムパレル「(それでいいんだよ……!)」
静寂。
本当に静かだった。
さっきまで空を落としていた逆さ山は、
何事もなかったみたいに、
空中へ戻っていく。
灰色ローブの住民たちは、
パンを食べながら穏やかな顔をしていた。
宇宙船《オデッセイβ》も、
ようやく地面から浮き上がる。
タルト『重力係数、通常値まで低下』
カムパレル「助かった……」
ジェントル「ガンダで生きてるぜ!!」
ズ ン。
ジェントル少し沈む。
カムパレル「まだ喋るな!!」
住民の長らしき人物が、
静かに前へ出た。
そして。
ネクタイへ、
小さな石板を差し出す。
そこには文字。
“感謝する”
ネクタイ「……ん」
カムパレル「珍しく感謝されてるな、お前」
ネクタイ「……パンだから」
白井キャプテンは、
興味津々で周囲を見渡していた。
静かな街。
無言で笑う住民たち。
筆談で雑談する子供。
音のない市場。
白井キャプテン「面白い星だなぁ」
ズ ……ン。
ほんの少しだけ重力増加。
カムパレル「もうそのくらいなら許す」
すると住民の長が、
今度は白井キャプテンへ石板を見せた。
“お前は危険”
カムパレル「その通りすぎる」
白井キャプテン「なんでだよ!?」
ズ ゴ ン !!
重力3倍。
全員「お前だァァァァ!!!」
ズ ド ォ ォ ン !!
重力8倍。
ジェントル埋没。
ネコさん転がる。
カムパレル顔面着地。
タルト『学習能力の欠如を確認』
白井キャプテン「すまんすまん!」
ズ ガ ァ ン !!
重力12倍。
カムパレル「謝るなァァァァ!!」
その瞬間。
住民たちが、
初めて声を漏らした。
「…………ぷっ」
小さな笑い。
次第に広がる。
「……ふふ」
「……っ、はは」
静かな笑い声。
すると。
重力が、
逆に軽くなっていく。
タルト『観測。“穏やかな笑い”は重力を安定させるようです』
ネコさん「優しい星だったにゃ〜」
白井キャプテン「なるほど!!つまりこの星は!!」
全員「だから喋るなァァァァ!!!」
ズ ゴ ゴ ゴ ゴ !!
完。




