消しゴム星ってなんやねん
宇宙船《オデッセイβ》は、奇妙な楕円形の星の前で停止していた。
タルト『惑星名、“ケシゴム・アルファ”。表面の90%が巨大な消しゴムで構成されています』
ペリカリノ「は? 消しゴムの星?」
タルト『はい。触れたものの“記録”を徐々に消去する性質があります』
白井キャプテン「面白ぇぇぇぇぇ!!!」
ペリカリノ「帰れ!!!!」
ジェントル「ガンダで降りてみるぜェェェェェ!!」
ネクタイ「……パン、消えたりしないよな」
ネコさん「記憶がなくなっても、にゃんとかなるにゃ」
タルト『補足。過去の調査隊は着陸後、自分が誰かも忘れて帰還できなくなりました』
ペリカリノ「最悪じゃねえか!!」
しかし白井キャプテンはすでにハッチを開けていた。
白井キャプテン「タルト、記録は残しとけよ! 俺が何をしたか忘れても大丈夫なようにな!」
タルト『了解しました。ただし“忘れない”保証はできません』
一行が降り立つと、地面はほんのりピンク色で、ふんわりと弾力があった。
ジェントルが軽くジャンプする。
ジェントル「おお! 柔らかいぜ!!」
次の瞬間、ジェントルの顔が少しぼんやりした。
ジェントル「……あれ、俺、何しに来たんだっけ」
ペリカリノ「はよ戻ってこい!!」
ネコさん「危ないにゃ。足の裏から記憶が消えていくにゃ」
タルト『警告。接触時間が長いほど、短期記憶から順に消去されます』
白井キャプテンは目を輝かせていた。
白井キャプテン「つまり、嫌なこと全部消せるってことか!?」
ペリカリノ「そんな都合いい話あるかよ!!」
その時、遠くから大きな影が近づいてきた。
高さ50メートルはある、巨大な白い人型。手には巨大な鉛筆を持っている。
タルト『解析完了。種族名、“書き込み族”。この星に文字や記憶を刻みつける存在です』
巨大な書き込み族が、低い声で言った。
書き込み族「……また侵略者か」
白井キャプテン「侵略じゃねえ! 観光だ!!」
書き込み族「観光……? この星に観光など存在しない」
ペリカリノ「だから来るなっつーの」
書き込み族は巨大な鉛筆を構えた。
書き込み族「消してしまえ」
地面が大きく揺れる。
消しゴムの地表が波打ち、一行の足元から白い粉が舞い上がった。
ジェントル「うおおお!? 足が沈むぜ!!」
ネクタイ「……パンが」
ネクタイがポケットから出したパンの端が、徐々に白くなって消えていく。
ネクタイ「……許さねえ」
珍しく低い声だった。
ペリカリノ「おい、本気か?」
ネクタイは静かにパンナイフを抜いた。
ネクタイ「パンを消す奴は、宇宙の敵だ」
次の瞬間、ネクタイの姿が消えた。
シュバババババッ!!
残像だけが残り、巨大な書き込み族の足元を高速で駆け回る。
書き込み族「なにを……!」
ネクタイ「クロワッサン奥義・記憶保持切り」
ザンッ!!
巨大な鉛筆が真っ二つに折れた。
書き込み族がよろめく。
白井キャプテン「ナイス!!」
しかし地表の消去効果は止まらない。
ペリカリノの記憶が徐々に曖昧になっていく。
ペリカリノ「俺の名前……なんだっけ……ペリ……なにか……」
ネコさん「ペリカリノだにゃ! 忘れないでにゃ!」
タルト『緊急事態。全員の記憶消去率が40%を超えました』
白井キャプテンは突然、両手を広げた。
白井キャプテン「よし! 作戦変更だ!!」
ペリカリノ「作戦なんかねえだろ……」
白井キャプテン「みんなで“消されたくないこと”を声に出せ!!」
ジェントル「ガンダで行くぜ!!」
ネクタイ「パン」
ネコさん「みんなの健康にゃ」
ペリカリノ「……お前らが無事でいることだよ、バカ」
白井キャプテン「俺は――」
少し考えて、笑った。
白井キャプテン「この宇宙が、まだまだ面白そうだってことだ!!」
その言葉が落ちた瞬間、地表のピンク色が少し薄れた。
タルト『不思議です。消去速度が低下しています』
書き込み族が、ゆっくりと顔を上げた。
書き込み族「……面白い、だと?」
白井キャプテン「ああ。消えてもまた覚えりゃいいし、忘れてもまた来りゃいい」
白井キャプテン「どうせ宇宙は広いんだからよ」
書き込み族は長い沈黙のあと、巨大な体を揺らして笑った。
書き込み族「……久しぶりだ。そんなことを言う者は」
巨大な手が、そっと地表を撫でる。
ピンク色の消しゴムが徐々に白く戻り、消去効果が消えていった。
ペリカリノ「……戻った。記憶が戻った」
ジェントル「ガンダで覚えてるぜ!!」
ネクタイ「パンも無事だ」
ネコさん「よかったにゃ」
書き込み族は、折れた鉛筆を拾い上げると、静かに言った。
書き込み族「お前たちのような者が来るなら、この星も悪くないのかもしれない」
白井キャプテン「じゃあ次はもっと面白い消し方教えてくれよ!!」
ペリカリノ「二度と来るな!!」
タルト『帰還準備完了です。なお、今回の記憶消去率は最大62%でした』
ペリカリノ「数字出すな!!」
宇宙船が飛び立つ。
窓の外で、巨大な書き込み族が小さく手を振っていた。
白井キャプテンは操縦席で足を組み、満足そうに言った。
白井キャプテン「いい星だったな」
ペリカリノ「二度と来るもんか」
ジェントル「また来てもいいぜ!」
ネクタイ「パンが消えないなら」
ネコさん「みんなで覚えていれば、にゃんとかなるにゃ」
タルト『統計上、白井キャプテンが“いい星だった”と言った惑星への再訪率は87%です』
ペリカリノ「じゃあ87%の確率でまた来るのかよおおお!!」
宇宙船《オデッセイβ》は、次の面白そうな座標へ向けて、静かに加速していった。
――おわり。




