ナルババ編1、3本の触角と緑色の肌
多次元宇宙のどこか、地図にも記録にも残らない一角。船の窓から見えるその惑星は、赤茶けた地面に緑の草がまばらに生えているだけで、生き物の気配はまるでなかった。
白井キャプテン「よし、あそこに降りるぞ!」
ペリカリノ「何もねーじゃん、あれ。降りる意味あんの?」
白井キャプテン「意味とか考えて生きてねえから俺は」
タルト「分析結果、報告します。大気は呼吸可能、重力は地球の0.9倍。ただし――生命反応は、極めて微弱ながら一つだけ検出しました」
ネコさんの耳がぴくりと動いた。
ネコさん「一つだけ、にゃ? なんか寂しいにゃね」
船は静かに着陸した。ハッチが開くと、乾いた風が中に入り込んでくる。土埃の匂いがした。
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集落だったと思われる廃墟が並んでいた。屋根が崩れ、壁だけが残った家々。その一つから、がさがさと物音がした。
ジェントル「おっ、いたぞ!」
飛び出していったのは、緑色の肌をした人影だった。頭から三本の触角が伸び、髪は鮮やかな青色。廃墟の中を漁っていたその姿は、こちらに気づくと弾かれたように後ずさった。
タルト「言語解析、開始します。……間に合いませんね、この場では」
ネクタイ「……腹減ってんじゃん、あいつ」
誰よりも先に動いたのはネクタイだった。ポケットから丸いパンを取り出すと、無言でそれを差し出す。緑肌の宇宙人は触角をぴくぴくと動かしながら、しばらくネクタイの顔とパンを交互に見ていたが、やがて震える手でそれを受け取り、一気に頬張った。
ペリカリノ「お前、そんなの持ち歩いてんのかよ……」
ネクタイ「パンは正義」
宇宙人は目を丸くしてネクタイを見つめると、胸に手を当て、たどたどしい仕草で頭を下げた。
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タルト「翻訳、間に合いました。以後、会話は問題なく成立します」
白井キャプテン「よっしゃ! じゃあ聞くぞ、お前誰だ!」
宇宙人はまっすぐに白井キャプテンを見返すと、はっきりとした声で言った。
宇宙人「光――神から授かった名を持つ者。アンアのナルババ・ザテメ」
ペリカリノ「厨二くせえ名前……」
ナルババ「アンアとは、この星の名。ここより五百キロメートル先にある土地の名でもある」
白井キャプテン「そこにお前の仲間がいるってことか?」
ナルババは触角を力なく垂らし、首を横に振った。
ナルババ「案内する。見れば、分かる」
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タルトの分析用ドローンが先導し、一行はナルババの案内で荒野を進んだ。やがてたどり着いたのは、半分砂に埋もれた石造りの遺構だった。中央に、文字の刻まれた石板が横たわっている。
ネコさん「これは……古い言葉、にゃ?」
タルト「解析します。……訳し終えました。読み上げますね」
タルトの声が静かに響いた。石板に刻まれていたのは、遠い昔、この地に暮らしていた民が「魔王」と呼ばれる存在によって滅ぼされたという記録だった。詳しい経緯は摩耗して読み取れない。ただ、滅びたという事実だけが、そこにはっきりと刻まれていた。
ジェントル「魔王って……マジのやつ?」
ナルババ「本当にいた。皆、消えた。私だけ残った」
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白井キャプテン「なんでお前だけ生き残ったんだ?」
ナルババは触角の先を自分の胸に向けた。
ナルババ「私は、光に一番好かれていた。だから――シェルターに、押し込められた」
その言い方に、誇らしさは感じられなかった。むしろ、突き放されたような響きがあった。ネコさんがそっとナルババの隣に膝をつく。
ネコさん「一人だったんだにゃ、ずっと」
ナルババは答えなかった。ただ、廃墟の方角を、長い間見つめていた。
風が、誰もいない集落の跡を吹き抜けていった。




