テハナ編3「あばよテハナ、エイエンニ」
なお、このキャラは2度と出てこないことでしょう。
第21話「あばよテハナ、エイエンニ」の巻。
テハナが宇宙船に来てから、しばらく経った。
その間に、いろいろなことがあった。
カプサイシン。
レモン。
ジャム。
昆布。
梅干し。
なぜか食べ物ばかりだった。
テハナ「……」
テハナは机の前に座っていた。
目の前には、また新しい食べ物が並んでいる。
白井キャプテン「次はこれだ」
テハナ「……何だ?」
白井キャプテン「梅干し」
テハナ「もういい」
白井キャプテン「そうか?」
テハナ「ああ」
白井キャプテン「じゃあレモン」
テハナ「それも食べた」
白井キャプテン「ジャム」
テハナ「食べた」
白井キャプテン「昆布」
テハナ「食べた」
白井キャプテン「……」
テハナ「……」
白井キャプテン「梅干し」
テハナ「だから食べた」
ペリカリノ「いつまで食わせてんだよ!!」
白井キャプテン「いや、まだ試していない味があるかもしれない」
ペリカリノ「お前はテハナを何だと思ってんだ!」
ネコさん「実験動物じゃないにゃ~」
白井キャプテン「知的生命体」
ネコさん「そうにゃ~」
テハナは静かに立ち上がった。
テハナ「キャプテン」
白井キャプテン「なんだ?」
テハナ「俺は……帰りたい」
白井キャプテンが止まった。
ジェントルも止まった。
ネクタイもパンを食べる手を止めた。
ネコさんも顔を上げた。
ペリカリノだけが、
ペリカリノ「……そりゃそうだろ」
と呟いた。
白井キャプテン「……そうか」
テハナ「ああ」
白井キャプテン「分かった」
白井キャプテンはタルトを見る。
白井キャプテン「タルト」
タルト「はい」
白井キャプテン「帰す方法を探してくれ」
タルト「承知しました」
タルトの監視カメラが青く光る。
タルト「検索を開始します」
船内のモニターに大量の情報が流れていく。
宇宙船。
惑星。
次元。
転送。
召喚。
未知の生命体。
そして――
タルト「該当する帰還経路を発見しました」
テハナ「……本当に?」
タルト「はい」
ペリカリノ「早っ」
タルト「以前使用した召喚装置の残留エネルギーを利用すれば、テハナがこちらへ来た際の空間情報を逆算できます」
白井キャプテン「つまり?」
タルト「元の場所へ帰せます」
テハナは黙った。
少しだけ、嬉しそうな顔をした。
テハナ「……ありがとう」
白井キャプテン「ああ」
白井キャプテンは腕を組む。
白井キャプテン「じゃあ、帰る準備だな」
それから数時間。
船内では、妙な空気が流れていた。
ジェントルは何度もテハナのところへ行った。
ジェントル「テハナ!」
テハナ「なんだ?」
ジェントル「……」
テハナ「……?」
ジェントル「元気で!」
テハナ「ああ」
ジェントルは戻っていった。
また数分後。
ジェントル「テハナ!」
テハナ「なんだ?」
ジェントル「……」
テハナ「……」
ジェントル「やっぱり元気で!」
テハナ「分かった」
また戻っていった。
ペリカリノ「一回で言えよ」
ジェントル「何回言ってもいいと思いまして!」
ペリカリノ「まあ……そうだけど」
ネクタイは、テハナのところへ行った。
ネクタイ「パン」
テハナ「……パン?」
ネクタイ「最後のパン」
テハナ「いいのか?」
ネクタイ「うん」
テハナはパンを受け取った。
テハナ「ありがとう」
ネクタイ「……」
テハナ「どうした?」
ネクタイ「また食べよう」
テハナ「ああ」
ネクタイは戻っていった。
そしてネコさんもテハナの前にやってきた。
ネコさん「テハナ」
テハナ「なんだ?」
ネコさん「これ、あげるにゃ」
ネコさんが手にしていたものを差し出す。
小さな袋だった。
テハナ「これは?」
ネコさん「マタタビにゃ」
テハナ「……」
ネコさん「明日使おうと思って、大事に取っておいたんだけどにゃ~」
ネコさんは少し笑う。
ネコさん「テハナにあげるにゃ」
テハナ「……いいのか?」
ネコさん「いいにゃ」
テハナ「ありがとう」
ネコさん「元気でにゃ~」
テハナ「ああ」
そして最後に。
白井キャプテンがやってきた。
白井キャプテン「テハナ」
テハナ「なんだ?」
白井キャプテン「思えば、いろいろあったな」
テハナ「……そうだな」
白井キャプテン「あの日」
テハナ「?」
白井キャプテン「あの夏」
テハナ「……?」
白井キャプテン「山のてっぺんで食ったナス入りのおにぎり、美味かったよな!」
テハナ「…………」
白井キャプテン「今まで本当にありがとう!」
テハナ「……」
テハナは白井キャプテンを見る。
テハナ「そんなことあったか?」
白井キャプテン「ない」
テハナ「ないのか」
白井キャプテン「ない」
ペリカリノ「何の話してんだよ」
白井キャプテン「思い出だ」
ペリカリノ「存在しないだろ」
白井キャプテン「心の中にはある」
ペリカリノ「便利だな、その記憶」
テハナは笑った。
テハナ「……面白い船だった」
白井キャプテン「ああ」
テハナ「ありがとう」
白井キャプテン「こちらこそ」
タルトが告げる。
タルト「帰還準備が完了しました」
船内中央。
空中に、青白い光の輪が浮かんでいた。
その中心には、何もない。
ただ、向こう側の空間が歪んで見えている。
タルト「このテレポーターを通過すれば、テハナは元の場所へ帰還できます」
テハナ「……分かった」
テハナがテレポーターへ向かう。
しかし。
そこで立ち止まった。
テハナ「……そうだ」
白井キャプテン「どうした?」
テハナ「世話になった礼をしていなかった」
白井キャプテン「いいぞ、別に」
テハナ「いや」
テハナは召喚装置を見る。
そして、一本の毛を抜いた。
ペリカリノ「……?」
ネコさん「にゃ?」
ジェントル「何をするんですか?」
テハナ「これを使う」
テハナが毛を召喚装置へ置く。
装置が反応する。
タルト「……」
白井キャプテン「何が起きる?」
タルト「召喚処理を開始しました」
光が集まる。
そして。
巨大な武器が、空中から現れた。
白井キャプテンが目を見開く。
白井キャプテン「……」
ジェントル「……」
ペリカリノ「……」
ネコさん「……」
ネクタイ「……」
巨大な武器は、静かに宙に浮いていた。
白井キャプテン「すげえ」
ジェントル「すげえ!!」
白井キャプテンとジェントルが同時に駆け寄る。
ペリカリノ「お前ら本当に武器好きだな!」
白井キャプテン「テハナ!」
テハナ「なんだ?」
白井キャプテン「これはすごいぞ!」
ジェントル「ありがとうございます!」
テハナ「その毛一本と引き換えだ」
ペリカリノ「毛一本でこれ召喚できんの!?」
タルト「非常に高効率です」
ペリカリノ「お前も驚けよ!」
テハナはテレポーターへ向き直る。
白井キャプテンも、ジェントルも、ネコさんも、ネクタイも、ペリカリノも、テハナを見る。
テハナ「じゃあな」
ジェントル「また会いましょう!」
ネコさん「元気でにゃ~!」
ネクタイ「パン忘れないで」
テハナ「ああ」
ペリカリノ「……じゃあな、テハナ」
白井キャプテン「……」
白井キャプテンは少しだけ黙っていた。
そして。
白井キャプテン「……あばよ、テハナ」
テハナが振り返る。
白井キャプテン「エイエンニ」
テハナ「……なんで片言なんだ?」
ペリカリノ「俺もそこ気になった」
白井キャプテン「なんとなく」
テハナは笑った。
そして、テレポーターの中へ歩いていく。
身体が光に包まれる。
次の瞬間――
テハナの姿は消えた。
船内に静寂が戻る。
しばらく誰も喋らなかった。
やがて。
ネクタイ「……パン食べる?」
ペリカリノ「もう普通に戻るのかよ」
ネコさん「テハナ、元気だといいにゃ~」
ジェントル「きっと元気ですよ!」
白井キャプテン「……そうだな」
白井キャプテンは、テハナが消えた場所を見る。
白井キャプテン「またどこかで会えるさ」
タルト「その可能性は0.00000031%です」
白井キャプテン「低いな」
ペリカリノ「夢がねえよ!」
そして白井キャプテンは、机の上に置かれた巨大な武器を見る。
白井キャプテン「……」
ジェントル「……」
白井キャプテン「これ、どうやって使うんだ?」
タルト「現在、説明書を検索しています」
ペリカリノ「結局そこに戻るのかよ!!」
これにて「テハナ編」終わる。




