テハナ編2 カプサイシンって赤色の心象
第20話「とりあえずカプサイシン食わせてみようぜ!」
宇宙船の中央。
召喚された生物――???は、まだそこにいた。
白井キャプテンたちは、???を囲んでいる。
誰も帰す方法を知らない。
しかし、一つだけ分かっていることがあった。
???は、明らかに知的生命体だった。
ネコさん「ねえ、あなた」
???「なんだ?」
ネコさん「ずっと『あなた』って呼ぶのも変にゃ~」
???「……そうだな」
ネコさん「お名前、なんていうのにゃ?」
???「名前?」
ネコさん「そうにゃ」
???は少し考えた。
???「……テラセンヌルクズ・ハハネマネマスパンセ・ナレレレレヂクヨメナスギュ」
全員が止まった。
タルトだけが止まらなかった。
タルト「記録しました」
ペリカリノ「待て」
タルト「はい」
ペリカリノ「今の、一回で覚えたのか?」
タルト「はい」
ペリカリノ「……」
ペリカリノは???を見る。
ペリカリノ「お前……よくそんな名前覚えてんな」
???「自分の名前だからな」
ペリカリノ「そりゃそうか……」
ネコさんは少し考えた。
ネコさん「うーん……」
そして、笑った。
ネコさん「じゃあ、テハナって呼ぶにゃ!」
???「テハナ?」
ネコさん「そうにゃ~。長いから縮めたにゃ」
???「……」
???はしばらく考えた。
???「いい」
ネコさん「よかったにゃ~」
白井キャプテン「よし! 今日からお前はテハナだ!」
ジェントル「よろしくお願いします! テハナ!」
テハナ「よろしく」
ペリカリノ「決まるの早すぎるだろ……」
ネクタイ「テハナ」
テハナ「なんだ?」
ネクタイ「パン食べる?」
テハナ「……食べる」
ネクタイ「じゃあこっち」
ネクタイが歩き出す。
テハナもついていく。
ペリカリノ「お前らもう友達なの?」
ネクタイ「パン友」
ペリカリノ「何だそれ」
ネクタイがパンを渡す。
テハナはパンを食べる。
テハナ「……うまい」
ネクタイ「そう」
ネクタイは満足そうに座った。
その様子を見ていた白井キャプテンが、突然何かを思いついた。
白井キャプテン「なあ、テハナ」
テハナ「なんだ?」
白井キャプテン「辛いものは食えるか?」
テハナ「辛いもの?」
白井キャプテン「ああ」
テハナ「食べたことがない」
白井キャプテン「そうか」
白井キャプテンが立ち上がる。
ペリカリノ「……何する気だ?」
白井キャプテン「カプサイシンのものを食わせてみよう」
ペリカリノ「なんで?」
白井キャプテン「理由はない」
ペリカリノ「ないのかよ」
白井キャプテン「ない」
ジェントル「やってみましょう!」
ペリカリノ「お前も賛成すんな!」
ネコさん「大丈夫なのかにゃ~?」
白井キャプテン「辛いものを食べたらどうなるのか気になる」
タルト「カプサイシンを含む食品を検索します」
ペリカリノ「検索すんな!」
タルト「見つけました」
ペリカリノ「早いな!」
テーブルの上に、赤いソースが置かれた。
白井キャプテンが蓋を開ける。
ネコさんが覗き込む。
ネコさん「辛そうにゃ~」
ジェントル「すごそうです!」
ネクタイ「パンには合う?」
白井キャプテン「知らん」
ネクタイ「そう」
テハナがソースを見る。
テハナ「これは?」
白井キャプテン「カプサイシンだ」
テハナ「カプサイシン?」
白井キャプテン「辛いやつだ」
テハナ「……食べていいのか?」
白井キャプテン「ああ」
ペリカリノ「待て待て待て」
白井キャプテン「なんだ?」
ペリカリノ「お前、自分が何を食わせようとしてるのか分かってる?」
白井キャプテン「カプサイシン」
ペリカリノ「そういう意味じゃねえ!」
ペリカリノはテハナを見る。
ペリカリノ「テハナ、無理なら食べなくていいからな」
テハナ「分かった」
テハナは少量のソースを口にした。
数秒。
何も起こらない。
ジェントル「……?」
ネコさん「……?」
白井キャプテン「……?」
テハナ「……」
ペリカリノ「どうだ?」
テハナ「……少し熱い」
白井キャプテン「それだけか?」
テハナ「ああ」
ジェントル「すげえ!」
白井キャプテン「すげえ!」
ペリカリノ「まだ分かんねえだろ!」
テハナはもう一度ソースを見る。
テハナ「もう少し食べていいか?」
白井キャプテン「もちろん」
ペリカリノ「待てよ」
テハナがもう一度食べる。
テハナ「……」
やはり平然としている。
ジェントル「すげえ!」
白井キャプテン「すげえ!」
ペリカリノ「だから何がだよ!」
白井キャプテン「普通の地球生物より耐性がある可能性が高い」
タルト「同意します」
ペリカリノ「タルトまで!?」
白井キャプテンは、テハナの身体を見た。
白井キャプテン「そういえば」
ペリカリノ「今度は何だよ」
白井キャプテン「お前の骨って何でできてる?」
テハナ「骨?」
白井キャプテン「ああ」
テハナ「……分からない」
タルト「では分析します」
テハナ「分析?」
ネコさん「怖くないにゃ~」
タルト「痛みはありません」
小型監視カメラがテハナの身体を走査する。
モニターにデータが表示されていく。
タルト「解析中……」
白井キャプテン「……」
ジェントル「……」
ペリカリノ「……」
ネクタイ「パン」
タルト「解析完了」
白井キャプテン「どうだった?」
タルト「テハナの骨格を形成している主な元素は――」
タルトが一拍置く。
タルト「鉄、Feです」
白井キャプテンの目が輝いた。
白井キャプテン「Fe!?」
ジェントル「Fe!?」
白井キャプテンとジェントルが同時に立ち上がった。
ペリカリノ「なんでだよ!!」
白井キャプテン「鉄だぞ!」
ジェントル「鉄ですよ!」
白井キャプテン「すげえ!」
ジェントル「すげえ!」
ペリカリノ「何がそんなにすげえんだよ!」
白井キャプテン「骨が鉄だぞ!」
ペリカリノ「聞けば分かるわ!!」
テハナは自分の腕を見る。
テハナ「俺の骨、鉄なのか?」
タルト「正確には鉄を主成分とする特殊な構造です」
白井キャプテン「やっぱりすげえ!」
ジェントル「すげえ!」
ペリカリノ「うるせえ!」
ネコさんがテハナをじっと見る。
ネコさん「じゃあ、私たちとは全然違う身体なのかにゃ?」
タルト「はい」
ネコさん「ふーん」
ネコさんは少し考える。
ネコさん「じゃあ、怪我をしたらちゃんと診てあげないといけないにゃ~」
テハナ「……ありがとう」
ネコさん「どういたしましてにゃ」
白井キャプテンは再びカプサイシンを見る。
白井キャプテン「なあ」
ペリカリノ「嫌な予感がする」
白井キャプテン「もっと辛いものを試そう」
ペリカリノ「やめろ!」
テハナ「もっと辛い?」
白井キャプテン「ああ」
テハナ「興味がある」
ペリカリノ「お前も乗るな!」
ジェントル「じゃあガンダで探してきます!」
ペリカリノ「走るな!!」
ジェントルが走り出した。
ものすごい速度で船内を駆け抜ける。
その直後。
タルト「ジェントルが厨房に到着しました」
ペリカリノ「実況するな!」
タルト「何かを探しています」
ペリカリノ「止めろ!」
タルト「発見しました」
白井キャプテン「何を?」
タルト「非常に辛い食品です」
ペリカリノ「なんでそんなものが宇宙船にあるんだよ!!」
白井キャプテン「俺が買った」
ペリカリノ「いつ!?」
白井キャプテン「前に」
ペリカリノ「何のために!?」
白井キャプテン「辛いものを食べたくなったときのためだ」
ペリカリノ「お前、そういうところだけ計画的だな!!」
ジェントルが戻ってくる。
手には、赤い袋。
ジェントル「持ってきました!」
テハナが袋を見る。
テハナ「それは?」
白井キャプテン「……かなり辛い」
テハナ「食べてみたい」
ペリカリノ「……」
ペリカリノは深くため息をついた。
ペリカリノ「……もう好きにしろ」
白井キャプテン「よし!」
ジェントル「よし!」
ネコさん「ほどほどにするにゃ~」
ネクタイ「パンもあるよ」
テハナ「ありがとう」
こうして。
テハナが元の宇宙へ帰る方法を探すはずだった宇宙船では――
なぜか、異世界の生物にどこまで辛いものを食べさせられるかという、まったく別の実験が始まろうとしていた。




