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星狩りのレプタイル ー邪眼のトカゲと夜空の英雄たちー  作者: 若槻味蕾
第6章 第3節「追想:新・十二の功業」
167/168

165. 幕間 龍と英雄

※第十回戦・ペルセウス戦と第十一回戦・ヘパイストス戦の順番を入れ替えました。

対戦順を発表した第141話の記載も変更しております。

ご確認の程よろしくお願い申し上げます。

2025年11月22日 若槻味蕾

「アポロンVSヘラクレス、決着ゥゥ――――ッ!!! とんでもない戦いでした!!

 ここで救護班から連絡です! ヘラクレスの治療に時間がかかりますので、次の試合は明日となります!

 新・十二の試練も残すところあと三戦! 乞うご期待です!」


 砂が舞う闘技場に倒れた、二人の拳闘士。彼らを讃えるように、会場にはわれんばかりの拍手が響いていた。




 真暗な医務室。治療を終えたヘラクレスが一人眠るそこに、こんこん、とノックの音が響く。


「……誰だ?」


 ヘラクレスが問うと、若い男の声が答える。


「俺だよ」


 少し開いた治療室の扉から姿を現す、木彫りの龍。ラードーンだ。


「……フフ。ずいぶんと小さくなったものだ、あの巨龍が」

「……ふ。お前のせいだ」


 ラードーンも少し笑ってしまう。

 少しの間を置いて、彼はヘラクレスに問いかける。


「お前はなぜそこまでして戦う? お前の強さの源は、何だ?」


 ヘラクレスが鼻を鳴らす。


「……別に、強さなんて欲しくはなかったよ。ただ、大きな体と力を持って生まれた。それだけだ。

 ……だが、(オレ)は思うのだ。人はそれぞれ役目を持って生まれてくるんだと。

 皆が補いあえるように、違った個性を持って生まれてくる。(オレ)が大きな体と力を持って生まれたのは、それを人類のために使えという目的があるんだ。そう信じている。

 生き物は皆、補い合っている。生きている間は精一杯に生きて、種を残そうとする。死んだ後はその身を捧げて他者の栄養となる。そうして、世界の生命は助け合っているのだ。

 ラードーン、お前にも、何か役割があるはずだ。

 生き物は幸せになるために生まれてくる。そして自分を含めた生命すべてを幸せにするために。それに役立つ何かを、お前も持っているはずだ」


「誰かを幸せにするための……何か」


 ラードーンは黙考する。


 大きな体だろうか。百の頭だろうか。石化の光を放つ、星の瞳だろうか。


 そうラードーンが問うと、ヘラクレスは低い声で答えた。


「ああ、それらかもしれない。だが本当に大切なのは、その力を使う者の心根なんだ。

 お前の心が悪に染まれば、その力も凶器となるだろう。だが、それが正しい事のために振るわれるのならば、悪を滅ぼす正義の剣となり、誰かを守るための盾となる。

 ……正直、(オレ)はお前が悪しきモノだとは思っていない」


「……!」


 驚くラードーンにヘラクレスは続ける。


「確かに(オレ)はお前を殺した。だが、それは自分の罪をそそぐためにした事だ。お前は、黄金の庭園を守るという自分の仕事を果たしただけだ。どちらかといえば、悪人は(オレ)だ」

「意外だ……俺みたいな醜い怪物を、お前は(さげす)んでるんだと思ってた」

「どこに蔑む必要がある? お前は勇敢な守護龍だよ」


 ラードーンの目頭が熱くなる。


「……だがラードーン、お前はまだ迷っているな。自分がどう進むべきなのか」

「……ああ」

「別に構わん、そのまま悩み続けろ。お前が考え、この世界で生き、戦い続けるなら、お前は自分なりの”正解”にいつか辿り着く。生命としての自分の存在意義に」

「俺はもう死んでるが?」

「そういう話じゃない、在り方としての生命の話だ。たとえ死後だとて、答えを求めて進み続けるなら、お前は生きているよ。

 逆に歩みを止めた時、お前は死ぬだろう」

「……」

「存在意義を理解し、そして果たした時、初めてお前は次の生命に生まれ変われるだろう。そうして輪廻を続けていくのが生命だ。

 神々によって魂を留め置かれた我々は、まだ存在意義を果たしていない。その時まで、ひたすらに魂を燃やそうぜ。同志よ」

「……ああ」


 ヘラクレスの瞳は明るかった。

 やけに買われていることが恥ずかしくなって、ラードーンは暗い救護室を後にした。

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