第六話「雀帝の帰還」
『役満行脚』から帰って来た一輝は、お土産を持ってサークル室に顔を出した。夜も遅かったので、部室には小沢しかいなかった。
「お帰り。どうだった、旅打ちは?」小沢が一輝に聞いた。
「私は5勝しました。若松城、二本松城、白石城、上山城、横手城で役満を和了しました。吉太郎先輩は、白河小峰城と多賀城の二か所。恭次郎は、仙台城と弘前城で和了しました。残念ながら、龍之介は今回、良いところがありませんでした」
「まぁ結果だけ聞くと、いつも通りだな。こちらは、新規は一人だけだった。5枚麻雀と、ネギ麻雀だけ教えといたよ。ド素人だった」小沢の報告を聞きながら、一輝は麻雀記録帳(通称『部誌』)に目を通した。
「何ですか、これは? 新入りに、念入りに食われているじゃないですか」一輝が、『部誌』を見ながら小沢に確認した。
「まぁ、接待だから・・・、そんなもんだよ」小沢は学年が下の一輝に対し、脂汗を垂らしながら説明した。
「強かったんですか、その新入りは?」
「強くはないが、強かった。まぁ、引きだけだが・・・」
「まぁ、麻雀の強さは『引きの強さ』とも言えますが・・・」
「四人打ちでは、手も足も出ないだろう。四人打ちで叩きのめそう」
「まぁ、麻雀が強ければ無礼でも何でもいいんですが、『チーム戦』を教えなければいけませんね、部のために。まず、基礎麻雀力の育成からですね・・・」
「ゲーム麻雀も、やったことがないらしいよ」
「(接待とは言え、この二人の性格なら、途中から二人とも真剣に打ったはずだ・・・。本当に、強いのか?)」一輝が、思案を巡らせた。
次の日、剛志はサークル室で寛いでいた。
「お前、またコーヒー飲んでるのかよ。少しは遠慮しろよ」小沢に注意された。
「しっかし、不味いコーヒーだねー。もっといいもん差し入れすればいいのに。差し入れたコーヒーが不味いと言われたら、恥ずかしくないのかね。俺なら死ぬね」と言った台詞を龍之介が入り口で聞いて肩を震わせていた。その姿を見て、小沢が慌てた。
「おい! やめろよ!」小沢が剛志の発言をやめさせた。龍之介がコーヒーを見て驚いた。
「あー! こんなに減っている! すぐに買ってこなければ!」慌てる龍之介を見て、剛志が言った。
「少しだけ、美味かったぜ!」体格がゴツくて人相の悪い龍之介を見て、慌ててフォローしたものの全部聞かれていた。龍之介が怒髪天を突いた。
「俺が、買ってきたんだよ! 二度と不味いとかぬかすなよ!」剛志の胸ぐらをつかんで、唾を顔にぶっかけながら叫んだ。強面に脅されたので、さすがの剛志も少しだけビビった。
「古典研究部では、月間順位戦で最下位だったものが、一カ月の間コーヒーを差し入れる決まりなんだ! だから遠慮して、みんな少しずつしか飲まないんだ!」
「麻雀で負けてしまったら、仕方ないんじゃないの?」
「いろいろ、理由があるんだよ! お前は今月、もう飲むな!」鼻息が荒かった。その顔を見た途端に態度を変えることにした。剛志は地雷を踏んでみたくなった。
「い~や~、それは出来ませんね~。せ・ん・ぱ・い」
「何でだよ?」龍之介が聞いた。
「俺は、きっちりサークル費を払っています。コーヒーを飲むのは、俺の正当な権利です」
「あんだとぉー」龍之介の表情が激昂に変わった。そこに、一輝が顔を出した。
「元気のいい声が聞こえるな」
「あ! 先輩、おはようございます」龍之介が冷静さを取り戻した。
「ああ、おはよう」そして、剛志をチラリと見た。
「初めまして、新入り君。少しは、サークルの雰囲気に慣れたかな?」
「あぁ、すっかり慣れたぜ! せんぱ~い」不遜な態度を取った。
「ここでは、麻雀の成績が全てだ。キミが強ければ、その態度も許される。続けたければ、勝ち抜くことだ」と言って、剛志を見下した。
「あぁ、そうするぜ!」剛志は、一輝を見上げた。
「龍之介、落ち着きなさい。新入り君の言うことも尤もだ。コーヒーを差し入れるのは屈辱に耐える精神の修行でもある。最近は、そこのところがなぁなぁになってしまっている。それが本来の目的ではない。コーヒーを差し入れしたくなければ、麻雀で勝てばいいだけのこと。簡単な話だ」剛志は思わぬ援軍を得て図に乗った。
「もう一杯頂くぜ~。あ~(不味い)」と言いかけて、一輝の視線を感じてやめた。
「新入り君に注意しておく。ウチのサークル員たちはいつでも、誰でも最下位に出来る。増長するなら、気をつけるように・・・」一輝が冷たく言った。余りの迫力に肝を冷やしたが敢えて平静を装った。
「麻雀は、一対三の戦いだ! 屁でもないね! あ~、不味いコーヒーだぜー」
「(ふふっ。ビビらないか。見所があるじゃないか!)」
「(やろー!)」龍之介は久しぶりに闘争心に火がついた。
「(龍之介も意識を変えたか。それでいい・・・)」一輝は、剛志の出現にほくそ笑んだ。そして、一輝は小沢に向かって言った。
「小沢先輩、来週もう一人入部する予定です。来月の「月間順位戦」は八名で開催可能です」
小沢は頷いた。
「そうだな、学年で二人も入部すれば十分だ。ウチの部も賑やかになって来たな~」
剛志は、興味を抱いた。
「せんぱ~い、そいつ強いんですか?」
「ふふっ。強いかもな。君と同じ新入生だが、麻雀をよく知っている。同期に負けないようにするんだな」
「そうしますぜ!」剛志は、不敵に微笑んだ。




