096 2026年5月10日(日)_01 かあちゃん達頑張った
浮雲さんから、
珍しく――ほんとうに珍しく、
お茶のお誘いのLINEが来た。
文面を見た瞬間、察した。
多分、このちぐはぐさ。
これは
児島さんか若林さん、
もしくは両方の添削が入っている。
一文目、やたら丁寧。
二文目、急に砕ける。
三文目、敬語と常体が混在。
一人称、
「私」→「俺」→「自分」
迷子。
要約すると、
「山形市内を案内してほしい」
以上。
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ほぼ同時に、
若林さんと児島さんから、別々にLINE。
内容は驚くほど似ていた。
要約。
「私たちと一緒だと、
知り合いに会った時に
不適切な関係と誤解されかねないから」
とかなんとか。
文面の端々から漂う
「ウチの愚息をお願いします」感。
二人とも、もはやオカン。
完全にオカン。
「大丈夫、親子に見えますよ」
とは、
思っても、
書かなかった。
私えらい。
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冷静に考えると、
若林さん、元カノだもんね。
そりゃ意識するよね。
……多分。
いや、わからん。
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私は基本、
食べ歩きは親の財布依存。
だが。
母親のセンスが異様に良くて、
「ここは外さない」という店はいくつか知っていた。
やっぱり
世界救ってる部署にいたからかな?
口止め料?
絶対、
普通の公務員より豊か。
ありがとう、マイマザー。
赤髪の件は、
しばらく弄らないでおこう。
命が惜しい。
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文翔館の裏で合流。
いた。
クリーム色のジャケット。
ブラウンのチノパン。
暗めの、厚手のTシャツ。
……ユニクロだと思う。
ニューライフカネタではない。
あそこはあそこで掘り出し物あるけど。
今回は違う。
多分、若林さんチョイス。
児島さん、
私服は割とスポーツ寄りだし。
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いつもは、
黒いコート
黒いパンツ
黒いインナー
「お前はあれか?
キリトか?
フルダイブ型ゲームの廃人プレイヤーか?」
って
本気で思ってた。
ちなみに私はシノン派
でも。
こうして見ると。
鍛えられた体つきも相まって、
かなりの好青年。
普通にイケメン。
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「……どうぞ」
私は運転席から言った。
「助手席」
浮雲は一瞬、
本当に一瞬、固まってから、
「……わかった」
と、ぎこちなく乗り込む。
シートベルト装着、
やたら丁寧。
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エンジンをかける。
「で、どこ行きます?」
ナビを起動しながら聞く。
少し間。
浮雲が、
真剣な顔で言った。
「……ろかーれ」
「……はい?」
「ろかーれに……行きたい」
――終了。
私のおしゃれ食べ歩きプラン、
即・白紙。
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ろかーれ。
地元民なら誰でも知ってる、
大盛りイタリアンの銘店。
食べきれずに
撃沈者続出。
でも、
味はガチ。
カレーも、パスタも、
全部旨い。
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初手、ろかーれ。
「……了解です」
ハンドルを切りながら、
私は内心で合掌した。
(若林さん……
27年前……
苦労したんですね……)
へそ出しギャル時代の若林さんを思い出す。
ナム。
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信号待ち。
遠く市民会館の庭園の木々が見える。
ふと、横を見る。
浮雲は、
少しだけ肩の力を抜いて、
窓の外を眺めていた。
「……変わったな」
「はい?」
「知ってる建物と知らない建物が混ざってる。」
「再開発されてますからね、結構」
「……人が減っている」
「あー、人口減ってるっぽいからね」
私は笑った。
「とりあえず!
今日は“山形案内”ですから、満腹だけでは帰しません」
浮雲は、
ほんの少しだけ、
口元を緩めた。
「……ありがとう」
その声は、
戦場で聞く声より、
ずっと小さかった。
信号機が変わり、車が発信する




