094 2026年5月09日(土)_01 じょし会開催
なんか、すごい夢を見た。
しかも、はっきり覚えてる。
多分――
この破片が、見てきた記憶。
そして、それを渡した、お父さんの記憶。
胸の奥が、
鉛みたいに重い。
以前、母からぽつりと聞いた言葉が、
ゆっくり重なる。
>「笑っちゃうでしょ」
>「あの人は大切な友達で」
>「世界にとっては英雄で、
>あなたに未来を託した人だった」
>「でも、私にとっては——
>夫だった人の心まで、幽世に連れていった人」
「本当に……親友だったんだ……」
破片を握ったまま、
無意識に自分の胸のあたりを押さえた。
もし、あのとき私がいたら。
いや、いなかった。
だから、私は生まれた。
そうなんだ、
あの出来事はもう覆らない。
一葉は、そっと涙をぬぐった。
眼鏡をそっとかける。
世界の輪郭が、
少しだけ、はっきり戻る。
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今日は、
陽葵と、その友達とアニメイトに行くのだ。
予約していた、
アニメのキャラクターフレグランスの取り置き。
とっても、てぇてぇのである。
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陽葵の友人――
星奈、瑠羽、心愛。
四人を愛車、
スズキ・スペーシアに詰め込む。
「「「オナシャース」」」
「はい、シートベルト!」
「みんな、運転荒くない?大丈夫?」
「うち、優良ゴールドドライバーだぞ?」
「絶対嘘だ!というか前みて前!」
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山形駅東口。
駅前大通り。
山交ビル二階――アニメイト。
裏手の急斜面を、スペーシアがうなりながら登る。
「ここ、地味に怖い坂なんだよね」
「すげー昭和じゃん」
無事、駐車。
店内。
推しの香りを手に入れ、
四人とも、ほくほく顔。
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山交ビル地下。
ドムドムバーガー。
一葉は、
厚焼き玉子バーガーを頬張る。
「……これ、正義」
「わかる」
「ドムドムって、なんか落ち着くよねー。
とっても平成な感じ」
「いち姉ぇ、その時点で昭和!」
失礼な、バーガーのセンスが始まりすぎててウケル。
何でも挟むからつい、来ちゃう。
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そのまま駅西。
霞城セントラル二階。
プリクラ。
「ちょ、フィルター強すぎ」
「誰だよこの顔」
「盛れてるから正義」
笑いながら、
時間が過ぎる。
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南館――おたちゅう。
クレーンゲームで、
全員が無駄に熱くなる。
「絶対取れる!」
「それ死亡フラグ」
「三千円溶けた」
「はい撤退!」
「ヤバい、このソフト買おうかな、欲しすぎる」
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夕方。
それぞれ解散。
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陽葵を実家へ送る帰り道。
車内。
信号待ち。
一葉が、ふと思い出したように口を開く。
「陽葵さぁ……どうでもいいんだけど」
「うん?」
「お父さんとお母さんが別れた理由、知ってる?」
陽葵は、スマホから顔も上げずに答える。
「さぁ?性格の不一致とかじゃね?」
少し考えて、
「でも連絡取り合ってるし、昼ドラみたいなドロドロではない気がする」
一葉は、小さく笑う。
「まぁ……そう……かもね」
陽葵が肩をすくめる。
「いち姉ぇ、なんか知ってるでしょ?」
間。
「まぁ、興味ナシ。私は私が過ごしやすければいいのです」
「ちげーねーぇ」
一葉が、少しだけ息を抜く。
「あとさ」
「うん?」
「もういっこ、どーーーーーでもいい話」
「言ってみ?」
「お母さん、若い頃――ヤンキーだった」
「ぶっ!!!!!!!!!!!!」
「ガチやで」
「今度テスト悪かった時の言い訳に使うわ」
「いいね。写真ゲットしとく」
車内が笑いに包まれる。
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夜。
自宅。
一人。
静かな部屋。
一葉は、机の上に置いたヒヒイロカネを見つめる。
光は、
ただそこにあるだけなのに、
どこか、
呼吸しているみたいだった。
多分。
こいつは――
あの最終決戦の目撃者なんだ。
あの地獄。
あの時間。
あそこで浮雲さんは、
二十七年。
――もしくは。
二百万年。
戦い続けた。
それって。
どんな覚悟があれば、
できるんだろう。
考える。
けれど。
答えは出ない。
一葉は、
そっと破片を枕元へ戻した。
「……ま、いっか」
小さく呟く。
「とりあえず」
ベッドに潜り込む。
「寝る」
天井を見つめる。
「それがいい」
今日の夢はできたら優しい記憶がいいな。




