090 2026年5月08日(金)_02 会議の真似事01
奈良――
いや、道化が、歌うように、ゆるく手を叩いた。
「さぁて……
彼らの真似をして、会議といこうか」
薄暗い虚空に、名前がひとつずつ、呼び出される。
「イゴーロナク。
グラーキ。
エイホート。
ツァトゥグァ。
ボクラグ。
シャウルス。
アトラック=ナチャ。」
一拍、置いて。
影が、わずかに、笑った。
――――――――――――――
イゴーロナクが、掌の口で歯ぎしりをする。
「なぜだ、道化。
なぜお前が仕切る」
奈良は、肩をすくめる。
「だって君、仕切るとすぐ“壊す”だろう?」
ツァトゥグァが、華奢な腹をさすりながら、ぐにゃりと笑う。
「ナイアルラトホテップ……
人はすぐ壊れる。
それに、相手をしていると――お腹がすくの」
奈良が指を振る。
「ほら、もう“食事の話”。
会議は“メニュー表”じゃないよ」
グラーキが、棘を震わせて怒鳴る。
「ナイアルラトホテップ!
人間ごときが、この私に傷をつけたのだ!
不敬だ!許されぬ!」
シャウルスが、低く、父をなだめる。
「父よ。
怒りは、道を狭めます。
獲物は、広い場所に集うものです」
ボクラグが、石のような声で続ける。
「皆、落ち着くのだ。
道化にも……考えがある」
奈良は、くるりと回って、拍手する。
「ありがとう、今日の“理性枠”。
君がいないと、ここ、すぐ“終末”になる」
エイホートが、壁の隙間から、ぬるりと顔を出す。
「我が迷宮から呼ばれたゆえ、
人の皮を、まとってやった。
……誰か、我が子を宿さぬか?」
奈良は、即答。
「その議題は、倫理委員会に回そう。
――永遠に」
アトラック=ナチャが、指先で光る画面を操作しながら、ぽつり。
「この“ソシャゲ”、いいね。
ずっと続けられる……
世界より、長く」
奈良が、しみじみ頷く。
「君、
一番“邪神らしい”よ、今」
――――――――――――――
全員の視線が、
自然と、影に向く。
奈良は、両手を広げる。
「結論。
君たちは――」
一拍。
「協調性、ゼロ。
でもまあ……」
影に、ちらりと目を向ける。
「それを楽しんでいる観客がいるなら、
この会議も、
悪くないだろ?」
影が、わずかに、笑う。
奈良――ナイアルラトホテップが、くるりと回って、両手を広げた。
「ほらほら。
あの“箱”が、どうやら動くらしい。
それに――」
指を折る。
「厄介で、
騒がしくて、
やたらと好戦的な“九人の戦鬼”もいる」
虚空に、ざわり、と風が走る。
「――人間世界。
最高に、楽しいじゃないか」
――――――――――――――
イゴーロナクが、舌を鳴らす。
「壊せるものが、増えたな」
ツァトゥグァが、あくびをする。
「観てるだけで、
お腹がすくわ……」
グラーキが、棘をきしませる。
「今度こそ、
あの“箱”とその眷属に、
私の名を刻んでやる」
シャウルスが、静かに言う。
「父よ。
焦りは、
物語を、短くします」
ボクラグが、低く響く声で続ける。
「長く続くほうが、
“観る者”は、
楽しめる」
エイホートが、くぐもった声で笑う。
「ならば、
迷宮を、ひとつ、
街の中に、置こうか」
アトラック=ナチャは、画面から目を離さず、ぽつり。
「……ログインボーナス、
今日も来た」
――――――――――――――
奈良が、
影の方を、ちらりと見る。
「でさ」
一歩、踏み出す。
「君は、どうだい?
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
影は、
少しだけ、揺れる。
言葉は、ない。
ただ、
“楽しんでいる”という事実だけが、
空間に、
じわりと、染み出す。
奈良は、にやりと笑った。
「いいね。
その顔だ」
そして、
“カメラ”を見る
「――これを観ている君は、
楽しんでるかい?」
直後カメラはその機能を終えた




