084 2026年5月07日(木)_05 領空侵犯
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【緊急通信ログ/軍事回線】
半島某国発。
中国方面、緊急直通回線。
> 弾道ミサイル、誤発射。五発。
弾道制御、喪失。
オペレーター、信仰外存在に寄生・融合。
現在、弾頭と一体化し、自己制御下。迎撃不能。
――
人民解放軍戦区直轄。
第九特種工程基地。
即時、スクランブル。
試験飛行中だった黄龍機に、
緊急秘匿コードが走る。
三重次元炉、フルパワー。
重力制御装置、解放。
七十メートル級機体が、
空間を“引き裂く”ように、
ミサイル群の高度へと跳躍する。
重力制御を最大限に展開、機体隠蔽に必要な処理をほぼ無視。
最高速度はマッハ50を超えていた。
慣性は分散遅延循環特化にしたMPCFで処理、
熱エネルギーなどは結晶化し対消滅。
そのマイクロブラックホールに余剰慣性を流し込む。
それでも一歩間違えば致死の加速である。
経路に発生した被害は国が上手く処理してくれるはずだ。
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ミサイル群を迂回し、
進行方向に合わせて追いつきながら、
速度あわせる。
モニターに映るのは、
高速機動する弾道弾。
そこから伸びる、異形の触手。
そして、それと交戦する――
継ぎ接ぎの機体。
思考入力インターフェイスからの文字入力
「領空侵犯機、視認!」
だが。
黄龍機の網膜投射モニターに、
古い友軍マーカーが灯る。
<DPGR-02>
アーカイブ表示。
だが、機体構成は一致しない。
AIはDPGR-01、DPGR-04のフレーム特性が混在を示唆。
――共食い修理。
現地改修の限界を超えている。
ノイズ混じりの音声が割り込む。
> 「こちら、N国、ファヌン。
中国、東海龍王。領空侵害、謝罪する。
我が国のオペレーターが侵食された。
当方、その“後始末”を担当している。」
しゃがれた声。
訛りの強い公用語。
――高齢。
あの機体構成で、この速度。
対G装備は最低限のはず。
……この距離を、その身体で?
黄龍機パイロット、歯を食いしばる。
> 死ぬ気か。
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黄龍機AI、
対深宇宙勢力侵攻事案特例を発令。
国家。基地。
コンマ秒で承認。
交戦許可、成立。
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黄龍機、両腕展開。
龍のように、
機械の肢体が空間を伸びる。
身の丈を超える長さまで引き延ばされた、
灼熱のアーム。
拳は怒れる龍の咢。
触手ごと、
五発すべての弾頭を、
推進機から切断・確保。
――毒性、放射線、核反応の全ての可能性。
地表への落下、許可せず。
脚部多目的マウントで保持。
そのまま、
出力上昇。
熱量、最大。
蒼白く燃える双龍が天空に舞う。
飛翔する推進機と、
融合した“元人間”を、
空中で焼却。
破片。
残滓。
痕跡。
すべて、
塵へ。
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通信。
> 「援護、感謝する。」
一瞬、
声が、柔らぐ。
> 「孫娘を……
人のまま、弔ってくれて、ありがとう。」
DPGR-02。
全身から、黒煙。
減速。
姿勢制御、喪失。
緩やかに、
地表へ降下していく。
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着地。
コックピット、開放。
内部。
1999年型、対Gスーツ。
老兵。
穏やかな顔で、
既に、絶命。
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黄龍機パイロット、
機体を一歩、前に出す。
右腕を、
胸の前で止める。
戦死者弔礼動作。
戦域の風が、
静かに、二機の間を通り抜けた。
記録ログ、保存。
【作戦終了】
【人員喪失:友軍1】
【脅威排除:完了】




