表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/200

083 2026年5月07日(木)_04 一刀両断

全天周囲モニターに、

淡い文字が浮かぶ。


<アーカイブ照合完了>

<対象:アルスカリ(Alskali)>

<適合率:80%>


“名前”が与えられた瞬間、

怪異は、ただの“現象”から、“敵”になる。


指令室と山形ロボは、

霊波変換式戦域通信システム――

《Spiritual Wave Network》で、つながっている。


タイムラグがほとんどなく、

情報が共有される。


指令室で、

武田が、槌谷が、今田が、

同じ“視界”を、同時に、見ている。


山形ロボの小さなバックパックが、

静かに、開く。


――パチン。


小型ドローンが、

複数散開する。


上から。

横から。

背後から。


多角的な視点が、

指令室に、流れ込む。


その――

次の瞬間。


アルスカリが、消えた。


いや。

“消えたように見えた”だけだ。


山形ロボの左側面。

正面センサーにとっては死角。


巨人は、自身よりも10メートルも小さな、

無骨な箱、山形ロボを、完全に舐めていた。


一葉の視界には、

AI処理された複数の“起こり得る可能性”が、

半透明の残像として、

表示される。


巨人と距離が、

“ゼロ”になる。


巨人の腕が、渾身の力で振り上げられる。

必殺の抜き手。


込められるのは、

破壊力と、現実への干渉。


不壊の装甲すら貫通させる、

嘗て“白川ダム”での一戦の個体のソレを、

遥かに上回る神気と速度。


だが。


山形ロボの、無骨な左手が、

その腕を――


自身の装甲に触れる前に、

つかむ。


箱型の頭部にある、

冗談みたいな球状の複合センサー、

“眼”の表面に展開する電磁バリア層が、

電圧が上がり、

淡く発光する。


――ミキッ。


太い筋肉と、

それを支える骨が軋む。

巨人は、

悲鳴を上げる。


構わず、握りつぶす。


響きわたる、肉と骨の音。


――ギャァァァァァッ。


巨人が激痛に膝をつく。


だが。


足元の木々も、

電柱も、

建物も――


壊れない。


ぐにゃりと、

空間が“逃げる”だけだ。


指令室。


槌谷の声が、

落ち着いて、入る。


「局所位相固定、アプデしておきました。

ロボの炉のエネルギーロスが、圧倒的に減ってます」


一拍。


「損害は、最小限。空間歪曲効果増強、

フィードバックも、据え置きです」


一葉は、

短く、笑う。


「……ありがと!」


そのまま。


アルスカリの、

握りしめた腕を、起点に――


山形ロボを、

軽く、跳躍させる。


――ぶちん。


腕が、負荷に耐えきれず、

千切れる。


更に空気を引き裂くような悲鳴を上げる。


巨人の頭上を飛び越え、

着地。


一葉の声が、

低く、響く。


「これは――

あんたが、壊した車の分!」


千切れた腕を投げ捨てる。


山形ロボの右腕。


装甲が、

スライドする。


――カシャン。


内部で、

タービンが、

冷たく光り、唸る。

終わりを知らせるコーラス。


冷却ガスが、

白く、噴き出す。


前腕が、

高速で、回転を始める。


――跳躍。


視界が、

一気に、上からになる。


激痛と恐怖に、

逃げ出す巨人の、

頭上。


「――月山おろし!」


アルスカリは、

残った腕で、

回転する手刀を、

掴もうとする。


だが。


圧倒的な回転トルク。

そして、

叩きつけられる、冷気。


――パキン。

――バキン。


指が、掌が、

凍り、千切れ砕け散る。


一葉は、

続ける。


「これは――

車に、乗ってた人の分!」


山形ロボの“目”が、

巨人の単眼を、

無慈悲に見下ろす。


冷たい

球状の、機械の眼。


ペンチ型の、

手刀が――


――ズバァァン。


腕ごと、

頭頂から、

一気に、両断。


内部へ。


圧倒的な、

冷気が、存在する事への否定が、

叩き込まれる。


アルスカリの巨体が、

内側から、

“止まる”。


音が、

消える。


巨人は霧のように、散った。


一葉は、

操縦桿から、手を離さないまま、

ゆっくりと、息を吐いた。


「……作業、完了」


指令室に、

同時に、

“静寂”が、届いた。


誰も、すぐには、

声を出せなかった。


「白川ダム型巨人に対し圧倒的……」

動きがまるで別物だった。



―――



帰還後。


一葉は、

無言のまま、スーツに着替えた。


言葉を挟む余白が、

まだ、どこにもない。


三浦は――

あのまま、

“お持ち帰り”された。


誰に、とは、聞かない。

聞かなくても、分かる種類のやつだ。


青山の運転で、

再び、県庁へ。


白い建物が、

今度は、

やけに、遠く見えた。


―――


会議室。


さっきより、

空気が、重い。


一葉は、

簡単に、報告をする。


接触。

識別。

排除。

結界解除。


淡々と、

淡々と。


その後、

被害報告が、

事務官の声で、読み上げられる。


数字。

場所。

時刻。

処理状況。


最後に、

一行だけ、

“名前の前段”が来る。


「――死者、1名」


一葉は、

目を閉じた。

服の上から“おまもり”をそっと撫でる。


ほんの、一瞬。


「氏名――」


名前が、続く。


モニターの端。


リモート参加の、

若い人物。


ウィンドウの表示名――

田中 恒一。


彼は、

被害状況の、資料写真を見て、

思わず、

両手で口元を、必死に押さえ立ち上がる。


椅子が、

倒れる音。


そのまま、

画面から、消える。


遠くから嘔吐の音


退席。


誰も、

それを、気にも留めない。


会議は、

進行していく。


次の議題。

次の資料。

次のページ。


“1名”は、

もう、

数字に戻っている。


沈黙の中で、

児島が、ぽつりと、言う。


「事件の収束は、

我々が、全力で、行います」


誰に向けた言葉か、

分からない。


「ですが――」


一拍。


「失われた人命は、

二度と、戻りません」


視線が、

机の中央に、集まる。


黒いファイル。

閉じられたままの、

“名前の束”。


児島は、

深く、頭を下げる。


「皆様の、ご理解と、ご協力を、

何卒、お願いいたします」


誰かが、

小さく、

咳払いをした。


誰かが、

ペンを、置いた。


一葉は、

胸の下で、

<ゆうしゃのけん>の感触を、

確かめる。


重い。


それでも、

離さない。


会議室の窓の外で、

風が、

新緑の木々を、揺らしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ