078 2026年5月05日(火)_04 ゆうしゃのおまもり
今日は、なんか、疲れた。
部屋の電気もつけないまま、ベッドに腰を下ろして、
スマホの画面だけが、手のひらを白く照らす。
お母さんに、
ありがとうって――
あれから、初めてラインした。
あと、
臭くてごめんって。
送信。
間もなく、既読。
画面に、ぽん、と
「頑張れ」のスタンプが浮かぶ。
その下に、文字。
>匂いは裕子先輩と悠に聞いてた。だから覚悟してた。
……覚悟って、何。
声に出さずに笑って、
スマホを伏せる。
部屋に戻ると、
確かに、微かに――卵臭い。
一瞬、鼻をすん、と鳴らして、
次の瞬間、吹き出した。
もう、だめだ。
今日はいろいろ、だめだ。
窓を、全開にする。
夜の風が、カーテンを持ち上げて、
部屋の奥まで、ひんやりした空気を運んでくる。
気持ちいい。
深呼吸。
胸の奥に溜まっていた、
言葉にならない何かが、
少しだけ、外に出ていく。
机の引き出しを開ける。
帰りに、100均で買った、かわいい布。
星みたいな模様が散っている、小さな切れ端。
LEDの光の下、
針と糸。
チク、チク。
久しぶりの裁縫は、
ロボットの操縦より、ずっと静かで、
ずっと、難しい。
意識が指先に集中する。
小さな巾着が、形になったところで、
そっと、開く。
<ゆうしゃのけん>
あの子が、くれた。
黄土色のシンプルなレゴの剣。
それを、
そっと、しまう。
革ひもを通して、
首から下げる。
シャツの下で、
小さく、胸に当たる。
多分、これ、お守り。
私が、迷ったり、間違わないように。
弱くなりそうなとき、
ちゃんと、前を向けるように。
あの子に、
胸を張って、
<ゆうしゃ>
って、呼ばれる人になれるように。
窓の外で、
風が、もう一度、カーテンを揺らした。
卵の匂いは、
もうしなかった。




