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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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075 2026年5月05日(火)_01 聖剣授与

空は、やけに高い。


なんとなく、一葉は文翔館前交差点に来ていた。

理由は、たぶん、わかっている。

ここは、私が最初に守った場所だから。


少し歩くと、七日町大通りは歩行者天国だった。

アスファルトの上に、屋台とキッチンカーと、笑い声が並ぶ。

風に乗って、揚げ物の匂いと、甘いソースの香りと、鉄板の湯気が混ざる。


みんな、平和だ。

そして私は、

その“無かった事にされてる事”を、知ってしまった側の人間だ。


グリーンのキッチンカーで、スパムおむすびを買う。

厚切りのローストされたスパム。

甘辛いタレ。

酢飯の酸味。


一口かじる。


……美味しい。


その事実が、胸に刺さる。


> 私がやらなければ。

> 私が、守らなければ。



そう思うほど、

肩に、何かが積もっていく。


雑踏を抜けると、

“はたらく車コーナー”。


パトカー。

救急車。

高所作業車。

自衛隊の車両。


子どもたちに囲まれて、

自衛官が、膝を折って、同じ目線で話している。

特殊車両の前で写真を撮って、

笑っている。


すごいな、と思う。


あの人も、

きっと、私とは違う“歪み”を、知っているはずだ。


警察官も。

救急隊員も。

消防士も。


誰かの“最悪”を、

日常として、受け止める人たち。


私は——

たぶん、無理だ。


そう思った瞬間。


くい、と。

裾が引っ張られる。


振り向く。


この前、駅で会った男の子だ。

今日は小さな水筒をぶら下げている。



「おねーちゃん、こんにちは!」


ニカッと笑う。


一葉は、うまく笑えない。


ログが、脳裏をよぎる。

名前。

年齢。

家族。

“観測終了”。


そして、

あの日、謝っていた母親の顔。


謝るべきは自分なのに。


男の子は、胸を張って言う。


「ぼくね、

おまわりさんになるの!」


一葉の喉が、詰まる。


「おまわりさんになって、

ママも、みんなも、まもるの!」


まっすぐすぎる言葉。

正しすぎる未来。


一葉は、目を逸らす。

直視できない。


私は、

守れなかった。


すると、男の子が、ポケットをごそごそする。


「あい!これ!」


小さな手のひらに乗っているのは、

レゴ人形用の、ちっちゃな剣。


「おねーちゃん、

なんか、ないちゃいそうだから」


一葉の胸が、ぎゅっと縮む。


「これ、パパにもらったんだよ。

ゆうしゃのけん!」


剣は、軽い。

プラスチックで、

頼りなくて、

何の力もない。


「ぼく、つよいから、だいじょうぶ」

「だから、これ、あげる」

「おねーちゃん、なかないで?」


その瞬間。


鼻の奥が、ツン、とする。

視界が、にじむ。


小さな手に、指が触れる。

あたたかい。


子供、特有の温度。


あ。

あ。


涙が、こぼれる。


止まらない。


理屈じゃなかった。

使命でも、責任でも、正義でもない。


ただ。


> 私は、誰かの“明日”を護りたいから


それだけで、よかった。


男の子は、不思議そうに見上げる。


「……だいじょうぶ?」


一葉は、しゃがんで、目線を合わせる。

涙を指で拭って、息をひとつ整える。


「……ありがとう」


小さな剣を、そっと両手で受け取る。

落とさないように、壊さないように。


「これ、

すごく大事な剣だね」


男の子は、少しだけ誇らしそうに、でも小さく頷く。


「うん。

パパのだから」


一葉の胸が、静かに鳴る。


「……そっか」


一瞬だけ目を伏せて、

それから、ちゃんと笑う。


「じゃあ、

おねえちゃん、預かるね」


「もう二度と、“なくさない”から」


そう言って、

一葉は、剣をポケットの奥にしまった。


母親が申し訳なさそうに謝り、

手を引かれ、

その声が、

雑踏に溶けていく。


一葉は、立ち上がる。

ポケットの中の、小さな剣を、そっと握る。


世界を覆う結界は、壊れかけている。

それでも、

こうやって、誰かが、誰かに、

思いやる言葉を、繋いでいく。


それで、いい。


そして、そんな世界を護りたい。


七日町の青空の下、一葉は文翔館に向かって力強く歩きはじめた。



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