071 2026年5月03日(日) 家族との団らん
お母さんと陽葵、三人で
成沢の100円ショップとスーパーをはしごする。
洗剤の詰め替え、ラップ、スポンジ。
かごの中身は、どこの家とも変わらない。
通路ですれ違う、別の家族。
子どもが走って、親に叱られる。
誰かが笑って、誰かがため息をつく。
レジ前で、声を荒げて店員にクレームを言う人がいる。
ポイントアプリがどうとか、値札が違うとか。
小さな、どうでもいい、でも当人には大事な話。
——こんなに、平和なのに。
何が、そんなに気に入らないんだろう。
一葉は、カゴの縁を、無意識に指でなぞる。
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そのまま、お母さんの運転で
蔵王半郷のカフェへ向かう。
砂利の音。
門をくぐると、空気が少し変わる。
手入れされた日本庭園。
石灯籠。
低く剪定された松。
池の水面を割って、錦鯉がゆっくりと浮かび上がる。
順番待ちのあいだ、
陽葵が餌をひとつまみ、池に投げる。
一瞬、静止。
次の瞬間、我先にと集まってくる影。
「うわ、必死」
「可愛い」
陽葵が笑う。
一葉も、つられて笑う。
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席に案内される。
スキレットにのった、
ふっくらしたあずきバターのパンケーキ。
鉄板の縁で、じゅっと音がする。
コーヒーを一口。
——昨日のと、味が似てる。
メニューを見る。
同じ名前。
同じ焙煎所。
偶然に、少し安心する。
陽葵の前には、
山みたいなかき氷。
季節限定のシロップが、氷の斜面をゆっくり流れる。
お母さんは、甘くないパンケーキ。
ナイフとフォークの音が、きちんとしたリズムで鳴る。
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周囲を見回す。
カップル。
ファミリー。
連休を楽しむ人たち。
スマホで写真を撮って、
笑って、
誰かに見せている。
——この人たちは、知らない。
この街のどこかで、
“見せないようにされているもの”が、必死に押さえ込まれていることを。
一葉は、コーヒーカップの底を見る。
黒い液面に、自分の顔が歪んで映る。
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帰りに、コストコ。
トイレットペーパー。
冷凍食品。
肉のパック。
加熱するだけのデリカ。
お徳用の地元の有名出汁醤油。
炭酸水の箱。
カートが、どんどん重くなる。
夕方、実家で分ける。
テーブルの上に並ぶ、山みたいなタッパー。
「しばらく、買い物いらないね」
お母さんが言う。
一葉は、頷く。
——しばらくは。
ここでは。
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夜。
自分の部屋。
クックパッドを開いて、
レシピを見ながら、包丁を動かす。
玉ねぎを切る。
涙が出る。
それを、
玉ねぎのせいにする。
フライパンの音。
サーモンが加熱される油の匂い。
——でも、脳裏に浮かぶのは。
フォルダ。
名前。
年齢。
家族構成。
“観測終了”。
一葉は、手を止める。
スマホのタイマーの音がどこか遠い。
今日も、
世界は、ちゃんと回っている。
その裏側で、
何かを、こぼしながら。




