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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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070 2026年5月02日(土) ゴールデンウィークの日常

旧山形市立第一小学校校舎――

いまは「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」と呼ばれる場所。


イベント多発地域として知られる山形県。

その県庁所在地・山形市にある、共創と交流の拠点。


二階。

観葉植物が天井近くまで伸び、やわらかな光が差し込むカフェ。


一葉は、帰郷した高校時代の旧友たちと向かい合い、

スプーンでプリンをすくっている。


いつも無造作に束ねている髪は、今日は珍しくシュシュでまとめられている。

服装は、妹・陽葵チョイス。

コンタクトも入れている。


――たぶん、男子がいるから。


そんな理由を、自分で自分に言い訳しながら。


話題は、軽い。


最近の推し。

仕事の愚痴。

ちょっとだけ将来の話。

そして、恋バナ。


誰かが笑う。

誰かが突っ込む。

テーブルの上で、スプーンとカップが軽く音を立てる。


ちらり、と。

男子の視線が、こちらに向く。


一葉は気づいて、気づかないふりをする。


笑顔で、相槌を打つ。


「うん」

「わかる」

「それは大変だね」


ちゃんと、そこにいるふりをする。


でも、心は、どこか少しだけ、遅れている。


レンタルサイクルで場所を変える。


駅西。

県民ホール前の芝生広場。


マルシェが開かれている。


クラフト雑貨。

焼き菓子。

キッチンカー。

ワークショップ。


空気が、甘い匂いと油の匂いと、コーヒーの香りで混ざり合っている。


楽しい。

みんな、笑っている。


一葉も、笑う。


また、男子が、ちらりとこちらを見る。


一葉は、

気づかないふりをする。


一葉は、謎の縫いぐるみを買う。

手のひらサイズ。

ハムスター、らしい。


――絶対に違う。

顔が、虚無。

でも、なぜか、可愛い。


自家焙煎のコーヒー。

チュロス。

大学芋。

それぞれが買ったものを持って、ベンチに座る。


「これ、思ったより甘くない」

「そっちの方が当たりじゃん」

「見て、このキーホルダー」


一葉も、ちゃんと、笑って、相槌を打つ。


世界は、ちゃんと、平和だ。


帰り際。


男子が、少し照れたように言う。


「片桐さ、雰囲気変わったよね」

「なんか、大人びたっていうか」


一葉は、曖昧に、うなずく。


「連絡、してもいい?」


「いいよ」


そう答える。


でも、心は、ここにない。


---



夜。

一人の部屋。

いつもの眼鏡。

いつものスエット。


電気をつけない。


カーテンの隙間から、街灯の光が、床に細い線を落とす。


一葉は、ベッドに座って、

縫いぐるみを机の上に置く。


虚無の顔を、じっと見る。


それから、目を閉じる。


スマホが震える。


<男子>

今日は楽しかった。また、集まろう。


通知を、開く。

既読がつく。


返事は、打たない。


---


昼間の声が、遅れて戻ってくる。


笑い声。

チュロスの砂糖の匂い。

コーヒーの湯気。

芝生の感触。

誰かが言った、どうでもいい未来の話。


全部、ちゃんと“現実”だった。


それなのに。


胸の奥に、

冷たい空洞が残っている。


---


一葉は、ベッドに仰向けになる。


天井を見る。

何もない、白い天井。


でも、目を閉じると、

“別の天井”が浮かぶ。


地下の秘密ドック。

ブラウン管。

ランプ。

カウントダウン。


無線のノイズ。

観測班の声。

結界展開のタイミング。


あの、重さ。


---


スマホを、もう一度手に取る。


連絡先一覧。

高校の友達。

大学の友達。

県庁の同僚。

陽葵。

母、綾。


そして、

仕事用の、見慣れた名前たち。


児島。

若林。

鎌田。

お父さん。

石原。

浮雲。


“世界の裏側を知ってる”人間たち。


---


一葉は、指で画面をなぞる。


今日、芝生の上で笑っていた自分。

今、この部屋で黙っている自分。

ロボットの中で、操縦桿を握る自分。


全部、同じ顔のはずなのに、

どれも、少しずつ、違う。


---


縫いぐるみを、手に取る。


軽い。

柔らかい。

中身が、綿だけの存在。


胸に押し当てる。


温度が、移る。


「……羨ましいな」


ぽつりと、声が落ちる。


“何も知らなくて、

何も背負ってなくて、

ただ、可愛いだけで、ここにいられるやつ”


---


スマホが、また震える。


今度は、陽葵。


<陽葵>

今日どうだった?

プリン美味しかった?


一葉は、少しだけ笑う。


返事を打つ。


<一葉>

美味しかった

あと、変なハムスター買った


<陽葵>

また変なの買ってる笑

今度見せて


---


一葉は、目を閉じる。


平和な山形。

戦場。

カフェ。

邪悪な存在。

芝生。

ドック。

縫いぐるみ。

被害者。

山形ロボ。


全部が、頭の中で、ゆっくり混ざる。


---


「……私も知っちゃった側なんだよね。」


答えは、出ない。


ただ、

心臓の音だけが、静かな部屋に響いている。


生きている証みたいに。


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