表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/200

069 2026年5月01日(金)_06 蔵王温泉、変わってしまった、変わらない二人

深夜9時45分

若林は、浮雲をホンダのフリードの助手席に乗せて、蔵王温泉へ向かっていた。


ナビの画面には、

くねくねと続く山道の青い線。


街の灯りは、すでに遠い。


---


目的地は、

蔵王温泉 下湯共同浴場に併設されている、足湯。

無料なのが魅力。


浮雲の右腕。

ナイアルラトホテップとの接合部。

背中に刻まれた、羽の生える器官。


そこは、黒く変色していて、

下手な全身タトゥーより、よほど目を引く。


正直、

服を脱げば、一般人は引く。


だから、

“脱がなくていい場所”。


それが、

若林が温泉好きの浮雲の為に、

足湯を選んだ理由だった。


---


湯に、足を沈める。


じんわりと、

熱が、骨に染みていく。


硫黄の、微かな香り。


山形ロボのコックピット。

血と汗と、

鉄と霊子と、

あらゆるものが混じった、あの“すえた匂い”とは、まるで違う。


情緒がある。



---


「平輔」


若林が、湯気の向こうから言う。


「一葉ちゃん」


浮雲は、目を閉じたまま、耳を傾ける。


「……あの記録、見ちゃったって」


一拍。


「端末のバッファ、軽くハックしたみたい」

「そういうとこ、早川君の娘よね」


浮雲は、短く答える。


「そうか」


湯の中で、指先が、わずかに動く。



---


「でもね」

「続けるみたい」


若林は、夜空を見上げる。


星は、ほとんど見えない。

雲が低い。


「綾から、“頼む”ってラインが来た」



---


しばらく、沈黙。


湯が、ちゃぷり、と小さく音を立てる。



---


「山形ロボさ」


若林が、ぽつりと言う。


「一葉ちゃんの霊子の形、もう登録されてるのよ」


浮雲の目が、少しだけ開く。


「いまは、現状、彼女専用機」


「きっかけは、ただ“守れる”って意思の強さで、うちの部署にスカウトされて」

「奈良のアホタレの手引きとはいえ」


小さく、笑う。


「霊体認証、全部、クリアしちゃってる」


「“正しき願い”の持ち主ってやつ?」



---


「運用側としては、頼もしい人材よ」


若林は、足の指をほぐす。


「でもね」


一瞬、言葉を探す。


「どこかで、彼女には」

「普通でいてほしくも、あった」



---


湯煙に、浮雲の輪郭が、ぼやける。


「俺が、乗れれば」

「良かったんだが」


若林は、すぐには答えなかった。

湯気の向こうで、指先が、わずかに震えた。


---


若林は、鼻で、ふっと笑う。


「平輔」


「200万年経ってるのに」

「ほんと、変わらないわね」


湯気越しに、目を細める。


「もう、休んでもいいのに」



---


浮雲は、少し、間を置いて言う。


「……悠」


若林の動きが、止まる。


「あら」


くるりと、顔を向ける。


「あんたに、名前で呼ばれるの」

「何十年ぶりかしら」


優しく、微笑む。



---


浮雲は、足湯から、立ち上がる。


夜風が、湯気を押し流す。


「俺は」

「お前が、さえ、良ければ」


言葉が、少し、詰まる。


「……もう一度」



---


「嫌よ」


若林は、即答する。


でも、声は、柔らかい。


優しく、微笑む。


「27年も放置する男より」

「もっと、いい男、見つけたの」


「子どもも、三人生んだ」


少しだけ、目を伏せる。


「そんな男でもね」

「一度、歪んだ世界を知った私とは、無理だったのよ」


「だから、男は、もう、懲りたわ」



---


一拍。


「それに」


にやり、とする。


「再会の第一声、覚えてる?」


「元カノに、“太った”とか言うアホタレは、論外」



---


浮雲が、固まる。


「あ、う……済まん」



---


若林は、肩をすくめる。


「平輔」

「あんたも、いいひと、探しなさい」


「いまはね、マチアプってのがあるのよ」


「若作りの50代、需要あるかもよ?」



---


「……まち、あぷ?」



---


若林は、立ち上がる。


「ほら」

「帰るわ」


「湯冷めするでしょ」


慌てて古びた地図に印を書き込む浮雲。


---


二人は、足湯を離れる。


夜の蔵王は、静かだ。


遠くで、風が、木を鳴らす。


今はただ、

古い友人同士が、

夜道を、並んで歩いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ