067 2026年5月01日(金)_04 8人の異邦人達
8人の外国人観光客と、
4人の男女。
東京駅、丸の内口。
ガラス張りのドーム越しに、夕方の光が降り注ぎ、
スーツケースの車輪と、アナウンスの声と、
無数の言語が、ひとつの空間に溶け合っている。
――ザ・ナイン。
そして、その“お目付け役”。
本来なら、
互いに一歩、二歩、距離を取る関係のはずだった。
だが。
存外、うまくやっていた。
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「日本、やばいな。
“食”がエンターテインメントになってる」
一人が、駅構内のフードコートの看板を指さす。
ラーメン、寿司、カレー、ヴィーガン、ハラール、クラフトバーガー。
「いや、それよりロボットデザインだろ」
別の一人が言う。
「プラモデル売り場、何階あった?
架空の人型兵器、あれ、何世代分あるんだ?」
「動画アーカイブサイトが危険だ」
タブレットを見たまま、誰かが呻く。
「“おすすめ”って機能、文明を滅ぼせるぞ」
「ジャパニーズ・コミック!」
テンション高めの声。
「キュートガール!
だが、内容はだいたい戦争と終末だ!」
「それよりさ」
低い声が混じる。
「情報のアクセス、自由すぎないか?
国家の顔と、個人の意見が、同じ画面に並んでる」
「空気はちょっと排気ガス臭いが」
誰かが深呼吸して、笑う。
「嫌いじゃない。生きてる感じがする」
「服装、ここまで自由でいいのか?」
「軍服みたいな格好の若者と、
着ぐるみみたいな人間が、同じ電車に乗ってるぞ」
「世界中の飯があるな、この国」
「移民国家でもないのに、
胃袋だけは国境がない」
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その横で、
お目付け役の4人は、少し離れて歩きながら、
“別の景色”を見ていた。
駅構内の大型モニター。
国際ニュースのテロップが、静かに流れる。
・中東、宗教施設周辺で未確認現象
・南米沿岸部、海上封鎖区域拡大
・欧州議会、防衛条約の再定義を協議
・アジア太平洋、共同監視ネットワーク強化
誰も、
「邪神」だの、
「怪異」だの、
そんな言葉は使わない。
全部、
“異常気象”
“未確認事象”
“安全保障上の懸念”
政治用語に、
きれいに、言い換えられている。
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「世界が、静かに再軍備してるな」
お目付け役の一人が、ぽつりと言う。
「表向きは災害対応」
別の一人が答える。
「裏では、“対神話”の準備だ」
「中国は“国家級戦略資産”って言い方に切り替えた」
「欧州は“文化遺産防衛プロトコル”」
「アメリカは……まあ、いつも通りだ」
誰かが、苦笑する。
「日本は?」
「“重機”だ」
全員が、一瞬、黙る。
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その少し前を歩く、ザ・ナインの一人が振り返る。
「なあ」
「この国、面白いな」
「ロボットを神にしない」
「神を兵器にも、完全にはしない」
「全部、“仕事”にしてる」
別の一人が肩をすくめる。
「だから、浮雲の機体デザインが、
この国では“ダサい”って言われるんだろ」
「機能美より、
“物語”を選ぶ民族だ」
「悪くない」
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改札前。
人の流れが、二手に分かれる。
お目付け役が、短く指示を出す。
「二班に分かれる」
一方は、
正式な依頼が来ている国へ。
外交ルート。
軍事回廊。
国連の“会議室”を通す、
表の仕事。
もう一方は、
日本全国へ。
地図に載らない点。
報告書に残らない事件。
“起きなかったこと”として処理される場所。
裏の仕事。
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ザ・ナインの一人、アレクセイ・モロゾフが、東京駅の天井を見上げる。
ガラス越しに、
夕焼けと、
無数の鉄骨。
「……この国さ」
「世界の分水嶺に、
立たされてる気がする」
誰かが、笑う。
「じゃあ、余計に観光には、ちょうどいいな」
スーツケースの車輪が、また動き出す。
改札前で、ルーカス・ペレイラが、ふと足を止める。
「ところでさ」
お目付け役の方を見る。
「精神投影型戦闘構造体――あれを使った後、
俺たち、なんでこうして“旅”をさせられるか、
ちゃんと説明されたこと、あるか?」
お目付け役の一人が、少しだけ間を置いて答える。
「“回復プロトコル”だ」
「存在を削って戦う以上、
そのままじゃ、いずれ“薄くなる”」
ザ・ナインの別の一人が、苦笑する。
「だから、飯を食え、街を歩け、人と話せ、って?」
「そうだ」
「強烈な体験を上書きする」
「記憶、感情、文化、雑音、偶然」
「そういう“生の情報”を、
存在そのものに再同期させる」
東京駅の喧騒。
観光客の笑い声。
電車のブレーキ音。
コーヒーの匂い。
アナウンスの日本語と英語と中国語。
すべてが、
彼らにとっては、
“治療シークエンス”だった。




