表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/200

065 2026年5月01日(金)_02 守っていたモノの裏側

午後。

時間ができたので、端末の電源を入れる。

一応、充電用ケーブルも借りてきた。


スタバで飲むと、フラペチーノなんかおしゃれな味なのに、

自宅だと、ただの甘いドリンクなのは、なぁぜ?

不思議。


互換性があるのか、ExcelやWordが普通に動く。

凄く昔のバージョンだけど、

リボンUIも、ショートカットも、指が覚えている。


山形ロボを一週間以上運用した所感。

業務報告、書き終わった。


保存。

ローカルディスク。

オフライン端末。


ふと、デスクトップを見る。


見慣れないフォルダが、ひとつ。


そういえば、

この端末、キャッシュ拾いやすいって言ってたな。

ブロック単位で先読みして、

I/Oバッファに突っ込んで、

使わなかったデータも、そのまま残骸として吐き出す仕様。


なんの気なしに、開く。


拡張子が、見慣れない。


私の端末には、対応ソフトが入ってない。


んー。


ふと、思い出す。

Office系のファイルって、

拡張子を .zip に変えると、

中身がフォルダ構造で見えるんだっけ。

昔お父さんに聞いた。

こういう時父は偉大だと感じる。


XMLと、埋め込みデータと、メタ情報。


この古いOSでも、いけるかな。


リネーム。

.zip


ひらけ。


……開いた。


まじか。


中には、

階層が深いディレクトリ構造。


root

└ archive

 └ 2026

  └ 04

   └ 27

    └ 20260427_0002


タイムスタンプ付き。

日付単位で区切られた、連番フォルダ。


なんとなく、

「20260427_0002」を開く。


中には、

jpg

txt

json

dbfrag


dbfrag……データベースの断片。


画像を、開く。


家族写真。

笑顔。

公園。

男の人が、小さな男の子を抱いている。


……あれ?


さっき、山形駅で見た、あの男の子。


これ、お父さんだ。


背中に、冷たいものが、走る。


次。

txt。


開く。


---


[インデックス領域]

RecordID:20260427_0002

Table:CASUALTY_LOG


被害者ID:20260427_0002

氏名:佐藤 雅

性別:男性

職業:会社員

年齢:34

家族:妻・息子

発生地点:山形市立谷川交差点交戦

分類コード:邪神眷属

バイタルステータス:重度熱傷・観測終了


---


観測……終了?


DB用語だ。


レコードクローズ。

セッション終了。

トランザクション確定。


つまり――


生体情報の更新が、

もう、二度と、走らない。


え?


え?


フォルダを、閉じて、

別のを、開く。


20260427_0003

20260427_0004

20260427_0010


写真。

テキスト。

JSON。


いくつも。

いくつも。

いくつも。

いくつも。


構造が、同じ。


全件、

同じスキーマ。


被害者ID

属性カラム

位置情報(lat, long)

イベントID

分類コード

バイタルステータス


完全に、

リレーショナルデータベースの設計だ。


人が、

「行」になってる。


遡る。


フォルダ階層を、上へ。

上へ。

上へ。


20260421_0001

今年の、最古。


開く。


---


[インデックス領域]

RecordID:20260421_0001

Table:CASUALTY_LOG


被害者ID:20260421_0001

氏名:木村 薫

性別:女性

職業:会社員

年齢:45

家族:娘

発生地点:山形市文翔館前交差点交戦

分類コード:被災者

バイタルステータス:落下物(信号機)による擦過傷・治療完了


---


……治療完了。


生きてる。


でも。


次。


---


[インデックス領域]

RecordID:20260427_0021

Table:CASUALTY_LOG


被害者ID:20260427_0021

氏名:庄司 護

性別:男性

職業:農業

年齢:64

家族:妻

発生地点:飯豊町白川湖交戦

分類コード:被災者

バイタルステータス:結界展開前建築物倒壊・観測終了


---


観測終了。


また。


バイタル。

生命兆候。


あ。


あ。


あ。


これは、

報告書じゃない。


これは、

台帳だ。


人間を、

ログとして扱う、

災害データベース。


きっと、

奥には、もっとある。


テーブルが、頭の中で、勝手に展開されていく。


JOINされてる。

戦闘ログと。

結界展開記録と。

観測班の映像解析と。


そして、

このフォルダは、

“キャッシュの残骸”。


本来は、

外に出ちゃいけない、

一時領域。


この端末が、

先読みして、

吐き出して、

消し忘れた。


だから、

私のところに、来た。


>それでも、ちゃんと、

>お父さんの代わりにお母さんを守る小さな騎士がいる。

>私、守れてる。

>うん。


守れてなかった。


全然、守れてなかった。


このフォルダの数だけ、

誰かが、

帰らなかった。

誰かが、

傷ついた。


気がついたら、

画面の右下の時計が、

夜になっている。


手が、冷たい。


ふと、

データ内検索ツールが、目に入る。


フルテキストサーチ。

インデックス済み。

0.02秒で返るやつ。


指が、震えながら、

文字を打つ。


母の名前、片桐 綾。


Enter。


検索結果:該当なし


一瞬、

息が、戻る。


次に、

片桐 陽葵。


Enter。


検索結果:該当なし


よかった。

よかった。

よかった。

よかったはずなのに。


息が、

浅くなる。


肺が、

ちゃんと空気を吸えているのか、わからない。


画面の向こうで、

フォルダの一覧が、静かに並んでいる。


20260427_0001

20260427_0002

20260427_0003

20260427_0004


まるで、

墓標みたいだ。


開きたくないのに、

目が、勝手に、数字を追う。


一つ、開く。

また、開く。

また、開く。


笑顔。

家族。

女性。

男性。

自撮り。

旅行。


そのすぐ下に、


バイタルステータス:観測終了


あ。


この人、

この写真のあと、

どこにも、行けなかったんだ。


喉が、

ひくっと、鳴る。


「あ……」


声が、出ない。


画面が、

滲む。


涙なのか、

目が乾いているだけなのか、

もう、わからない。


フォルダを、閉じる。

でも、

閉じたはずなのに、

中身が、頭から、消えない。


人が、

“データ”になってる。


私が、

操縦した。

私が、

殴った。

私が、

結界を張るのが、遅れた。

私が、

私が、

私が、

私が



だから、

この人が、

ここに、入った。


膝が、

がくん、と、落ちる。


椅子に、座っていたはずなのに、

床に、手をついている。


冷たい。

フローリングが、冷たい。


それだけは、

はっきり、わかる。

眼鏡に雫が付く。


カチッ

部屋に静かに響く、電気ケトルの音。


「……ちがう」


誰に、言っているのか、わからない。


「……わたし、ちゃんと守ってた……」


声が、

自分の耳にすら、届かない。


あの男の子。

山形駅。

リュック。

ニカっと笑った顔。


“かーちゃん、まもるの”


あの子のお父さん、

まもられなかった。


私が、

間に合わなかった。


画面に、

もう一度、検索窓を出す。


手が、

震えて、

キーを、何度も、打ち間違える。


やり直す。

やり直す。

やり直す。


佐藤。

Enter。


ヒット:1件


さっき、見た名前。


喉の奥で、

何かが、

音を立てて、割れる。


「やだ……」


端末を、

突き飛ばす。


でも、

ケーブルが、引っかかって、

画面は、消えない。


消えない。


消えてくれない。


「やだ、やだ、やだ……!」


耳を、塞ぐ。


目を、閉じる。

眼鏡がズレる感覚。


それでも、

文字が、

裏側に、焼きついている。


被害者ID

分類コード

観測終了


“観測”


誰が、

観てたの。


誰が、

私を、観てたの。


私が、

誰かを、

“観測してた”んじゃないの?


息が、

荒くなる。


過呼吸みたいに、

吸って、

吐いて、

吸って、

吐いて。


胸が、

痛い。


心臓が、

うるさい。


「……わたし……」


言葉が、続かない。


守るって、

なんだったんだろう。


ロボットに、乗ること?

結界を、張ること?

敵を、倒すこと?


違う。


あの男の子が、

ちゃんと、

ばーちゃんちに、着くこと。


それだけで、

よかったんだ。


世界が、

静かに、

人を、

“登録”していく。


一葉は、

床に、うずくまる。


端末の光が、

天井に、白く、反射している。


その光が、

まるで、

手術室みたいで。


「……やだ……」


小さく、

何度も、

繰り返す。


誰に届くわけでもない、

エラーログみたいな声で。


「やだ……やだ……やだ……」


データベースは、

今日も、

黙って、

次の名前を、待っている。


そして、一葉は、

初めて、はっきりと、思ってしまう。


――この仕事は、

――世界を守る仕事なんかじゃない。


――世界が、壊れていく“順番”を、

――きれいに、並べているだけなんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ