064 2026年5月01日(金)_01 ちいさなナイト
山形駅東西自由通路。
ガラス越しに、春の陽光が、床のタイルに優しく伸びている。
一葉は、4月21日の騒動で返しそびれていたミステリィを、
山形駅自由通路に設置されている無人本棚にそっと差し込む。
>借りた本は2週間を目安にお返しください。
表示を見て、胸の中で小さくガッツポーズ。
うっす!ギリ、セーフ。
意外と面白かった記憶はある。
けれど、その内容よりも、あの頃の緊張感や騒がしさの方が、今はずっと鮮明だ。
ふと、視線を落とす。
本棚を囲む木製ベンチに、
おめかしをした幼稚園くらいの男の子が、ちょこんと座っている。
リュックが、やたら大きい。
体の半分くらいありそうだ。
目が合うと、
ニカっと、遠慮のない笑顔。
一葉も、つられてニカっと返す。
「いまから、ばーちゃんちにゆくの」
「そうなんだね」
「パパ、しごとでかえってこれないの。
だから、ママ、しっかりまもるの」
小さな胸を、少しだけ張る。
「えらいねー」
そう言うと、男の子は、照れたように視線をそらす。
山形の、こういう距離感。
ちょっと昭和っぽくて、でも、ちゃんとあたたかい。
嫌いじゃない。
「すみません!」
少し疲れた声。
トランクケースを引きずる女性が、小走りでやってくる。
片手にはスマホ。
もう片方で、子どものリュックをひょいと掴む。
「お待たせ。ごめんね」
一葉は、自然と口が動く。
「こちらこそ!
ねぇ、旅行、たのしんできてね!」
男の子は、元気よく、少しだけ噛みながら言う。
「あい!」
母親が、ぺこりと頭を下げる。
一葉も、ぺこりと返す。
二人は、改札の向こうへ消えていく。
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残されたベンチと、無人本棚と、
行き交う人の足音。
一葉は、しばらく、その場に立ったまま、ぼんやりと天井を見上げる。
こういう、
名前も知らない誰かと、ほんの数十秒だけ交わる時間。
それが、妙に、あったかい。
世界は、
怪異だの、結界だの、邪神だの、ロボットだの、
やたらと物騒だけど。
それでも、ちゃんと、
お父さんの代わりにお母さんを守る小さな騎士がいる。
私、守れてる。
うん。
一葉は、軽く伸びをする。
「……よし」
スマホをポケットにしまって、
人の流れに、ゆっくりと合流した。
今日もいい日だ。スタバでコーヒー買って帰ろう。
……やっぱフラぺにする。




