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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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056 2026年4月27日(月)_08 ハイ★テンション

時間は巻き戻る。


「ぢゅわ!」


っと、白川ダムから、結界の生きてて世界がまだ“こちらを認識しきれない”うちに撤退してきました。

私、片桐一葉です。

ちょっと戦闘でハイになってます。ハイ。


マイ職場、

「(前略)資料管理室(以下略)」は――


……大騒ぎであった。


いや、修羅場?

いや、これ、修羅場だよね?


ボロボロの山形ロボが、地下ドックにガゴンと収まった瞬間、

空気が、一斉に私に向いた。


鎌田さん。

お父さん。

整備班のみなさん。


ごめんて。

いや、ほんと、ごめんて。

山形ロボ壊して、ごめんて。


だってさ、

“なんたら装甲で壊れない”って聞いてたからさ!


鎌田さんが、笑ってる。

……いや、笑顔なんだけど、引きつってる。


「オメェさ、最初の一撃で破損したとき、

武田の“空気読まねぇ説明”、ちゃんと聞いたよな?」


指を突きつけてくる。


「どてっ腹に食らって、相手をボコボコにする作戦。

あれ、分かっててやったよな?」


一歩、詰めてくる。


「……お前なぁ!」


レンチを床に叩きつける。


「山形ロボの装甲、直すのがどんだけ大変か分かってんのかよ!」


声が荒い。

でも、震えてる。


「言いたかねぇけどな……ワンオフの決戦兵器なんて、ロマンで動かすもんじゃねぇんだよ!」


歩み寄る。

装甲を指で叩く。


「見ろ、ここ!」


腹部の装甲を貫通してる穴の縁を叩く。


「スレスレなんだよ! あと数センチで貫通だ! わかるか!? 数センチだぞ!」


息が荒い。


「もう少しで……お前、死んでたんだぞ……!」


最後の言葉だけ、小さくなる。


「……俺たちが直せるのは機体だけなんだよ」


視線を逸らす。


「中身まで直せねぇんだよ……」


……な、何のことでございましょう……!


「あと、一応、重機ですからね!?

兵器じゃないですからね!? あれ?ゴメンナサイ!」


その横で。


お父さんが、完全に“父親モード”に入っていた。


「一葉!

怪我はないか!?

どこだ、どこが痛い!?」


両肩を掴まれる。


いや、ちょっと、近い。

ていうか、早くこの対Gスーツ脱ぎたいんだけど。


二十代中盤で、

このピタピタ衣装を着続ける勇気は、

もう、ないのだよ。


鎌田さんのキレ気味テンションと、

父親としてのパニックが、正面衝突している、その横で――


突然。


誰かが、泣き出した。


「……生きてて、よかった……」


それを合図に、

整備班の誰かが、

なぜか、連鎖的に、泣き始める。

鎌田さんも泣きながらよくわからない言葉で叫んでる。


え。

え、ちょっと待って。


私、そんなに死にかけてた?


どうしたものかと、

階段を登り指令室に到着する。


観測班の三人が、

こっちを見た瞬間、


「――いきてだぁぁぁ!!」


って、泣き叫んでる。


その奥。


医務室。


……なんぞ?


児島さん。

全身、絆創膏と包帯。

うん、襲われたって聞いた。

切り傷と打撲と火傷?

無事でよかった。ほんとに。


青山さん。

同じく、絆創膏と包帯。

わかる。

無事なの、うれしい。


三浦さん。

首に、がっつりコルセット。

……まぁ、わかる。

あの運転、してたもんね。


山倉さん。

絆創膏と包帯まみれ。


……え?

なにそれ。

コスプレ?


クマより強いんだよ?このおじいちゃん。

ていうか、

もう人間やめてない?


「どしたんですか、それ」


返事は、良い笑顔だけだった。

怖い。


さらに奥。


若林さん。


首に、氷嚢。

何か、ぐるぐる巻かれてる。


……どした?


「お菓子、食べすぎました?」


若林さんは、

ものすごく疲れたやり遂げた顔で親指を立てた。


え?

それ、いやどうした?


そこに、追撃の情報が入る。


「有給中の石原さんと、

浮雲さんも、

襲われたらしいです」


……は?


「警察に取り調べ受けた後、帰還予定だとか」


なにしたの、その二人。


頭の中で、

状況を並べる。


白川ダム。

立谷川。

東京。


……え。


これ。


全滅コースじゃない?


稼働できる人、

残ってる?

石原さんと浮雲さんがギリ?


観測班、泣いてる。

整備班、キレて泣いてる。

司令班、包帯だらけ。あと氷嚢。

警備班はあんまり見たこと無い。


私、ロボ、ボロボロ。

いや、ああしないと勝てなかったし!


まじかぁ。


私は、山形ロボ顔の見える指令室の自分のデスクに座り、

ヘルメットを外した。


「……ねぇ」


誰にともなく、言う。


「どうするのよ、今後」


指令室正面、

山形ロボの目。

返事をしない。


ただ、

装甲の修復音がロボの至る所の隙間で、

小さく、ぱち……ぱち……と音を立てていた。

ちょっとだけ可愛いと思った。

とりあえず情報を整理。



私は、安いオフィスチェアにもたれかかりながら、天井を見上げた。


児島さんたち責任者チームは、

地下ドック襲撃の説明で、

山形内陸部・行脚ツアーに出発中。


県庁。

警察本部。

消防。

自衛隊の窓口。東根か。一番遠いなぁ。



その合間に――


奈良が“連れてきた”

点滴オジサンと、

なぜかカーチェイス。


意味不明。


いや、ほんとに意味不明。

え?待ち伏せだった?どっちでもいいよ、もう。


一方その頃。


石原さんと浮雲さん。

奈良の捜査のため、上京

……した、その瞬間。


奈良が“連れてきた”

外国籍未成年の女性と、

まさかの追いかけっことかくれんぼ。


新宿。

未成年の女性、

追いかけっこ。

あれ?

これ、

事案じゃない?


ていうか、

逆に石原さんたち、

逮捕されない?


私は、頭を抱えた。


さらに、文翔館。


若林さん。


さっきの“市民団体”を唆した張本人――

奈良が“連れてきた”

点滴オジサンの“息子”の医者と、


論破バトル。


もう、

なにそれ。

平和か。


いや、平和じゃないけど。


親子で邪神って、

戸籍どうなってるの?

住民票、どこに出してるの?


その間に、私は――


白川ダム。


筋肉巨人と、殴り合い。


装甲、削られる。

骨、きしむ。

ボコボコにされた。


……勝ったけど。


勝ったけどさ。


私は、デスクに顔をうずめ、深く息を吐いた。


頭の中で、

今日の出来事を、並べる。


・説明行脚中にカーチェイス

・女の子とかくれんぼ

・受付で邪神息子とディベート

・ダムで怪獣と肉弾戦


……なに、この職場。


結論。


私は、ヘルメットを軽く叩いた。


「奈良が悪い。」


一拍。


「百パー、あいつが悪い。」


まじか。


奈良め。


イケメン以外はドブカスじゃん!


――


「あ!」


っと、児島さんたちが、

よぼよぼとデスクに向かっていく。


背中が丸い。

歩幅が小さい。

完全に、燃え尽きた人間のそれだ。


……そういえば。


「午後から、渡部さんに説明するため、

ビデオ会議入ってるから」


って、言ってた気がする。


よぼよぼのおじいちゃんと、

よぼよぼのおばちゃん。


――とか思った、その瞬間。


視線。


児島さんが、こっちを見ている。


「……おばちゃんとか、思ってないでしょうね?」


ひっ。


「室長!そんなこと、一切、微塵も、全然、思ってません!!」


全力で、否定した。


若林んさんが笑いかけて咽た。


武田さんが腹筋押さえて苦しんでる。


児島さんは、ふうっと息を吐いて、

それ以上は、何も言わなかった。


…… うまく普通を演じられた。


私は、そそくさと更衣室に逃げ込む。


対Gスーツを脱いで、

シャワー。


お湯が、

しみる。


鏡を見ると、

腕、肩、脇腹、太もも。

笑顔が張り付いた顔。


……意外と、全身、痣だらけ。


そりゃそうか。

あれ、殴り合いだったし。

ロボのおなかに穴空いたし。

安心。

安堵。

安全。

――足と手の震えが今頃来た。

――泣きたかった。

――多分泣いてた。

――怖かった。

――死ぬかと思った。

――嫌だった。

だめ、

折れそう。

本音がこぼれそう。

――治まれ。

治まれ。

おさまれ。

――笑顔だ。

ワタシハダイジョウブ。

あれ?声が出ない。

大丈夫、まだ大丈夫。

みんな傷ついてる、心配してる。

なら、笑顔だ。


タオルで頭を拭きながら、

司令部兼事務所に戻る。


――空気が、違う。


さっきまでの空気じゃない。

張り詰めた、会議の空気。


モニターの前に、

児島さんが座っている。


顔に、やたら強い照明。


……白い。

光ってる。

反射してる。


鎌田さんが、小声で教えてくる。


「大沼さんに聞いたんだけどよ、

あのライト、シワが見えなくなるらしい」


なるほど。

プロの戦場は、そこなんだ。


画面の向こう。


渡部さん。


スーツ。

無表情。

でも、目が、忙しい。


会話の内容は、だいたい――


山形だけじゃない。

他の地域でも、怪人が出た。


その対応で、

“ザ・ナイン”の皆さんが、走り回っている。


児島さんが、

淡々と、

でも一言も外さず、報告していく。


私は、壁際で、

なるべく“存在感ゼロ”で立っていた。


……はずだった。


渡部さんの視線が、

こっちを向く。


「片桐さん」


え。

私?


「前線の当事者として、聞いてほしい」


やばい。

面倒案件の匂いがする。


渡部さんは、画面越しに言った。


「県知事からも、正式な要請が入る予定ですが――

私からも、お願いしたい」


一拍。


「日本海溝に沈んだロボットの、引き上げ作業を依頼します」


……は?


ロボット?


ほかに、あるの?


頭の中で、

一瞬、計算が止まる。


「……え?」


渡部さんは、続ける。


「山形の一機だけではありません」


指を、軽く立てる。


「山形ロボ含めて六体です」


私は、思わず声が出た。


「……え、六体も?」


モニターの向こうで、

渡部さんが、ほんの少しだけ、疲れた顔をした。


「通称、“東北六機”」


その言葉が、

司令室に、重く落ちる。


私は、山形ロボの方を見る。


うちの子、

今、ドックで、

ぱち……ぱち……って、修復音、立ててるんですけど。


……仲間、

そんなに、いるの?


私は、今野先生に貼ってもらった湿布を弄りながら呟いた。


「……ねぇ、これさ」


誰にともなく。


「スケール、最初からおかしくなってない?」


モニターの向こうで、

渡部さんが、小さく、頷いた。


「ええ。

最初からです」





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