051 2026年4月27日(月)_04 山形ロボ出動
すみません、
投稿するストックの順番、ごちゃごちゃになりました・・・
文翔館前。
正門前のレトロなゲートがが警報音を響かせながら閉鎖される。
低いブザー。
続いて、重い金属音。
門から正面入口へ続く石畳に、一本の亀裂が走る。
亀裂は線になり、線は面になる。
地下から、“箱”がせり上がってくる。
山形ロボ。
通りがかった若者たちが、反射的にスマートフォンを構える。
画面の中で、巨大な影が伸びる。
コクピット内。
ヘルメット越しに、一葉が小さくつぶやいた。
「……撮るの、やめろし」
言えない。
撮影の危険性は、説明できない。
それが、地球全体に張られている結界の存続に関わるから。
でも、ロボは動かなければならない。
守るために、露出する。
そのジレンマの中で、運用室の声が入る。
武田。
「山形ロボ、発進準備完了」
一拍置いて、続ける。
「文翔館敷地内に限り、観測干渉を実施。
映像データはデジタルデータならブロックノイズ化されます。記録上は“重機の試験稼働”として処理してあります。」
一葉が、操作盤に指を走らせる。
並列接続された三基の炉。
出力、同期確認。
「霊子炉《如来》、安定。
光子炉《観音》、安定。
次元炉《菩薩》、リンク確認」
スロットルを押し上げる。
出力、二〇パーセント。
二五。
三〇。
ロック。
警告灯が一斉に赤から橙へ変わる。
“箱”――山形ロボが、両腕を天空へ持ち上げ、
空気を掴みこじ開ける。
空気が、裂ける。
圧縮された気流が、目に見えない“隙間”をつくる。
真空の縁が、ロボの周囲に輪を描く。
声を、少しだけ低くした若林。
「児島さん……室長たちの件は、こちらで対処します。
片桐さん。あなたは、あなたの仕事に集中して」
一葉。
「……了解しました」
重力制御、起動。
ロボの足元から、地面が“引き離される”感覚。
機体が、真空の隙間へ身体をねじ込む。
次の瞬間。
急上昇。
脚部収納。
反応ノズル展開。
噴射。
衝撃が、コクピット全体を叩く。
計器が跳ねる。
速度表示――時速一〇〇〇。
白い雲が、下へ流れていく。
到達予測――二分強。
――――――――――――――
白川ダム湖が、視界に入る。
観測班から、通信が重なる。
今田。
「結界半径、二〇〇メートル。
その範囲で、戦闘フィールドを展開してください」
槌谷。
「敵性存在、監視カメラおよび通報記録から、全長約二五メートル。人型です」
武田。
「現地の避難、80いえ95%完了しています」
一葉。
「りょーかい!」
静かに、着地。
水没林。
四月。
湖面に沈んだ木々の影が、揺れている。
――エモい。
あとで、絶対来よう。
山形の風景、想定以上。ほんと、やばい。
でも、今は。
目標、前方。
一つ目のゴリラみたいなシルエット。
二五メートル級。
なんか灰色。ほぼ、怪獣。
距離を詰める。
結界、展開。
空気が“変わる”。
フィールド内の法則が、書き換えられる。
ここは、
怪異と人型機械が、全力で殴り合うための、
一〇分間だけ許されたリング。
敗北は、想定されていない。
世界のねじれ。
物理法則の帳尻。
その“請求書”は、全部、私に来る。
コクピットの空調が、全力稼働。
風が吹きつける。
……熱い。
私が負けたら。
山形だけじゃない。
世界中が、“怪異を思い出す”。
それは、地球規模の結界の崩壊を意味する。
一葉は、操縦桿を握り直す。
「……山形ロボ。
作業、開始」
――――――――――――――
山形ロボ発進と同時に、若林は“根回し”に入る。
端末を二つ開き、様式ベースの定型文を呼び出す。
件名、所属、案件番号。
チェックボックスを一気に埋め、現場自治体へ一斉送信。
【件名】重機試験稼働に伴う一時的通行制限のお願い
【範囲】飯豊町白川ダム周辺/国道13号線立谷川交差点付近
【時間】正午前後より安全確認完了まで
“送信”。
対応メモに、赤でチェックを入れる。
同時に、戦闘可能なスタッフへ援護要請。
装備は――全状況想定。
銃器、呪符、医療、遮蔽、記録妨害。
文翔館の駐車場。
内装を改造されたハイエースが、低い唸りを上げて急発進する。
外から見れば、ただの業務車両。
中身は、移動式対応ユニット。
若林は、モニターに視線を戻す。
白川ダム湖。
立谷川交差点。
東京、新宿御苑。
三つの点が、同時に動いている。
線で結ぶと、嫌な形になる。
対応メモの一番下に、小さく書き足す。
「本日、全域連動事案」
その瞬間。
臨時で整備から観測補佐に入ったスタッフから、ほとんど悲鳴に近い声。
「若林さん……!」
若林は、即座に入力画面を閉じ、監視カメラへ切り替える。
映像――文翔館付近。
JAビル駐車場前のバス停。
先ほどまで、そこにいた“自称市民団体”。
認識阻害と音声誘導。
言霊による記憶の歪曲。
山形市の箱型オブジェに関する認知を、丁寧に“忘却”してもらったはずの集団。
だが。
一人、また一人。
瞬きの間に、画面から消えていく。
バス停の前に、佇む影。
医師のような白衣。
汚れた聴診器。
動かない。
そして――
カメラ目線。
ニタリ。
モニターが、小さく揺れた。
ガタン。
若林の背筋に、冷たいものが走る。
「……多分、人外。怪異」
対応できる人材を、ドック内で思い浮かべる。
武田。今田。槌谷。
全員、観測班。
戦闘可能要員は、先ほどの出動で出払っている。
――いない。
しまった。
若林は、ふくよかな体つきからは想像できない速さで、
端末を閉じ、立ち上がる。
地上へ向かうエレベーターへ、歩き出しながら言う。
「……ごめんなさい。来客対応、してくるわ」
振り返って、武田を見る。
「指令部、よろしく」
エレベーターの扉が閉まる。
地下の静けさの中、モニターにはまだ、
白衣の“何か”が、こちらを見続けていた。




