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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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050 2026年4月27日(月)_03 対決:新宿御苑&国道13号線立谷川交差点

東京、新宿御苑。新宿門付近。


石原は片手でスマートフォンを器用に操作し、渡部へショートメールを打ち込む。

指先だけが、異様に落ち着いている。


「連中と狂信者に囲まれた。山形も二か所で同時襲撃。状況は不利」


送信――その瞬間。


「きゃあああっ!」


一般客の悲鳴が、芝生の上を裂いた。


石原は顔を上げる前に動いていた。

視線は“人の流れ”を読む。逃げ場、死角、倒れたベビーカー。

狂信者の手首、刃の角度、次に振り下ろされる方向。


「仕方ない……」


浮雲がナイフを引き抜く。

石原は警棒を伸ばす。


凶刃が、一般客の背中に届く寸前――


浮雲のナイフが、手首の腱を正確に断つ。

同時に、石原の警棒が顎を打ち抜き、衝撃が脳幹へ走る。

倒れる音は、ほとんどしない。膝が抜けるように、沈む。


石原は叫ぶ。


「警察を呼べ! テロだ!

位置は新宿御苑、新宿門付近!」


声は、公園全体に届く“職業の声”だった。

通報の言葉が、周囲の人間を動かすための合図になる。


警棒に、意識を込める。

ヒヒイロカネが微かに共鳴し、金属の表面に淡い光が走る。

ただの打撃では、もう足りない。


「石原さん、前より密度、上がってませんか?」


浮雲が言いながら、空間から護身用の刀を引き出す。

刃が現れる瞬間、空気が一度“沈む”。


「知らん」


短く返す。


浮雲が三人。

石原が一人。


刃と警棒が、最短距離で走る。

関節を折り、平衡感覚を奪い、呼吸を止める。

致命は与えない。沈黙させるだけだ。


芝生の上に、動かない“影”が五つ並ぶ。


石原が、残った気配を探る。


「……さて。あのお嬢ちゃんだけ、か」


その声が聞こえたかのように。


「おなかが、空いたわ」


空気が変わる。


視線の“重さ”が、皮膚の上に乗る。

石原と浮雲は、同時にバックステップ。

視界の端にいた、うずくまった狂信者が、突然、悲鳴を上げた。


身体が内側から“引き裂かれる”。


口から泡。

喉が焼けるような音。

芝生にこぼれた体液が、じゅ、と音を立てて溶ける。


残りの狂信者たちは、激痛にのたうち回りながら、転がるように逃げていく。


ラテンアメリカ系の若い娘が、立っていた。


影が、足元でおかしい。

人の形をしているのに、地面に落ちる影だけが、異様に“広い”。


娘の口が、開く。


ありえない。

顎が外れる、という次元じゃない。

顔そのものが、縦に裂ける。

奥に見えるのは喉ではなく、暗い洞穴のような“空間”。


ばり。

ぼり。

ばおり。


溶けて息絶えた狂信者を、骨ごと噛み砕く。

咀嚼音が、静かな公園にやけに大きく響く。


残ったのは、腕と、足。


娘はそれをぶら下げたまま、くるりと振り返った。

瞳は無邪気で、声だけが人間のままだ。


「かわいそうな子、死んでしまったから。食べてあげたの。

あなたたちも、いかが?」


石原の中で、殺気が跳ね上がる。

一歩、踏み出しかけた瞬間――


浮雲が、袖を引いた。


小さな声。


「……彼女、おそらくツァトゥグァだ。今は、まずい」


石原は、息を整える。

警察官だった頃と同じだ。

“確保できる状況”でも、“してはいけない状況”がある。

都内、周囲に市民が三十名強。逃げ場は二方向。怪異の本体はネームドクラスの邪神。

――割に合わない。


ゆっくりと、言葉を選ぶ。


「すまない。今日は、もう食事を済ませている。

お気遣い、感謝する」


娘は、首をかしげる。


「そう。ナイアルラトホテップから言われたから来たけど、飽きたの。もう満腹」


その名前が、空気を冷やす。


「帰るね。またね、人の子と、神もどき」


そう言って、娘は“消えた”。


風が吹く。

芝生の上には、溶けた跡と、折れた枝と、動かない影だけが残る。


石原は通報を入れる。

怪異案件のみ通じる符丁も添えて。


「新宿門付近、一般人の避難誘導を最優先。

不審者複数、無力化済み。怪異存在は離脱した」


浮雲が、刀をしまいながら、息を吐く。


「……警察時代、こんなのありました?」


「あるか」


石原は、芝生に落ちた観光マップを拾い、ベンチに置いた。


「山形、急がないとな。」


――



山形、立谷川交差点。正午。


コンビニの駐車場で三人を降ろし、三浦は車両を前に出す。

残る三人は銃と符で武装し、半円に展開する。


風に混じって、焦げた臭い。

視界の先に、点滴男。


彼は流暢な日本語で話しかけてきた。

声は落ち着いていて、どこか“試す”響きがある。


「君たちが、ナイアルラトホテップの言う“箱”の指揮官たちかい?」


背中から伸びた触手に刺され、嫌な臭いを上げて燃える人影。

六人。

苦悶のまま立ち尽くし、即席のバリケードのように道を塞いでいる。


「……人違いじゃないかしら?」


児島は、声の高さを変えずに言う。

あくまで、事務的に。

おそらく邪神でもネームド、つまり信者がいて名が知られているクラス。

厄介だ。


「嫌いじゃないね、その態度」


点滴男――グラーキは、イルリガードル台を“預言者の杖”のように構え、嗤った。

笑顔は柔らかい。だが目は、冷たい水面の底のようだ。


「違っていたら、違っていたで――僕と、少し遊ばないかい?」


ばり、と音がした。


背中から、無数の“刺”が生える。

触手ではない。

湖底の棘のように、伸び、分かれ、意思を持って狙いを定める“記録する刃”。


燃えている人影は、もう助からない。

眼球がとろけ、

肉がかなり焼けてしまっている。

棘、おそらくその毒で直接死骸を操作している……?


三浦が低く言う。


「……任せろ」


アクセルが踏み抜かれる。


同時に、前線の三人が動く。


青山は、教科書通りの近接。

「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」

間合いを測り、踏み込み、肘、掌底、回し蹴り。

スタンダードな空手の流れで、炎上する亡者の関節を正確に外し、倒す。


山倉は、混合。

柔術の絡みから投げ、合気の崩しで次を止める。

符が宙を舞い、影に“重さ”を与える。


児島は、パンツスーツのまま、パンプスで地面を蹴る。

「オンイダテイタモコテイタソワカ」

ムエタイの膝とロー。

華麗なフットワークで、刺の間を縫うように進む。


――あの棘は、危険だ。

直撃は回避し続けるが、

容赦なく3人を、燃え盛る亡者の熱と打撃と刺の連撃が襲う


遠くから近づく唸る排気音。

三浦が、グラーキを煽るように車を振りクラクションを鳴らす。


無数の棘が、ヤリスに集中する。


数本、あえて後部ドアに刺させる。


「今だ」


直後、パワーウィンドウが下がる。


ガガガッ!


ガラスやフレーム機構に、刺が挟まる。

抜けない。


三浦が、にやりと笑う。


アクセル全開。

天童方面へ一度振り、Uターン。

三人の待つ地点へ、一気に引き戻す。


速度――時速一六〇。


路面を削る音。

刺で繋がれたグラーキの身体が、引きずられる。


急ブレーキ。


エアバッグが弾ける。


衝撃で宙を舞い、地面に叩きつけられるグラーキ。

言わば車両を使った強引な一本背負い。


その瞬間。


符が、円を描く。

影から“鬼の手”が伸び、身体を掴みにかかる。


マズルフラッシュ。

鳴りやまない銃声。

全て特注の弾丸。

八発。


煙が、立ちこめる。


だが。


鬼の手を、ゆっくりと振り払う。


グラーキは、無傷で慣性を無視して立ち上がった。

ホスピタルガウンすら、破れていない。


ただ――


顔に、極小の擦過傷。

血にもならない、線のような“記録”。


グラーキの表情が、初めて変わる。


「……お前たち」


声が、少しだけ低くなる。


「この私に、傷をつけたな」


湖底の水が、動くような気配。


「覚えたぞ。

存在も、匂いも、動きも――忘れない」


復讐ではない。

記録だ。


次に会うときのための、刻印。


そう言い残し、グラーキの姿は、水面に溶けるように消えた。


焦げた臭いの残る交差点に、風が通り抜ける。


青山が、焦げたスーツの肩を回しながら言った。

「……いやぁ。六十台も半ばになると、回し蹴りの戻りが一拍遅れるな」


三浦が首を押さえ鼻で笑う。

「お前さん、それ“年”のせいにしてるだけだろ。俺なんか、クラッチ踏んだ瞬間に膝が抗議してきたぞ」


擦り傷まみれで山倉が、符をしまいながら首を鳴らす。

「二人とも、まだ元気なほうだ。俺はさっき、影を掴むときに腰が“きしっ”て言った」


全身焼け焦げた児島が、パンプスのかかとで地面を軽く叩く。

「はいはい、先輩方。

年には勝てませんね」


三浦が、にやりと笑って返す。

「お前さんもだろ。五十三。もう立派なおばちゃんだ」


児島は一瞬、睨んでから、ため息混じりに肩をすくめる。

「……セクハラてすからね。

じゃあ、次の現場はシニア割引、申請しときます」


青山が吹き出す。

山倉も、小さく笑う。


そのとき――


遠くから、近づいてくる音。


ウー……ウー……


パトカーのサイレン。


三浦が、道路の先を見て言った。

「ほら。現実のお迎えだ」


児島は、背筋を伸ばす。

「じゃあ、仕事に戻りましょうか。

――“普通の人”の顔で」


赤色灯の光が、交差点の壁に反射する。


サイレンの音だけが、いつまでも残っていた。


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