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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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042 2026年4月24日(金)~25日(土) 会議は続くよどこまでも

霞が関。

夜でもない、昼でもない。

会議という名の“影”が、一番濃くなる時間帯。


渡部は、無機質な会議室の中央に立っていた。

壁一面に並ぶスクリーン。

円形に配置されたウィンドウが、静かに起動していく。


専用端末。

専用回線。

専用の部屋。


表示名は、今日も同じだった。


《会議室》


ただし、いつもと違う。

ウィンドウの数が多い。

若い顔、老いた顔、見慣れた肩書き、見慣れない紋章。

そして、渡部の党の“上”の席に座る人間たちも、無言で並んでいる。


誰も雑談しない。

ここでは、それが“余計な情報”になる。


進行役のウィンドウが点灯する。


だが、いつもの人物ではない。


代役だ。


喉を痛め、両腕を負傷した本来の進行役に代わって、

スクリーンの中に現れたのは、

姿勢のいい、無駄のない動きをする女性だった。


黒いスーツ。

まとめたブロンドの髪。

視線は、刃物みたいに鋭い。


誰も口には出さない。

だが、何人かは思っている。


——銀幕で、見たことがある。


進行役が、短く言う。


「会議を再開します。

本日の議題は、日本代表・渡部信也議員による申請案件です」


渡部は、一歩前に出る。


「帰還兵——通称“ザ・ナイン”の、海外渡航および、

各国における邪神案件への現地組織支援の許可を申請します」


ざわめき。

ほんの一瞬。

すぐに、沈黙に戻る。


渡部は続ける。


「彼らは、戦力ではありません。

少なくとも、我々はそう“扱う”」


若い代表の一人が、割り込む。


「だが、事実上の超常戦力だ。

それを、各国に持ち歩かせるのか?」


渡部は、頷く。


「だからこそ、許可が必要です。

野放しではなく、“同行”させる」


別のウィンドウ。

党の上役が、低い声で言う。


「日本が、責任を持つと?」


「ええ」


渡部は、はっきり言った。


「現地組織へのサポートは、要請制。

指揮権は、各国側に残します。

彼らは、顧問。観測者。必要なときだけ、刃になる」


進行役の女性が、視線を動かす。


「制御策は?」


渡部は、少しだけ間を置いた。


「日本式の管理フレームを共有します。

行動ログ、位相履歴、精神負荷のリアルタイム監視。

拒否した場合、渡航許可は出しません」


若い代表が、鼻で笑う。


「随分と、首輪がきついな」


渡部は、視線を逸らさない。


「神の首輪としては、

これでも、ゆるい方です」


空気が、わずかに冷える。


進行役が、淡々とまとめる。


「要点を確認します。

ザ・ナインの海外渡航を、日本の監督下で許可。

邪神案件への関与は、現地組織の要請がある場合のみ。

指揮権は、各国側。

日本は、観測と制御の責任を負う」


一拍。


「異議は?」


沈黙。


どこかのウィンドウで、ため息が一つ、消える。


党の上役が、ゆっくりと頷いた。


「……日本は、ずいぶん面倒な役を引き受けたな」


渡部は、苦笑する。


「昔からです。

箱ものと、厄介ごとだけは、捨てられない国でして」


進行役が、わずかに口角を上げた。


「投票に移ります」


ウィンドウの縁が、一つずつ光る。


承認。

保留。

承認。

条件付き承認。


最後に、進行役の枠が点灯する。


「過半数を確認。

申請は、条件付きで可決されました」


渡部は、静かに息を吐く。


その瞬間。


若い参加者の一人が、ぽつりと漏らす。


「……ところで、進行役の方。

どこかで、お会いしたことがある気がするんですが」


進行役の女性は、ほんの一瞬だけ、間を置いた。


そして、事務的に答える。


「お気のせいです。

私は、ただの“代役”ですから」


画面が、次々とブラックアウトしていく。


最後に残ったのは、

渡部と、進行役のウィンドウだけ。


彼女は、静かに言った。


「……彼らは、世界を救います。

でも、あなたは、世界に説明し続ける役目です」


渡部は、苦笑する。


「そっちの方が、

よほど命が削れますよ」


彼女は、何も言わず、回線を切った。


暗くなった画面に、

渡部の顔だけが、映っていた。


---


翌日。


霞が関。

とあるビル。地下三階。正式な会議室ではない、窓のない応接用フロア。


ホワイトボードも何もない。

あるのは、長机と、無音の空調と、ラベルのないお茶のペットボトルだけ。


名目は「安全保障に関する意見交換会」。

実態は、非公式の中枢会議だった。


渡部信也は、中央の席に座っている。

視線が全身に突き刺さる感覚。


与党内の別派閥。

野党の安全保障担当。

元官僚のベテラン議員。

そして、なぜか紛れ込んでいる三世議員が一人。



---


最初に口を開いたのは、野党の中堅だった。


「渡部さん。

ザ・ナインとかいう“存在”に、事実上の外交権限を与えたと聞いていますが」


言葉を選んでいるようで、選んでいない。


「これは、憲法上、どこに位置づけられるんですか。

国家ですか。個人ですか。それとも――兵器ですか」


空気が、少し冷える。


渡部は、卓上のお茶のペットボトルを一瞥して答えた。


「どれでもない。

“当事者”です」


数人が、顔をしかめる。



---


すぐに、与党内の別派閥が噛みついた。


「勝手に“同盟”なんて言葉を使っているが、

我々はそんな決議を通していない」


「予算はどうする。

誰の財布で、誰の責任で、その“同盟”を維持するんだ」


渡部は、頷く。


「通していない。

だから非公式だ」


一瞬、ざわつく。


「ただし」


声を、少しだけ低くした。


「もし公式にする段階に入ったら、

その時は皆さんの名前も、記録に残ることになる」


沈黙。



---


三世議員が、場の空気を読まずに手を挙げた。


「そもそもですね、

ロボットなんて、お台場の奴みたいなのでしょ?

地方の観光資源じゃないですか」


数人が、露骨に天井を見る。


「山形でしたっけ?

だったら、ライトアップしてですね、

SNSとかマスコミに宣伝させて活用すれば――」


そこで、言葉が止まった。


渡部が、初めて、はっきりと彼を見た。


「昨日まで、

“それ”が世界を滅ぼしかけた理由を、

あなたは一行でも読みましたか」


三世議員は、口を開けて、閉じた。



---


元官僚の老人が、静かに割って入る。


「渡部君。

君が今やっているのは、国家の“防衛”ではない」


一拍。


「運命の引き受けだ」


渡部は、否定しなかった。



---


別の野党議員が言う。


「世論はどうする。

週刊誌、海外メディア、SNS。

隠しきれる話じゃない」


渡部は、肩をすくめる。


「隠すつもりはない。

“言い換える”だけです」


ホワイトボードに、マーカーで書く。


未知異常気象及び災害対応資産

国際災害研究協力体

特別観測対象


「ロボでも、神でも、元人類でもない。

“災害救助要員”として扱う」


誰かが、苦笑する。


「政治的だな」


「政治ですから」



---


与党の重鎮が、最後に言った。


「君は、どこまでの権限を持っている?」


渡部は、即答した。


「止める権限以外、全部です」


ざわめき。


「撃つ判断も?」


「交渉も?」


「隠す判断も?」


「公表する判断も?」


渡部は、ひとつずつ頷いた。



---


老人が、ため息のように笑う。


「つまり、それならば君はもう――

大臣でも、議員でもないな」


渡部は、静かに答える。


「なんと仰っていただいても結構です」

「日本、いや人類の未来のためです」


---


会議が終わるころ、

誰も勝った顔をしていなかった。


味方はいた。

だが、全員、どこかで思っている。


——こいつに、預けすぎている。


渡部は、席を立つ前に、最後に言った。


「これは、政争のネタじゃありません」


一瞬、間を置く。


「全人類の未来の話です」


誰も、反論できなかった。



---


都内。

赤坂と霞が関の境目みたいな場所にある、古い喫茶店。


看板は色あせているが、なぜか記者と政治家だけは迷わず辿り着く店だ。


昼過ぎ。

三世議員、田中 恒一は、落ち着かない指先でアイスコーヒーの水滴を弾いていた。


向かいに座っているのは、

業界では「山師」と呼ばれるベテラン記者。


新聞社も、テレビ局も、週刊誌も渡り歩いた男だ。

名前よりも、“書かなかった記事”の方が多いことで知られている。


田中は、声を潜める。


「渡部が、妙なことをやってるんです」


山師は、ストローを咥えたまま、無言。


「“会議室”って呼ばれてる、非公式の国際チャット。

それと……山形にある、ロボの話です」


そこで、ようやく、山師の目が動いた。


「ほう」


田中は、勢いづく。


「元人間の連中と、同盟だの、顧問だの。

裏で動いてる。

国会も通さず、官僚もすっ飛ばして――」


山師は、ゆっくりと、ストローを紙ナプキンに置いた。


その動きが、やけに静かだった。


「坊っちゃん」


声が、低い。


「それ、どこまで知ってる」


田中は、ポケットからメモを出す。

走り書きの名前、日付、地名。

“会議室”のログの断片。


山師は、一つひとつ、目で追う。


笑いが、消えた。



---


数秒の沈黙。


店内では、昼のワイドショーが流れている。

芸能人の不倫と、株価の話題。


その音が、やけに遠い。


山師は、息を吐いた。


「……なるほどな」


田中は、勝ち誇ったように言う。


「でしょ。

これ、特ダネになりますよ」


山師は、メモを指でつまむ。


そして、びり、と破った。


一枚。

もう一枚。


紙屑を、灰皿の横に置く。



---


「坊っちゃん」


今度は、諭すような口調だった。


「あたしゃね、

人に寄生して甘い汁を吸うのが仕事だ」


田中が、眉をひそめる。


「でもな」


少し、身を乗り出す。


「人が滅びちまったら、甘い汁も吸えない」



---


田中は、言葉を失う。


山師は、コーヒーを一口飲んで、立ち上がった。


「そこはな、

“スクープ”の場所じゃない」


「境界線だ」


レジに小銭を置く。


「渡部が何をやってるかは知らねえ。

だが、あれに手を出すってことは――

国の裏側じゃなくて、世界の裏側をめくるってことだ」



---


ドアの前で、振り返る。


「坊っちゃん。

あんたが政治で遊びたいなら、

もっと安全なネタを選びな」


「これはな、

遊び場じゃない」


ベルが鳴って、山師は外に出た。



---


田中は、

テーブルの上に残った紙屑を見つめたまま、動けなかった。


なぜか、

自分が“何かに見られている”気がして。


慌てて店を出た。

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