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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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028 2026年4月22日(水)_07 絶対ないとは言えない、もしくは諦めるな

七日町の裏通り。

ビルの二階にある、小さなバー。


看板は控えめで、

知らなければ通り過ぎる。


階段を上がると、

ラム酒の瓶が壁一面に並んでいる。

甘い香りと、柑橘の皮の匂い。

静かなジャズが、低く流れている。


児島と若林の、最近のお気に入りだった。


カウンター席。

グラスの中で、氷が、かちん、と鳴る。


「……帰ってきた、んだよね」


若林が、ラムコークを揺らしながら言う。


児島は、ライムを落としたカクテルを見つめたまま、うなずく。


「帰ってきたわ。

27年ぶりに」


最初は、笑った。

泣いた。

信じられないね、って言い合った。


でも、アルコールが回ってくると、

感情の底に沈んでいたものが、浮いてくる。


若林が、鼻で笑う。


「……でさ。

あの男の第一声よ」


児島は、もう分かっている。


「“太ったな”でしょ」


「そう。

27年ぶりの再会が、それ」


グラスを、ぐっと煽る。


「こっちはさ、

三人育てて、

家と仕事と病院と学校と、

全部ひっくるめて生きてきたのにさ」


児島は、苦笑する。


「私は、まだマシよ。

腰がね、毎週、接骨院。

保険きくところ探すのに必死」


若林は、自分の腹を叩く。


「私は、引き出しのお菓子で、ここまで育った」


二人で、短く笑う。


1999年。

観測オペレーターだった頃。


モニターの前で、

戦場に数字と座標を叩きつけていた。


射撃訓練も、格闘訓練も、

本気でやっていた。


あの頃の身体は、

今よりずっと、軽かった。


「……あの頃の私たちが、

これ見たら、どう思うかね」


若林が、バーの奥を見ながら言う。


「“生き延びたな”って言うわよ」


児島は、そう返した。


少し、間。


若林が、話題を変える。


「でさ。

あの新人」


「綾の娘?」


「そう。一葉ちゃん

あの子、なんで、ここに配属されたんだと思う?」


児島は、グラスを回す。


「浮雲の“親友の娘”だったらまだ良かったんだけどね。」


「……やっぱり?」


「うん」


児島は、首を振る。


「“盾になれる”って、

判断されたのよ」


若林が、目を細める。


「……あの子、

給料日のこと、覚えてると思う?」


「21日でしょ。

初戦の日」


「そう」


若林は、くすっと笑う。


「明細、絶対見てないわね。

あのバタバタで、

完全に忘れてる顔してた」


児島も、笑う。


「うちの課の手当、

あの子、まだ知らないのよ」


「危険手当、夜間手当、秘匿業務手当、特殊環境手当……」


若林が、指を折る。


「シングルマザーでも、

贅沢できるくらい、出るやつ」


児島は、少しだけ、声を落とす。


「……それだけ、

“危ない場所”だってことだけどね」


二人は、グラスを合わせる。


軽い音。


「それでもさ」


若林が、言う。


「……あの子、

ちゃんと前に出たよ」


児島は、うなずいた。


「浮雲みたいにね」


カウンターの向こうで、

バーテンダーが、静かに新しい氷を入れる。


夜の七日町は、

外から見ると、ひっそりしている。


でも、この小さな二階の店だけは、

まだ、灯りが消えない。


「……明日も、仕事か」


若林が、ため息をつく。


「定時で帰れるといいわね」


児島は、グラスを持ち上げる。


「無理ね」


二人で、また、笑った。


どこかで、

箱が、静かに、眠っている。


そのことを、

この街のほとんどの人は、知らない。


でも、

この二人だけは、知っている。


——平和は、

いつも、誰かの“残業”で、できている。


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