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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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024 2026年4月22日(水)_03 炎上、隠蔽、漏洩

地上に出た片桐一葉は、いつも通り昼休み前にスマホを見る。


通知。


《週刊スッパヌキ:ネット版・速報》

“箱大仏の正体? 文翔館地下に謎の巨大構造物と“消えた女子職員””


「……は?」


思わず声が出る。


記事を開くと、

やたら煽り気味の見出しと、

ぼかした写真。

だが、決定的な何かは決して写っていない。

過去の風景との組み合わせ。


——七日町通り。

——謎の影。

——“光る箱”。

——“若い女性が光に包まれて消失”。


「消えてないし。ここにいるし。今日も仕事してるし……」


コメント欄は、もうお祭りだった。


> 「山形やばすぎw」

「これもうロボだろ」

「政府隠してるやつ」

「友達の友達が見たらしい」




一葉は、そっとスマホを伏せた。


「……昼、重くなるやつだ」



---


昼休み。

山形市役所・地下食堂。


今日も、

一番安い定食。


トレイを持って席に着くと、

隣のテーブルが、すでにその話題だった。


若い職員A

「昨日のやつ、見ました!?

ニュース出張でリアルタイム逃したんですけど!」


若い職員B

「マジで怪物映ってたって!

天気予報の生中継の後ろで!」


A

「スクショ、回ってきましたよ。

でも朝見たら全部消えてて」


B

「OSアップデートでフォルダごと消えたって話、聞きました?」


笑い混じりの声。


そこに、

古株の職員が、トレイを置く。


「……関わるな」


空気が、少し冷える。


「そういうのは、

面白がった側から、巻き込まれる」


若い二人は、口をつぐむ。


一葉は、値段と味が良い意味で釣り合ってない定食を頬張りながら、

何も言えなかった。



---


午後。


週刊誌の続報が、来た。


だが、内容は——

まったく別の方向だった。


《編集部に脱税疑惑》

《内部告発:記事捏造の常態化》

《スポンサー契約の不正流用》


ネットは、そっちに一気に流れる。


「……あーあ」


古株の職員が、端末を閉じる。


「やっぱりな」


「派手なネタで騒いでるときほど、

足元が燃えてるもんだ」



---


夕方。


一葉は、児島のデスクに書類を持っていく。


「……週刊誌、見ました?」


児島は、湯呑を手にしたまま、あっさり言う。


「ええ」


「もう、別件で潰れたわね」


「……こんな、都合よく?」


若林が、モニターから目を離さずに言う。


「都合がいいんじゃないの」


「世界が、そういうふうに動くのよ」



---


そのころ。


ローカルテレビ局。


前日の天気予報中継の

生データが、

技術室の端末に残っていた。


怪物。

光る箱。

七日町の交差点。


技術スタッフが、思わず言う。


「……これ、世界獲れる映像ですよね?」


数分後。

画面が、暗転。


《緊急アップデートを適用しています》


再起動後、

フォルダは、空だった。


バックアップも、ない。


クラウドも、ない。


ログだけが残る。


《同期エラー:参照不可》



---


夜。


一葉は、軽自動車で帰りながら、

ラジオをつける。


流れるのは、

海外ニュース。


紛争。

選挙。

経済危機。


昨日のことは、

どこにも出てこない。


信号待ちで、

文翔館のシルエットが見える。


夕闇の中で、

ただの歴史的建造物みたいに、立っている。


「……日本だけじゃないんだ」


誰に言うでもなく、つぶやく。


世界が、隠している。


スマホが、また震える。


陽葵からのメッセージ。


> ねえ。

> ほんとに、昨日なにあったの?

> ニュース、もうなかったことになってる。




一葉は、少し考えてから、打つ。


> 何もなかったよ。

> いつも通り。

> 山形は、平和です。




送信。


赤信号が、青に変わる。


一葉は、アクセルを踏んだ。


バックミラーの奥で、

文翔館の時計塔が、

何も知らない顔で、時を刻んでいた。


---


南米、アンデスの山裾。

舗装も途切れた集落の外れに、

トタンと木材を継ぎ足した小屋があった。


中は、異様な光景だった。


古いモニター。

中古のキーボード。

自作の基板。

ファンの音が、絶え間なく鳴っている。


若いギーク——名をエステバンという青年は、

誇らしげに言った。


「クラウドは信用しない。

残るのは、手で触れる場所だけだ」


机の上にあるのは、

ラズベリーパイをベースにした手製のマシン。

市販のOSは入っていない。

自分で組んだ、簡易的な独自環境。

ネットには、必要なときしかつながない。


「切ってあるから、消されない」


その画面の隅に、

一枚の画像ファイルがあった。


ファイル名:

ja_yamagata_04211635.jpg


開くと、

夜の街路。

七日町通り。

フレームの中央に、

光る箱と、影の塊。


ノイズだらけ。

解像度も低い。

でも——

“形”だけは、はっきりしている。


そのとき、

小屋の入口に影が落ちた。


若い東洋人。

黒髪。

穏やかな笑顔。

バックパックひとつ。


「……トオル・ナラ」


そう名乗った。


「そのデータ、

とても、興味がある」


エステバンは、目を輝かせた。


「みんな、ただのフェイクだって言う。

でもこれは——

消された」


ナラは、うなずく。


「うん。

だから、価値がある」


二人は、粗末な木の机を挟んで向かい合う。


「いくらだ?」


エステバンは、少し考えてから言った。


「……一万ドル」


沈黙。


ナラは、肩をすくめる。


「安いね」


その場で、

暗号通貨の送金が走る。

端末が、小さく音を立てた。


《Confirmed》


エステバンは、

USBメモリを差し出す。


「世界で、これが残ってるのは、

たぶん、ここだけだ」


ナラは、それを受け取り、

指先で軽く回す。


「ありがとう」


立ち上がる前に、

ふと、振り返る。


「ねえ」


「君は、

これを“証拠”だと思ってる?」


エステバンは、うなずく。


ナラは、微笑んだ。


「違うよ」


「これはね——

“鍵”だ」


外に出ると、

アンデスの夜風が吹き抜ける。


ナラは、ポケットの中で、

USBを軽く叩いた。


「さて」


「次は、

どこを“開けようか”」


星空の下で、

彼の影だけが、

少しだけ、人間よりも長く伸びていた。



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