025 2026年4月22日(水)_04 仲良し姉妹、隠し事を添えて
夜。
アパートのドアを閉めた瞬間、
スマホが震え出した。
一回。
二回。
三回。
止まらない。
「……はいはいはい……」
通話ボタンを押すと、
画面いっぱいに、妹・陽葵の顔が出てきた。
「ちょっと!!」
音割れするほどの声。
「おねえちゃん、あそこどこ!?
さっきの動画、あれ文翔館じゃないの!?
公務員してたんじゃなかったの!? なんで怪物と箱大仏いるの!?」
一葉は、靴も脱がずに、壁にもたれた。
「……わー!情報のマシンガンやめて!」
「元気じゃない!!
ビデオ通話のスクショ見たらさ、
あそこにお父さんいなかった!?
黒い影の横! 絶対そうだった!」
「……きーのーせーいー!」
「気のせいで済むなら、
世界はこんなに騒いでないから!」
陽葵は、画面の向こうでタブレットを振り回す。
「一瞬だけ!
ネットニュースに出てたんだよ!
“山形市中心部で正体不明の構造物と生物的影”って!
すぐ消えたけど! スクショ間に合わなかったけど!」
一葉は、天井を見上げる。
「……それ、都市伝説系のサイトでしょ?」
「違う!
ローカル局の速報の切り抜き!
クラスのオタク君が言ってた!」
間があく。
陽葵は、急に声のトーンを落とす。
「……ねえ」
「近所の“箱大仏”、
今日、いなくなってるんだけど」
一葉の喉が、きゅっと鳴る。
「……え?」
「昨日の朝はあったのに、
あの騒ぎ以降、ただの空き地になった」
画面の向こうで、
陽葵が唇を噛む。
「お母さん、泣いてる」
「昨日のニュース見てさ、
“また誰か消えるんじゃないか”って」
一葉は、スマホを持つ手に力を入れる。
「……大丈夫。」
「何が!?」
陽葵が、叫ぶ。
「なんかさ、
お母さんが変なこと言うんだよ!
“浮雲さんみたいに、おねえちゃんも消えるんじゃないか”って!」
「……名前、うろ覚えだけどさ!
それ、
昔の人でしょ!?」
沈黙。
一葉は、答えられない。
陽葵は、画面をじっと見つめる。
「ねえ」
「お母さんも、県の職員だよね?」
「……」
「なんで、
みんな、知ってる顔して、
何も言わないの?」
一葉は、苦笑いを浮かべる。
言えない。
話したら多分、我慢できなくなる。
「……それよりさ」
「その頭で、
よく県職員試験、受かったよね」
思わずスマホを落としかける。
陽葵が、続ける。
「むしろさ、
その頭で、
どうやって大学卒業したの!?
単位、神に祈って取ったタイプでしょ!?」
「いま、なんつった?!クソ妹!? 神様には祈ってはない!」
「じゃあ何に祈ったの」
「……箱大仏」
一瞬、
二人とも吹き出す。
でも、笑いは、すぐに消える。
陽葵が、真顔になる。
「ねえ、冗談抜きで」
「おねえちゃん、
どこにいるの?」
一葉は、部屋の中を見回す。
山形市の霞城公園近くの安アパート。
少し行けば商業施設も多く、頑張ればコストコもある。
狭いキッチン。
安いカーテン。
コンビニの袋。
いつもの、
“現実”。
「……家だよ」
「ちゃんと、帰ってる」
陽葵は、しばらく黙ってから、
小さく言う。
「……消えないでよ」
「急にいなくなるとか、
やめて」
一葉は、ため息をつく。
「……明日も、定時で出勤するし」
「税金の書類も、
ちゃんと書く」
「世界がどうなってても、
公務員は、休めないの」
陽葵の泣きそうな笑い声。
「……ほんと、クソ真面目」
通話が切れる直前、
陽葵が言う。
「箱大仏、いなくなってもさ」
「おねえちゃんは、
ちゃんと、そこにいてよ」
画面が、暗くなる。
一葉は、スマホを下ろして、
床に座り込んだ。
小さく、つぶやく。
「……それは、
私が決めることじゃないんだよな」
天井のLED照明が、
冷たい光で室内を照す。
まるで、
何も世界が変わってないように




