表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

206/209

204 2026年5月31日(日)_06 グレート合体

聖メアリー・ティーチング大学病院。

神秘外科入院病棟の廊下。


“会議室”特級エージェント序列第一位――《魔王》ナンバーシックスの貸与端末が静かに着信を告げた。


Nothing Phone (4a) Pro。


端末そのものは市販品に過ぎない。

だが、その中身は別物だった。


Meeting OS。


Androidをベースに独自開発された《会議室》専用OS。

一部ではiOS版も運用されているが、極東地区以外では数が少ない。

霊波変換式戦域通信システムに対応しており、端末が破壊されてもSIMと認証キーさえ残っていれば、別メーカー製端末へ数分で復旧できる。


ナンバーシックスは近くの通話ブースへ入る。

画面に表示された発信者名を見る。


Abraham Coreteau Alcardo


「エイブラハム……《虚》か」


肩を竦める。


「相変わらず人使いが荒いのう」


通話ボタンを押す。

同時に口に含んでいたロリポップを取り出し、指先で軽く弾いた。


キャンディスティックが一直線に飛ぶ。


「……儂じゃ」


乾いた音。


「特に大きな問題は無い」


「まぁ、あの娘も今は涎垂らして寝とるわ」


さらに乾いた音。


「襲撃?」


「……ああ、未然に防いどる」


「今も看護師を狙った糸が飛んできたんで、切っておいた」


視線の先。

床には一匹の子蜘蛛。

キャンディスティックに貫かれ、既に動かない。


「おそらくアトラック=ナチャじゃろ」


苦笑する。


「どうせ奈良にでも頼まれたんじゃろう」


「やる気を感じん」


カラカラと笑う。


「さて」


窓の外を見る。

強い日差しが雲に隠れる。


「さっきのお嬢さんも、そろそろ戦場へ着く頃合いか」


その笑顔は穏やかだった。

だが。


山形の方角へ向けられた視線だけが、

刃のように鋭かった。



---


日曜日の夕方。

部活動帰りの女子高生二人が、文翔館の前で信号を待っていた。


「え、文翔館工事中なんだって〜」


「ほんとだ。なんかシートかかってる」


「門も閉まってるし」


「珍しくない?」


「まぁ、文化財だし、たまにはあるんじゃない?」


少しだけ立ち止まり、建物を見上げる。


「……それよりさ」


「うん?」


「明日もう月曜じゃん」


「うわ、現実見せないでよ〜」


二人は笑いながら駅の方へ自転車を漕いでゆく。


---


音速を超え、日本海を北上する山形ロボ。

津軽海峡を大きく迂回し、岩手県上空を経由するルートで再び南下を開始する。


目的はただ一つ。

弾道射出されたグレートフレームとのランデブー。

コックピットに、背中にマウントした文翔館から今田の声が響く。


「浮雲さん。秋田、青森両方面隊から追加情報です。巨大落下物の正体はスペースデブリ群。微量ですが宇宙塵も確認されました」


「目的は?」


短く問い返す。

若林が通信へ割り込んだ。


「存在の誇示……でしょうね」


一拍。


「平輔、あんたが一九九九年に展開した位相遮断領域。その弱体化が狙い」


さらに続ける。


「それと、一九九九年以降ほとんど研究が止まっているけど、日本列島は世界最大級の位相断層の集中地点なの」


「富士、月山……霊峰群か」


「そう。そして霊脈を束ねている中心が」


浮雲は静かに答えた。


「首都圏結界網」


「その通り」


若林の声がわずかに重くなる。


「あそこが崩れれば、日本だけじゃ済まない。世界中の位相断層が連鎖的に不安定化する可能性がある」


沈黙。

浮雲は操縦桿を握る。


「分かった」


「やることは変わらん」


若林が苦笑した。


「あんたらしいわ」


その時。

武田の声が鋭く響く。


「グレートフレーム接近!」


「ランデブーまで二十秒!」


「十!」


「五!」


「四!」


「三!」


「二!」


「一!」


「合体シークエンス開始!」


浮雲は操縦桿を強く握る。


「緊急グレート合体!」


山形ロボが一気に加速する。

眼前を飛ぶグレートフレームへ肉薄。

寸分違わず相対速度を合わせる。


複数のマニピュレーターが展開。


背部へ固定されていた文翔館中央棟の接続が解除される。

文翔館はそのままグレートフレーム胸部へ固定された。


山形ロボも同時に、

グレートフレームの額にあるドッキングベイに合体する。


――LOCK.


――SYNCHRONIZE.


――SYSTEM LINK COMPLETE.


<1999 YAMAGATA UNIT>


<MODEL : JGR-06>


<GREAT YAMAGATA ROBO>


<REACTOR STATUS : ONLINE>


出力一〇〇%。


二十七年間。

全力を出せなかった三基の炉心が、

静かに目を覚ます。


三炉並列稼働。

霊子炉《如来》。

次元炉《菩薩》。

光子炉《観音》。


その秘めたる出力が、解放された。


一拍。


重低音が世界を震わせる。


巨人の双眸が、


ゆっくりと蒼白く輝いた。


仏像を思わせる静謐な顔貌。

重装甲の機体。


そして。


異様なまでに肥大化した肩。

前腕は70メートル級の機体ほどの長さを持ち、

巨大な拳はビル一棟を握り潰せるほどだった。


その反面、

脚部は意図的に短く、太く設計されている。

全身は、まるで山岳を踏破する巨猿のような低い重心を備えていた。

走るためではない。

跳ぶためでもない。

ただ。

敵の前に立ち、

受け止め、

そして殴り倒すための設計。

その姿は、

まるで霊峰そのものが歩き出したかのようだった。

それは戦うための巨人ではない。

神を打ち倒すための拳。

邪神を殴るためだけに存在する巨腕。


グレート山形ロボ。


それは勝利の象徴ではない。

英雄の証でもない。


一九九九年。

人類最後の戦いで世界を守った、

"最後の切り札"。

その真の姿だった。


守護神が今、

真室川に向かい、飛ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ