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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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019 2026年4月21日(火)_09 怪人、相対する。

山形市役所・展望室。

ガラス越しに、夕方の街が広がっている。


七日町の向こう。

文翔館の赤い屋根と時計塔が、夕日に黒く縁取られていた。


奈良透は、手すりに肘をつき、愉快そうに口角を上げる。


「……割り込まれて弾かれるか。やっぱり動くよね。」


小さく肩を揺らす。


「初陣が一番かわいい。」


あの“箱”が、正門前に立っている。


風がねじれ、看板が鳴り、ガラスが震えたはずなのに――

人は死んでいない。


それが、奈良には面白かった。


「これでまた、彼を乗せて遊べる。」


背後のドアが、静かに開く。

階段を上がってくる足音。


軽い。

だが、足取りはぶれない。


気配だけが重い。


黒衣の男が現れた。


フードの影で表情は読めない。

だが、その視線だけが刺さる。


奈良は振り返りもせず、声をかける。


「浮雲。」


「君の後輩、やるじゃん。」


黒衣の男――浮雲平輔は、奈良を見据える。

その視線には、隠しようのない殺意が込められていた。


声は低く、乾いている。


「何故ロボにアクセスできる。」


一歩、前に出る。


「霊体認証は……貴様でも突破は無理なはずだ。」


わずかに目を細める。


「しかも貴様、彼女の意識にまで干渉していたな。」


奈良は肩をすくめる。

そして、ゆっくり袖をまくった。

細身の体。


だが、その右腕は異様に鍛え上げられている。

皮膚の下で、何かが“脈”を打つように光った。


「君と同じことをしたんだよ。」


奈良は笑う。


「言わば、リサイクル?」


軽く腕を回す。


「君の右腕があれば、霊体認証なんて簡単に突破できるよ。」


わざとらしく見せつけるように、腕を振る。


「まさか。」


少し首を傾ける。


「まだ“右腕返せ”なんて言わないよね?」


空気の粘度が変わった。

展望室の蛍光灯が、一度だけ瞬く。

浮雲が一歩踏み出す。


床が鳴った――


気がしただけで、実際には音はしない。

奈良は、その反応に満足したように笑った。


「おっと。」


腕時計をちらりと見る。


「そろそろZoomの打ち合わせなんだよね。」


肩をすくめる。


「オンラインだと、照明とマイクのセッティング大事でしょ?」


言い終える前に。

奈良の輪郭が、影に溶けた。

残ったのは、からかうような声だけ。


「またね、浮雲。」


少しだけ間を置く。


「石原さんにもよろしく。」


展望室は、静まり返った。

浮雲は、ガラスの向こうを見下ろす。


文翔館の方向。


あの“箱”が立っている場所を。

夕日の最後の光が、街を赤く染めていた。


「……また、奴らの侵攻が始まるのか……」


答える者はいない。

ただ、山形の街並みが、ゆっくりと夕闇に沈んでいった。


---


文翔館・正門前。


さっきまで“そこ”にいた山形ロボが、動かないまま、終わりを告げた。

文翔館前の広場――地面の一部が、音もなく“開く”。

まるで、はじめからそういう構造だったみたいに。


山形ロボは、何事もなかったかのように、ゆっくりと沈んでいく。

巨大な箱が、地中に吸い込まれる。 金属が擦れる音も、油の匂いもない。


現実味がないのに、目だけは嘘をつけない。


スマホのレンズが、一斉に向く。


若い子は、興味で。

それ以外は、懐かしさと、嫌な汗と、言葉にできない罪悪感と――ごちゃ混ぜの顔で。


誰かが、ぼそっと呟いた。


「……山形ロボ」


その“真名”が漏れた瞬間、 何人かが顔をしかめ、周囲を見回した。


言ってはいけない。

でも、言ってしまった。


---


文翔館地下深く。


金属の匂いが濃い。

冷たい空気の層が、肌にまとわりつく。


コックピットハッチが開いた。


片桐一葉が、半身だけ外に出た瞬間、叫んだ。

眼鏡が温度差で曇る。


「中、死ぬほど卵くさっ!! ファブリーーーズ!!」


沈黙。


そして、誰かの咳払い。


「……おかえり」


見上げると、そこは“謎の秘密基地”だった。


古い蛍光灯。

床に引かれた白線。

工具の並ぶ壁。

搬入用のレール。


そして、見覚えのある顔。


児島裕子。

若林悠。


それに、やたら落ち着いた空気の年配者――鎌田。

一葉は、足元を見下ろして固まる。


「……え、なにここ。うちの部署、こんな……え?」


周囲を見回す。


「取引業者でたまに来る、よく分からない人たちもいる……」


作業服の整備員たちが、無言でファブリーズを差し出した。


「助かります!!」


一葉はそれを受け取る。


そして、次の瞬間。

現実に戻り、早口になる。


「ていうか室長! これ残業代出ます!?

あと私、自動車免許しかないんですけど、捕まりません!?


これ……操縦って資格いりますよね!?

いるよね!?」


若林が、眉間にしわを寄せたまま苦笑する。


「まず落ち着きなさい。あなた、さっき“局所位相固定”を――」


「横文字やめてください! こわい!」


児島が、湯呑を握る。


その指先が、ほんの少し震えていた。


「……片桐さん」


「はい……」


「あなた、さっき正門前で……“選ばれた”。

たぶん、偶然じゃない」


一葉は目を泳がせる。


「え、や、だって……観光客の子、迷子で……つい……」


鎌田が、机の上のガンダムのフィギュアを、何でもないふうに元の向きへ戻す。


その仕草だけが、妙に現実的だった。


「つい、ね。そういうのが一番厄介だ」


一葉は引いた。


「……鎌田さんって、やっぱり重度のガノタ?

今のもガンダムのセリフ?」


若林が即座に言う。


「そこは今どうでもいい」


児島の視線が、一葉のスマホへ落ちる。


画面は僅かに暗い。


だが、待ち受けの青年の笑顔が画面に映る。


「……片桐さん」


「はい?」


児島は、できるだけ平静な声で言った。


「あなた、最近見てる“投資チャンネル”。

名前、もう一回言って」


一葉は、得意げに胸を張る。


「奈良トオルの投資チャンネルです!


用語も覚えてきました。

“ロット”と“損切り”と――」


その瞬間。


児島の顔色が変わった。

若林も、息を止める。


「……やっぱり」


児島は、声を落とした。


「……来てる。もう、いる」


一葉は笑ってごまかそうとする。


「え、なにそのノリ。

うちの部署、ホラー系なんですか?


無理なんですけど。

私、推し活で忙しいんですけど」


返事はなかった。


代わりに。

低い振動が、一度だけ響く。


山形ロボが、“アイドル状態”へ移行した合図のように。


一葉は、背筋が冷えるのを感じる。

それでも口だけは止まらない。


「……あの、この部署、定時で帰れるって聞いたんですけど!!」


若林が、静かに言った。


「いらっしゃい。残業友の会へ。」


その言葉の本当の意味を、一葉はまだ知らない。


ただ一つ。

これは、彼女にとって――


これから始まる激動の一年、その幕開けの瞬間だった。


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