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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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020 2026年4月21日(火)_10 地下ドック、さよならQOL

文翔館・地下ドック。


片桐一葉は、配線だらけの天井と、油と金属の匂いが混ざった空気を見上げながら、思わず口にした。


「……え? そんなの、プライベートは?」


児島と若林の顔を、交互に見る。


「クオリティ・オブ・ライフは?」

「結婚とか……できなくないですか?」


一拍。


児島と若林が、ぴたりと声を揃えた。


「「クソ旦那とは、別れた!」」


空気が、止まる。


一葉は、ゆっくり瞬きをした。


「……あ、あの、すみません。聞いちゃいけないやつでした?」


若林が肩をすくめる。


「いいのよ。どうせここに来た時点で、人生の難易度は一段上がるから」


児島は湯呑を持ち直しながら、ため息混じりに言う。


「仕事と怪異と元配偶者。どれも手強いわ」


一葉は、半ば押されるように階段を登らされた。


山形ロボの胸部コックピットから整備デッキへ降り、

そこからさらに整備用の昇降階段を上がる。


およそ二十メートル。


ビル六階分に相当する高さだ。


息が切れる。


分厚いドアを開いた瞬間。


目に入った光景に、一葉は言葉を失った。


整備ドックの片隅。


配線とモニターと古いロッカーに囲まれた空間。


その中に――


いつもの事務室が、そっくりそのまま、あった。


見慣れたデスク。

コピー機。

壁に貼られた、月末締め切りのチェック表。


そして。


自分の机。


ペン立ての中身も。

引き出しの中のレシートの束も。

推しの小さなアクリルスタンドも。


全部、ある。


「……」


一葉は、ゆっくり手を伸ばし、椅子の背を叩いた。


硬い音がする。


夢ではない。


「……ここ、どこ?」


鎌田が、ガンダムのフィギュアを一体ずらしながら、淡々と答える。


「地下、約五十メートル。山形ロボの秘密ドックだ」


一葉は、ゆっくり振り向く。


「……なんで、うちの事務所があるんですか」


若林が、こともなげに言う。


「スライドしてきたのよ」


「……は?」


「非常時用。上が危なくなったら、そのまま“下”に来る。人も、机も、書類も」


一葉は、口を開けたまま天井を見上げる。


「……私が言うのもなんですけど」


指で天井を指す。


「これ、税金ドロボーじゃないですか?」


一瞬、沈黙。


児島が真顔で答える。


「ええ。だから帳簿は齊藤さん以外触れない」


「意味、分かんないです!」


鎌田が工具を拭きながら、ぽつりと言う。


「壊せなかったから、残した。残したから、隠した。隠したから、予算に混ぜた」


一葉は、頭を抱えた。


「……もうやだ、この部署」


そのとき。

デスクの端末が、ぴ、と鳴った。

若林が画面を覗き込む。


「報告書、雛型できてるわ」


一葉は、条件反射で椅子に座る。


「……あ、はい」


画面に表示されたタイトル。


《正門前 異常事案・初動対応記録》


一葉は、指を止めたまま、ぽつりと呟く。


「……今日のこと、ですか」


児島は、静かにうなずいた。


「今日のこと。たぶん、これからのこと」


一葉は、深く息を吸う。

キーボードに手を置いた。


「……とりあえず」


画面に向かって、小さく言う。


「今日は、報告書書いて終わりってことで……いいですよね?」


若林が、少しだけ笑った。


「ええ」


一拍。


「今日は、ね」


その言い方が、妙に引っかかった。

地下五十メートルの奥で。

山形ロボは、静かに“待機”している。


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SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
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