表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

185/200

184 2026年5月26日(火)_04 不可視の死

「“箱”の司令官、潰させてもらうよ!」


棘の雨を降らせながら、

グラーキが笑う。


イルリガードル台を、

まるで槍のように巧みに操る。


そのフックが、

山倉の足を刈り取ろうと低く走った。


「私の棘ばかり見て、

足元の注意がおざなりなようだが?」


しかし。


山倉の靴底が、

そのフックを踏み潰す。


「ご忠告、感謝!」


無数の棘の弾幕。

山倉は、最小の動きでそれをかわす。


そして――


右の正拳突き。


続けて、左の突き。


拳を、


その延長として。


9㎜弾丸を放つ。


左右、各一発。


発砲音。


直後に、

加速魔法が重なる。


破裂音。


弾丸が音速を突破する。


棘の隙間をすり抜け、

グラーキの頭部へ着弾。


だが。


神気の層。


衝撃が、阻まれる。


しかし――


弾丸に刻まれた

ハガラズのルーン。


破壊の意思。


その慣性が、


神気の層を、

貫いた。


グラーキの頭部へ、

甚大なダメージが走る。


そして。


間髪入れず。


弾丸と――


“同じ速度”で。


鬼の拳が、

グラーキを殴り飛ばした。


衝撃。


ヨーロッパ系青年を、

防御の神気の障壁ごと、

一気に吹き飛ぶ。


実質――


四発の音速のダメージ。


山倉が、拳銃を軽く回す。


「俺はな」


低く言う。


「射撃が苦手でな……」


肩を鳴らす。


「鎌田のアドバイスで、

銃を“刺突武器”と認識して使っている」


拳銃を構える。


「武器の切っ先なら、

体の延長だ」


笑う。


「術理として、式神の攻撃も“乗る”」


そして、冷たく言い放つ。


「あと左右合わせて24発」


「予備のカートリッジ入れると48発」


視線が、邪神を射抜く。


「1999年以降の位相遮断領域で

弱体化してるあんたらなら」


拳銃の照準が、ゆっくり上がる。


「十分に効くよな?」


口元が歪む。


「なぁ――ナメクジの神様よぅ」


そして。


戦闘狂の笑み。


「今日は、タコ殴りにさせてもらうよ!」


夕暮れの交差点。


人類が、

邪神を押し返していた。


---


シャウルスが、背中の無数の棘を広げた。


触手のように蠢く棘。

両手の棘も加わり、二刀流のように振るわれる。


山部へ、

嵐のような連撃。

棘の1本1本が対物ライフル以上の貫通力。


「ずいぶん粘りますね……」


シャウルスが、愉快そうに言う。


「人の身でこの猛攻。

凌ぐだけで限界では?」


棘が地面を抉る。


「……まぁいいです。

私も貴方ばかり相手にしていられないので」


その瞬間。

山部のLEDフルフェイスマスクの額が、煌めいた。


しかし。


それはLEDの光ではない。


もっと強く、

もっと獰猛な輝き。


次の瞬間。


山部は、

シャウルスの二刀流の棘を――


両手で、

握りしめていた。


金属を握るような音が鳴る。


「アニメとかの三流の悪役ってさ」


山部が言う。


「よく“まぁいい”って言うけど」


ぐっと力を込める。


「私、現実で使ってる人、

初めて見ましたよ……」


「何ぃ!?」


シャウルスが怒号を上げる。

さらに猛攻。


だが。


山部の動きが変わる。

狼人の闘気が動きにシンクロする。


回避が――

徐々に、

小さく。

コンパクトに。


無駄が、消えていく。


山部は知らない。


彼が冗談半分で

「賢者の石」と呼んでいる宝玉。


それが――


真実、異世界の拳王たちの戦闘記録を蓄えた、

本物の高密度情報集積体、賢者の石であることを。


千の魔族と戦った拳王の技。


その経験が、

宝玉の中に刻まれている。


そして今。


通信講座の空手。

フィットネスクラブの格闘運動。


山部が積み重ねてきた

半端な技の断片が――


宝玉の戦闘記録と重なった。


その結果。


今この瞬間。


山部の動きは――


達人。


山倉と、

同じ領域へ届きつつあった。


だから。


「ハイッ!!!!!!!」


ストレート。


異世界の多重防御術式に守られた拳。


鋼を超える強度の棘が――


砕けた。


そのまま。


山部の腕が伸びる。


シャウルスの頭部を、

がっちりとホールド。


そして。


必殺の膝。


側頭部へ――


炸裂。


神気の障壁が光る。


だが。


山部の防御術式が、

それを相殺する。


もう一撃。


膝。


さらに――


三撃目。


膝が、


容赦なく。


シャウルスの頭蓋へ、

叩き込まれた。


---


「この地は、やはり水の気が強い……いける!」


カルは竜骨の剣を正眼に構えた。


静かに息を吸い、

詠唱を始める。


ハコ子の声が割り込む。


>カル!前回と同じ水龍を呼ぶなら補足します!

>山形市の城郭は、五つの堰と霧に守られた城という逸話があります!

>魔術に使えるはずです!


カルの目がわずかに開く。


「ハコ子様!助かります!」


剣先が地面をなぞる。


「この地の水の龍、顕現させます!」


竜骨の剣が、

わずかに青く輝いた。


カルは詠唱を続ける。


「淵より出でよ。

主が創りし最強の軛。」


足元の空気が、

湿る。


「鋼の鱗は盾を並べ、

その鼻息は燃える炭火。」


霧が、

地面から立ち上がり始める。


「天を仰ぎ、

深淵を掻き乱す者よ。」


その瞬間。


山倉が叫ぶ。


「先生!連中、本気出してきた!」


棘が一斉に広がる。


「攻撃に一切触れるな!」


棘が地面を突く。


「ガードした腕ごと

那由他の彼方へ持っていかれるぞ!」


山部も叫び返す。


「はい!」


次の瞬間。


棘が刺さったアスファルトが――


空間ごと、

えぐり取られる。


裂けた空間片が、

にわか雨のように頭上から降り注ぐ。


それでも。


山倉と山部は、

全弾回避。


すり抜けるように前へ出て、


二柱へ拳を叩き込む。


その間も、

カルの詠唱は止まらない。


「何者より鋭く、

何者より強固。」


足場のアスファルトは、

すでに消えていた。


地面が露出している。


それでも二人は、

猛攻をやめない。


コンマ一秒でも。


敵の注意を、

カルと陽葵へ向けさせないために。


カルの声が高まる。


「遍く水の皇、

リヴァイアサン。」


霧が濃くなる。


湿気が、

風を変える。


カルは剣を掲げる。


「その眷属たる幾千の軍勢より、

この地の砦を守護せし者!」


霧が渦を巻く。


「五頭の霧を纏いし王!」


霧が、

龍の形を取り始める。


「その真なる力を、

今ここに示せ!」


剣が振り下ろされる。


「――霧龍顕現!!」


その瞬間。


山形の夕暮れの空。


街を覆う霧が、

一斉に動いた。


五つの堰の伝承。


山形の霧。


街の水脈。


それらすべてが呼応し、

巨大な龍の輪郭が現れた。


「陽葵!こちらに!」


カルが叫ぶ。


「あなたのレベルを、最大に借ります!」


カルが陽葵の手を取った。


次の瞬間。


霧が渦を巻き、

五つの巨大な龍が空に姿を現す。


二人は、

その主たる頭部へと乗っていた。


霧の鱗。

夕焼けに染まる巨体。


カルは陽葵の手を強く握る。


「お二人は僕らの後ろに!」


山倉と山部へ叫ぶ。


「フォッグブレス!」


五頭の龍が口を開く。


「極光の咆哮を聞け!」


沈みかけた夕日。


その煌めきが、

霧の龍のブレスに吸い込まれていく。


五つの霧の奔流。


それが、

一つへ重なった。


巨大な凸レンズの層。


霧の層が、

光を屈折させる。


収束。


密度。


熱。


輝き。


空中に、

茜色の聖なる五芒星が描かれる。


夕日の赤が、

橙へ

黄へ

緑へ

青へ

紫へ


そして――


人類には不可視の光へ。

霧の層が共振し、太陽光の特定帯だけを選択的に収束する。


カルが叫ぶ。


「この地の龍の咆哮の前に――邪悪よ滅せよ!」


竜骨剣が振り下ろされる。


深淵の不可視光(アビス・レイ)!」


「死の光に焼かれ、砂となれ!」


――


……何も起こらなかった。


破裂もしない。


爆発もしない。


光もない。


音もない。


何事も、起きない。


シャウルスが、思わず笑う。


「まったく、つまりませんね」


肩をすくめる。


「何も起きませんが?」


グラーキを見る。


「ねぇ、お父様?」


グラーキも、怪訝そうに龍を見上げる。


「まったくつまらぬ」


鼻を鳴らす。


「その龍は、こけおどしか?」


イルリガードル台で、

龍を指そうとした――


その腕が。


崩れた。


さらりと。


砂のように。


「……なにが!?」


シャウルスが一歩踏み出す。


その足も。


崩れ落ちる。


「……ん?」


首を傾げる。


道路標識が、真っ白になっている。


色が消えていた。


だが――


「目が……見えぬ……?」


グラーキの声が揺れる。


神たる由縁の神通を駆使するがゆえに、

五感は常に複数の位相で世界を認識している。


その分だけ、

変化の理解が――遅れる。


「お父様……?」


シャウルスが振り向く。


二柱の邪神。


手が。


足が。


体が。


ゆっくりと。


砂へ変わっていく。


皮膚が崩れ、

肉がほどけ、

骨が細かく砕けていく。


形が、崩れていく。


静かに。


音もなく。


ただ、

風にほどける砂のように。


ハコ子の声が、慎重に確認する。


>これは……紫外線……ですか?


>しかも、皮膚や組織の細胞が……

>DNAレベルでズタズタになる強度の……


カルが、静かに答える。


「さすが賢者、ハコ子様」


霧龍の主頭の上で、

カルは眼下を見下ろす。


崩れ始めた邪神の姿。


「彼らは受肉していた」


低く続ける。


「そして“色”を持っていた」


少し目を細める。


「ならば――」


剣をわずかに下ろす。


「光もまた、刃になる」


カルの視線は、

ゆっくりと砂へ変わり始めた邪神を捉えていた。


「昔、一度だけ使ったことがあります」


夕暮れの光が、

霧のレンズを透過する。


「無臭の毒などには」


「魔術の防壁は、一瞬だけ」


「ほんの一瞬だけ、発動が遅れます」


カルの声が低くなる。


「その一瞬でも」


「この不可視の“光”が当たるなら――」


静かに言った。


「その肉体は、砂と朽ちます」


「不死者とて、早々蘇生は困難」


シャウルスが、笑う。


崩れながら。


「……確かに」


「ここまでされちゃ、今回は撤退するしかない」


父を見る。


「そうですね?お父様」


グラーキが、頷く。


体はすでに半分、砂になっている。


「ああ」


カルを見る。


「カル・ヴィー・サージュ」


ゆっくりと言う。


「その名も刻もう」


シャウルスも続ける。


「カル・ヴィー・サージュ」


砂が風に散る。


「私もその名――刻もう」


夕暮れの空。


霧の龍が静かに消え始める。


そして。


邪神の身体が、


音もなく。


砂となって、


空へ消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF / ロボット / 地方都市 / 行政・公務員 / 都市伝説
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ